また、貴方ですか
日が射して目覚めた朝、ミアちゃんはボーンさんの上で寝ていた。落ちない仕組みは分からないけど、一番安全な所で寝ていた。
『また来ます』と言って別れた。先ずはハイバードの方向に向かって走っている、やはり道の方が走るのは速いので、街道を走ってカイトを目指す、ミアちゃんはまた寝ている。よく寝る子は育つと聞いた事があるので実行しているのだろう。
ボーンさんの場所から川に出た所を走っている。もう少し走れば、人間のドラゴンさんの畑が見えて来る。
ハイバードには寄るつもりがないので、あぜ道を北に進んでカイトに続く街道に出る予定だ。
「ミア、光の雫はどうなっていたの?」
「はい、浮いていました、建物の上から降り注ぐ光で光の雫が出来ていたの、ユーリが取ると直ぐに次の光の雫が出来たんだよ」
「浮いているの、それは不思議ね」
「はい、キラキラして綺麗でした」
「そうね、キラキラして綺麗よね」
ミアちゃんは神殿の光の雫の話をしているけど、アメリアさんは手に持っている光の雫を見て言っている。
「ユーリ、どうして昨日は帰って来なかったんだ?」
ベルンさんに昨日の事を聞かれた。そうだな、2泊もしたんだから報告しないと。
「遊びすぎてカイトに入れないと思って、昨日はボードンさんの所に泊まりました」
「ドラゴンの所まで行って来たのか、こないだのベルンみたいにまた腹を壊していなかったか?」
「あの時の事は、もういいだろ」
「元気でしたよ」
「ユーリが帰って来ないけど心配はしていなかっよ」
夕食を食べるのを止めてロードさんが『野菜スープの大盛をお願いします』と僕の夕食を注文してくれた。ミアちゃんの夕食は焼き立てのハンバーグだ。僕は、自分の分を頼むのを忘れていた。
「私達はのんびりしていたよ、仕事の方は何もしなくていいからね。ミア達が帰って来たからね、明日出発しよう」
「はい、今日は早く寝ます。ほぼ一日走ってました」
夕方に着いたカイトの酒場、いつもの様にのんびりと食事をしている。ミアちゃんはお昼抜きだったので、パンを多めに食べている。
明日はハイバードに向けて出発だ。
カイトとハイバードの中間位の所を進んでいる、景色はいつも通り草原だ。こんなに印象に残らない景色ばかりだと景色で何処か判断は出来ない。
この頃の習慣を毎日全員がしている。今は馬車の中でミアちゃんが文字の勉強をしている。
「ミア、良く出来ました」
「やった~、間違えなかった」
2人は楽しみながら勉強をしている、雑談もしていてその話の中の文字もその時に教えている、飽きない様にしているのだろう、先生になれるなアメリアさんなら。
「煙が上がっているな、お昼の用意をしている様だな」
「確認に行って来ます」
「おいユーリ」
嫌な予感は当たらないけど、気にならない時が危ない。
全力疾走だ。
街道から見えない場所に停まっていた馬車は無事だ。
反対側の草原の中に向かうと『助けてくれ~』と聞こえてきたので急いで薬を出す。
「ビリビリでいいですか?」
「ビリビリでいいです」
怪我をして地面に座る男性の腕と足に傷薬を塗る。
「他にはいますか?」
「街道と反対に逃げて行った、私が囮に」
「もう治っています、街道に出てロードさんに教えて下さい。僕は探しに行きます、ライナさん」
「分かった、4人だ。探してくれ」
倒れていたライナさんは起き上がって、ロードさん達のところに走って行った。
「ううう、止めてくれ。まだ死にたくないんだ」
ビリビリが効いてる、ビリビリが分かるなら大丈夫だ。
「もう治りました、街道の馬車の所に戻って下さい」
「君は、ロードといた少年だよな」
「はい、他の人を探します」
薬は塗ったのでもう大丈夫だ、光の雫を入れて調合してよかった。
「シューパン、シューパン、シューパン」「シューパン、シューパン、シューパン」
「大丈夫ですか?」
「ありがとう」
この人達は足が遅いのだろう、距離が離れていない。振り向けばさっきの人が街道に向かって走っている。
「馬車の所に戻って下さい、街道の方には魔物がいません」
後2人だ、早く探そう、これ以上離れたくない。
「シューパン」
「あの、そこから降りて来て下さい」
足が速くないので直ぐ近くの大岩の上に避難した様だ。
僕がこれまでに倒した魔物はゴブリン4体、コボルト2体、グール1体だ。グールは大岩に登れないのでジタバタしていた。
「降りれないんだ、腰が抜けた」
「俺は、高いのが苦手なんだ」
これで全員だ、この人達を連れて行けばライナさんの仲間は全員無事だ。
「ありがとう、もう駄目だと思った」
「何でいつも護衛を付けないんだよ」
「カイトで見つかるはずがないんだよ、他の街からセナの片道だけだと誰も警護をしてくれない」
そうだな、帰りも同じ所を通るなら危険は2回だ。セナに向かう護衛だと報酬が高い、安くしたいライナさん達は護衛を雇う事が出来ない。セナは西南の隅だ、それにワームがいるので尚更、冒険者も行きたがらないだろう。
「悪い、言いすぎた」
「いいさ」
煙はお昼の用意をしていたからだった。馬車の被害がないのは、向かって来た魔物から逃げるのに馬車から離れたからだとライナさんの仲間の人が言っていた。
「しかし、俺は2回もユーリ君に助けられたんだな」
「気にしないで下さい、偶然が重なっただけです」
薬の調合を教えて貰っていなかったら救う事も出来なかった。改めて、会長のマリサさんに感謝だな。
「ライナ達は帰りなのか?」
「ああ、そうだよ、食料を一杯積んで来た」
僕の干し肉を食べても運んでいる食料は食べないんだよな、偉いのかそれとも・・・・ずるくはないよな、分からないけど、運んでいる食料は食べないのは分かっている。
「どうだ、俺達と一緒に帰らないか、警護はユーリ1人しかいないけど、他に警護を頼まなくていいくらい強いんだぞ」
「まあ、ユーリ君はSランクだからね、その位強いだろう」
「知っていたのか?」
「ああ、セナでランク更新の時に居たんだよ、ユーリ君はSランクには事情があると言っていたけどね」
「なんとユーリは、春の王都のコロシアム優勝者なんだぞ」
「それは、凄いな」
何でロードさんが、自分の事の様に自慢話をしているんだ、どうでもいいのに優勝なんて。勝たないと悲しむ皆さんがいた、最後まで勝たないといけない事情があっただけなんだけどね。
まあいい、皆のお昼の片づけを始めよう、同行者が増えた。
「門が見えるぞ、ハイバードだ」
街道を進んでいると、今日は馬車とよくすれ違った。
ここから見える門は並んでいる人がいない、街から出て来る馬車が多い様だ。
街道脇の畑には必ず大樽が置いて有る、あれを見ると畑の持ち主の畑の広さが分かる。それとネズミ対策がされている事が嬉しい。
畑の作物に視線を向けると涙が出そうになる、田んぼは無いのかと、野菜よりご飯が食べたい。魚沼産コシヒカリが食べたい、焼き肉で。勿論、どんぶりの大盛だ。
「さあ、門だ」
「皆さん、カードを出して貰えますか?」
「はい、これが全員の分です」
ライナさん達以外の僕達皆のカードを見張りの人に渡した。
「中に入ったら、どちらかかに曲がった方がいいですよ、お祭りのお客が門に向かって来るので」
「今日はお祭りでしたか、では、最終日なんですね」
「そうです、では、お気を付けて」
「ありがとう」
ロードさんと見張りの人の会話からお祭りの最終日だと分かった。
街に入った僕達は、ロードさんの知り合いの宿屋さんの裏庭手に回って、頑張ってくれた馬のお世話をする。ジェシーは元気かな、ポール子息の家では美味しい食べ物を沢山貰っているんだろうな。
「このリュックを、カルテアのマリサさんに届けて下さい」
「会長にですね、今年の新薬も会長が何個も作ったそうですよ」
「そうですか、弟子としては嬉しいですね。どんな新薬なのか分かっている事はあるんですか?」
「会長は秘密主義なので、当日まで分からないんですよ。ただ凄い新薬だと噂になっています」
まあ、光の雫とドラゴンの血液で調合でもしたんだろう、しかしどんな効果がある薬だろう。
光の雫をカイトで送るのを忘れていたので、ハイバードのギルドから送る事にした。手紙は来ていなかった。ドラゴンの血液は先に送った、光の雫も届けば喜ぶだろう。
「では、よろしくお願いします」
「はい、承りました」
「まだ露店を開けているところがある。何か買って行こう、たまにはお菓子が良いな。甘いのしか売ってないだろうけど」
開いている露店を見て回って買ったのは、焼き菓子のクッキーだ。お祭りを楽しむのは難しい、いつもと違う事をしたいとつい思ってしまう。
そういえば、ウパーを買ったのはこのハイバードだったな、ここから見えるあそこには誰もいない。お婆ちゃんが喜んでくれたんだよな。
「あなたは、私からお魚を買ってくれた男の子だよね」
僕の前に立っているのはウパー売ってくれたお婆ちゃんなのかな、顔は覚えていないんだよな。
「ありがとうございました、友達が喜んでいます」
「それは良かった、今年も1匹見付けましたよ」
「ええ。それは凄いですね。それでいくらで売れたんですか?」
「売れたら、貴方を探していないよ。どうだい買ってくれないかい?」
「買います、見せて下さい」
お婆さんはポケットからあの時と同じ瓶を出して僕に渡してくれた。目の前にかざして見ると、色は僕の好きな水色だ、蛍光の水色だ。運を信じた事が無いけど運がある。
「幾らで売ってくるれるんですか?」
「はい、幾らがいいですかね?」
またですか、何で聞いて来るかな。確か金貨1枚でも買うと誰かに言ったような気がする、それとも自分の中で金貨1枚でも安いと思ったのかな。
「金貨1枚でいいですか?」
「そんなに『じゃ、金貨2枚』高くていいんですか?」
何故この会話の流れなんだ、もしかして買いたいと思いすぎて焦っているのか僕は。
「薬師ギルドに付いて来て下さい」
「はい、付いて行きます」
薬師ギルドで僕のカードからお婆ちゃんのカードに金貨2枚を入れて貰った。
「ありがとうございます、次も楽しみにしています」
「僕もです、ありがとうございました」
謎のお婆ちゃんは帰って行った。
ルンルン気分で宿に帰る、クッキーはお婆ちゃんにあげた。
「どうだ、美味しいか?」
「キュ~」
小さいハンバーグを作ってウパーにあげている。皆には秘密にしているので、部屋で食事をあげている。
美味しいと言ったんだな、いつかミアちゃんみたいに話す事が出来る様になるんだな。
ウパーを瓶に戻して、夕食を食べに行く。
ライナさん達も違うテーブルで夕食を食べている様だ。アメリアさんは部屋にいるのでそれ以外の皆は酒場で夕食を食べている。
「そうだ、ベルン」
「ん、なんだ」
「セナに帰ったら結婚だな」
ヒューラさんが皆が忘れていた事を指摘した。
「・・・ああ、忘れていた。そうか、俺は結婚するのか」
当事者が忘れていたんだ、僕が忘れるのは仕方ない。
「おいおい、忘れていたのか?」
「はい、忘れていました」
僕とミアちゃんは会話に加わらないで食事を続ける。
ロードさんの質問にあっさりと忘れていたとベルンさんが言っている。
セナに向かうのは色々な事情で早くなったのかな、それとも色々として来たので遅くなったのか。
「キュ~」
「沢山食べてね」
「どうするんだ、何かやるのか?」
「どうなんですかね」
当事者が行商人だと予定とか組めないけど、この世界の結婚は式をするのだろうか、先ずはそこからだな。
「誓いの儀はすると思いますけど、食事会とかは急には出来ないと思います、準備が大変ですから」
「そうだな、食事会は大変だったよ。食事を用意して近所の人に配る、その後に皆で食事だからね」
「お祭りより、簡単だね」
ミアちゃんが珍しく意見を言ったぞ、大人になってきた証拠か。
「ミア、どうしてだ」
「だって、ユーリはお祭りの大勢の人に食事を作っているよ」
大人はそこで僕の事を言わないよ。皆の視線が僕に集まるよね。
「おお、そうか、ユーリが居たじゃないか」
「そうだ、ベルン、ユーリに頼めばいいんだよ」
「そうだな、ユーリ、お願いだ結婚の食事の用意をして下さい」
何で最後は丁寧語なんだ、大人だと断らないんだろう。仕方ないここは。
「すいません、子供なので皆の口に合う料理が出来ません」
「いいよ、どうせ美味しいのしか作れないんだろ」
そんな、まずい物だって出来る・・・・・何かある筈だ、何か失敗した料理は、思い出せない。インチキ知識が不味い物を作らせてくれない、両親が共働きで、経済的に外食をしてこなかったツケがここで出てしまった。あ、両親が共働きなのを思い出したぞ。
「ユーリ、悩んでも不味かった料理を思い出せないんだろ」
エスパーか、ヒューラさんが進化している。
「ベルンさん、僕に考えがあります」
「何だい」
「この結婚をするのはベルンさんと何処かの女性です、その女性の手料理を今までにお世話になった人に配りましょう、両親もまあいい子ね、料理が出来て美味しいのを作ってくれるのねと結婚の当日に両家は円満になりました」
完璧だ、理想の料理の提供方法だぞ。
「ユーリ、彼女は僕の家の隣なんだ、両家は昔から円満なんだ、それに料理は誰かに頼むものなんだよ、そうですよね、ロードさん」
「そうだな、私の場合は知り合いの食堂に頼んだ、忙しくなると喜んでいた」
逃げ道はなしか、忙しいのは好きだけど、結婚式の料理とはどんな料理なんだ。
「結婚の料理とは、どんな料理をお出しすればいいんですか?」
「作る人に任せるのが普通かな」
僕の嫌いな普通かな、普通なんてないよ・・・・僕に頼んだ時点で非常識になるんだぞ。
「ユーリ、頼むよ。他に頼める知り合いがいなんだよ」
僕はもう直ぐ16歳、ベルンさんは22歳だった筈だ。あれ、そんなに歳が離れてないぞ。ロードさんが24歳かな、皆若かったんだな。
「それでいつなんですか結婚は?」
「まだ決まってないよ、セナに帰ってから話さないと」
「すいません、結婚が決まってからにして下さい」
「決まっているよ、話さないといけないだろ」
ベルンさんの結婚の話をしていたら、夕飯を食べ終わったミアちゃんは寝ていた。寝ているのに気が付いたロードさんはミアちゃんを連れて部屋に戻って行った。
「料理は考えときますけど、いつやるかは僕の都合でいいでんすか?」
「ああ、いつでもいいよ。両親達と話し合わなければいけなかったのは料理の事だったから、ユーリが引き受けてくれるなら、いつでもいい、よろしくお願いします」
「セナに着いてから色々考えます、予定が組めたらベルンさんに知らせます」
「宜しく」
面倒だが、これまで一緒に旅をして来たので引き受けるしかない。お世話をしているだけだが仕方ない、これが旅は道ずれ世は情けなのか。




