集落
「いいな、いいな、乗りたいな」
「私も乗りたい」
戦闘が終わると、レイさんは僕の周りをグルグルと回っている。
「レイ、ミアちゃんが乗っているんだから諦めろ」
「いいじゃない、交代しても」
「サラちゃんに乗ります」
ミアちゃんの方が大人だ。
「私が乗っても大丈夫なのね、便利だわ」
子供用の背負子に大人が乗っていて、それを背をっているのが子供だ。
「レイ、早く降りてよ。私も乗りたい」
「レイさん、楽しい?」
「とても楽しいわね」
ミアちゃんは後ろから付いて来ているので、レイさんと対面している。
レイさんが乗っているのはいいのだが、暴れているので肩が疲れる。
レイさんが下りると、ワンダーさんの後にはボードンさん達も乗った。
「そんなに難しくないな、ロープ作りは」
「そうね、もっと早く教えて貰えばよかったね」
「私は嫌よ、チマチマしている作業は嫌い」
「作れる様になれば便利だぞ、レイ」
レイさん以外はチマチマしている、ミアちゃんは細いロープを作っている。
山と山の間の沢でロープの作り方を教えている、レイさん達は卵を取るのに使ったし、朝のワン・ツウでも縄跳びとして使っている。今更だが、作り方が知りたいとボードンさん達が言うので川で作る事にした。
「レイ、お昼当番なんだから美味しいのを頼む」
じいさんがレイさんに料理のご要望をした。
「ふ、いつも通り塩無しよ。野菜の旨味が出て美味しくなるわ」
「レイ、ユーリに塩を入れろと言われたでしょう。お願いだから入れてよ」
レイさんは辛味は入れるけど塩は入れない派らしい。
僕も料理している、ミアちゃんの好きなハンバーグだ。ハンバーグの焼けるいい匂いがして来た、この匂いが嫌いな人もいる。
スープは野菜が多めで、野菜を多く食べる僕のハンバーグは小さい。
「ミアちゃん、出来たよ」
「は~い」
作業を中断して、ハンバーグを食べているミアちゃんをワンダーさんが見ている、視線が食べたいと言っている。
「サラちゃん、ハンバーグだよ。よく噛んでね」
可哀そうな気がするけど、そよ風の皆はあれでいいのだ。慣れている筈だ。
「どうですか、客さん乗り心地は?」
「快適よ」
「ユーリにおんぶしているより快適」
「不思議だ、景色を見ながら山を・・・・後ろ向きで」
「ユーリ、乗り心地はいい。ビールは無いのか?」
「サラちゃん、山を登っているよ」
ロープ作りの後は背負子を作った、ユーリの籠の5人用だ。
重さは大丈夫なのだが、肩に食い込むので布を挟んで何とかしのいでいる、ミアちゃんの着ている魔道防具なら食い込みも気にならないかもしれないが、安全の為に着ているので試してみなかった。
「いいわね、ミアちゃんは、こんな楽しい事を日常的にしていて」
「はい、楽しいです」
大きい子供が6歳の女の子を羨ましいとは、まあレイさんだから仕方ない。
「レイ、もう少し大人になろうよ」
「そうだぞ、こうして楽をさせて貰っているんだから」
「いや、ビールがあればレイの気持ちが俺は良く分かるぞ。ビールを飲み、景色を楽しむ。疲れる事もなくいつまでもビールが飲みたい。ハァ、ビールを持って来れば良かった」
そよ風の皆は4人分のビールを持って来てない、持って来るのが面倒だからだ。
「「「ハァ、ビール」」」
じいさんの発言でビールを持って来てないのを思い出したようだ。
「お客さん、ため息ですか。仕方りませんね、サービスですよ」
全力で登る事にした、厳しい登山だが、そこに山があるから・・・・・全力で登る。
「ワァ~、速い」「まだ隠していたのね」「おいおい、こんなに速く登れるのか」「5人乗っているのに、喉が渇くぞ」
おお、久しぶりに鍛えている感じだ。リュック2個のオーク肉よりも軽い、オーク肉一杯のリュックで山を登った事はないんだよな・・・崖ならあるか。
手が空いているから、楽だな。
山頂に着いたので休憩だ。
「流石に5人は疲れるな」
登って来た斜面は急なので、よく登れたと自分でも思う。
「快適だったわね」「安定の登りだったな」「自分で登らなくて良かったわ」「喉が渇かなったぞ」
「ユーリ、疲れた?」
「少しだけね。今夜はここで野営ですか?」
「そうしましょう、ここなら魔物も上がって来れないわよね」
確かに切り立った岩の上なので、魔物は来ないだろう。
夕食の当番はワンダーさんだ。
「私は美味しいのを作るからね」
ワンダーさんが火を起こしたら、それを貰うつもりだ。
「ミアちゃん、あそこが目的地よ」
レイさんとミアちゃんの視線の先には集落があるようだ。
分けて貰った火で夕飯の用意をする。
「ユーリは、どんな鍛え方をしたんだ」
「俺は知っている、山の山頂にビールを届けていたんだろう」
「なるほど、俺達の様なビール好きが注文をするんで、毎日登っていたんだな」
「そうだ、ユーリに頼めばこの旅に大樽を持って来れたんじゃないのか」
「じい、気が付くのが遅い。なんでロード村で気が付かなかったんだ」
「ユーリが、冷えるんですにはミアちゃんの肉を入れるからビールは入らないと断られて、持って来れないと勘違いした様だ」
「そうか、俺も勘違いをしたよ」
聞いてあげれば良かったのかな、でも面倒な事を自分から聞く人はいないよな。
「ハァ~」
夜は肉多めの野菜炒めと、スープにパンだ。
食事が終わるとハンモックで眠る。
明日はあの集落に着くだろう、下山は速いのだ。
朝食を食べ終わり、下山の準備が出来た。
「お客さん、下山は少し速いですけど大丈夫ですかね?」
「大丈夫よ、全力で下りて欲しいわね」
「私は、少し手加減して欲しいな」
「俺も全力でもいいぞ」
「急いでも、あそこにはビールがない」
ミアちゃんからは、感想がない。よく乗っているから。
「では、全力で行きます」
急斜面をよく見て、背負子が横に広いので、被害者が出ない様なルートを考える。
準備運動でジャンプしてみる、あまり飛べないのでとっさに避ける事が出来ないのが確認出来た。
先ずは斜めからだ、直進は出来ないので。
「今度こそ、行きます」
斜めから直進コースに変えた、全速力が出来る。
「後ろ向きで良かったわね」
「ああ、なんかすごい高さを落ちた」
「だから手加減してと言ったのよ」
今は中腹より下なのでスキー場の中級位の斜面で、これから初級位の傾斜になっていく。
「お客さん、飛びますので、下を噛まない様に」
これで最後になる大岩を飛ぶ2メートル位なので大した事はない。
着地すると斜面が急になだらかになった。
そのまま麓まで走る。
「重量があると足にくるな。地面が土で良かった」
皆は背負子のロープを回収している。5人用を分解して、この後は歩いて行くからだ。
「サラちゃん、お願いします」
ミアちゃんのお願いを聞いて大きくなるサラちゃん。
ロープをリュックに入れて準備は終わる。
「さあ、もう直ぐよ、行きましょう」
「「「「は~い」」」」
今下りて来た山を見ると、急斜面だったのが下からでも分かる。
レイさん達に付いて歩き出す、横にはサラちゃんに乗ったミアちゃんがいる。
「楽しみだね」
「うん、もう直ぐだ」
レイさん達の足取りは軽い、丸一日背負子に乗っているだけだったからだ。
この先に集落がある、そこまでは林の中を歩いて行く。
山に囲まれた盆地だ、降りて来た山と同じ様な急斜面だと分かる山が見える。
「レイさん、この辺に魔物はいないんですか?」
「居ないわよ、山に囲まれていてその山の山頂にも登れないから、もしここまで来れるとしたらニトリと蜘蛛かな、この辺にはあまりいないけど」
蜘蛛か、懐かしいな怖かった日々が、ニトリは大きい魔物だけど攻撃力が無いので目に攻撃をくらわなければ怪我をするか痛いだけだよな。
今嫌な事を考えたぞ、骨折が少ないて前に聞いたけど、骨折は多いけど骨折をして生きている人がいるのが珍しいのではないのだろうか、骨折する程の攻撃を受けたら・・・・死んでいる。
ミノスが武器を持っていなくても油断は禁物だ、バッファの突進も打ち所が悪いと危険なんだ。
「ユーリ、何か見えて来たよ」
建物が見えて来た、木造の建物だ。
集落には木造の建物が沢山建っていた。どれも家だと分かる。
家の前に畑がある、自給自足生活をしているのだろ、素晴らしい集落だ。
外を歩いている人がいないのが不思議だ。
「誰もいないわね」
「俺、先に行く」
「俺も、見に行く」
「私も」
レイさん以外の3人は別の方向に走って行く。
「私も行くわ、付いて来て」
レイさんが走り出して集落の奥の方に行く。レイさんの後を追う僕は、外にいる人を探したが誰もいない、話し声も聞こえない。
「ド~ン」
レイさんが1軒の家のドアを開けて中に入る。
続いて入った僕が見たのは、倒れている女性をレイさんが抱き上げて「母さん、死んだの?」とレイさんが言った。
抱き上げられた女性は目を開けて。
「レイ、綺麗になったのね。無駄な肉が落ちたのね」
「それでどうしたのよ」
「もうこの村はダメよ、みんなが風邪に掛かってしまったのよ。父さんは奥のベットで寝ているわ」
無駄なお肉は筋肉の事だ、ワン・ツウのお陰だな。
「ユーリ、風邪薬は持っているの?」
「ええ、少しなら、待って下さい」
いつ作ったか分からない風邪薬をレイさんに渡す。
「レイさん、僕は風邪薬の材料を探してきます、森は近くに有りますか?」
「近くにはないは、西に行けば大森林よ」
「分かりました、行って来ます。部屋の中は温かくして下さい」
「急いでね、村の人達は大勢いるから」
ミアちゃんを抱いて走り出す。
「行って来ます~」




