セナのお祭り
最初のミノス肉を届けて森に戻った。
ミノス肉はロードさん達が食べたり、お祭りの料理の試作品作りに使う。
料理担当は僕だけど、楽しく料理の練習をして貰うのにお金を掛けた食材よりも、僕達が持ち込んだミノス肉を使えば気が楽なはずだ。
『勿体ないですね』と言っていたアメリアさんのお母さんも、僕が持ってきたお肉の量に『気にしないでいいのね』と言っていた。
ミノス肉を急いで届けなくていいので、夜はアルさん達と森の入口で野営をしよう。
走って戻ると、夕方ぐらいなのでシチューを作るつもりだ。
「ユーリ、マリアが下ろして欲しいと言っているぞ」
僕が戻って来たのが分かったアルさんが、降して欲しい人が入ると教えられた。
ここからでも聞こえるはずなので大声できいてみる。
「マリアさん、食事を作るので後にして下さい」
「ダメよ~、降ろして下さい」
「アルさんは下ろせないのですか?」
「俺は、疲れた。ミノスがあんなに居るとは」
他の人もお疲れのようなので、自分で降ろしに行く。
「どうですか、火のドラゴンは出来そうですか?」
「ユーリ、気が付きませんか、ドラゴンを見たことがありません」
「遺跡で見ましたよね」
「遺跡は絵です、立体的ではありません」
マリアさんの乗った背負子を背負う。
「じゃ、ウサギとかは出来ますか?」
「うふふ、出来ますよ。一日練習しました」
「やった~、これで出来ますね」
「え、何が出来ますの?」
「入口に戻ります」
お祭りの前日のお昼過ぎ、森に吊るしてある干し肉をリュックに詰める。
「あんなに作ってどうするんだと思っていたがリュックには意外と入るな」
僕の作業の手伝いをしてくれている、バジルさんの感想だ。
「干すと小さくなるので沢山入るみたいですね」
振り返ると、入りきらない干し肉がぶら下がっている。
大丈夫だ、お祭り中でも来れるから。
皆は帰る用意をしている、アルさん達は4日間で沢山のミノスを食べた。
僕があんまり倒してないねと言ったら『囲まれて逃げるのに忙しい』と言っていた。
僕の計画、皆の敏捷性を上げるは中々進まないが、初めて会った時よりもすごい成長をしている。
「皆、走りますよ」
「ユーリに続け、夜までに入れないと困るぞ」
アルさんの号令の下、ルーベルさん達は走り出した。
久しぶりの干し肉をかじり考える。ああ、街に入れなくなるのが嫌で頑張っていたんだな。それでもいいか、それでも体力は付くし敏捷性は上がる。
「おばんさん、どうですか?」
「練習したから大丈夫よ」
お祭り当日、お昼前なのでお客が少ない。
ロードさんの話では、そんなにお客の来るお祭りではないが市場や広場の方は、混むだろうと言っていた。
僕の考えたお祭りは、裏庭をお祭り会場にして、少人数でも楽しんで貰おうと思った。
商店で働くおじさん達は、今まではお祭りの日にお店を開けているだけで、お祭りに参加していない、お祭りを楽しんでもいない。
お祭りは3日間だ、どちらかに参加するなら商店の人達は屋台だろう、おじさん達も参加したいからロードさんに頼んだ。
お祭りの料理以外の準備は全て終わり、皆はそれぞれの料理を作っている。
焼きそばはロードさんのお父さん、お好み焼きはアメリアさんのお父さん、肉丸はロードさんのお母さん、メンチ丸はアメリアさんのお母さん、白い雲はアメリアさんだ。
この5人の店長にマリアさん以外をそれぞれお手伝いに任命した。
『何で俺達に命令する』『遊びに行きたい』『ビールが飲めない』
文句ばかりなので『美味しい物がこの先食べれないのと、お祭りの手伝いを楽しむ、どちらがいいですか?』とお願いした。
『楽しい手伝いをして美味しい物を食べる』
販売もお祭りだ思えば面白い筈だ。
裏庭に面した他の住民の人達はみんな驚いていた。
皆楽しそうだ、アルさん達もお客さんと話している。
お店の中の会場に行ってみるか。
「みんな、道具は持ちましたか?」
「「「「は~い」」」」
子供たちは手にビンゴ板を持っている。
1~9までの数字が書いてある、輪投げの様な棒が9個ある。
「あのおじさんが、番号の書いた紙を取るわよ」
ロードさんは箱に手を入れて数の書いてある紙を取り出した。
「3番です、あの数字と同じ所の棒にこの丸いリングを入れましょう、同じようにしてね」
子供相手なので色々と言葉を選んで説明しているマリアさん。
「同じ様に出来たみたいね」
両親のどちらかが子供に説明しているので少しは進行が楽だ。
「さあ。次の数字を引きますよ」
「8番です、さあ、今ので2個の数字が分かりましたよ、書かれた線の上に何個並びましたか、1個だけの人と2個並んだ人がいますね」
周りを見て説明が分かった様なら、次に進むマリアさん。
「さあ、3個目の数字を引きますよ、5番です。誰かいませんか、線が完成した人は。こんな感じで並んだ人はいませんか?」
「はい、並びました」
「どれどれ、並んでますね。もう1個の線が並ぶと良い事があるのよ、もう1個線が並ぶ様に頑張ってね」
「はい」
男の子は自分の場所に戻っていった。
「今の男の子が一番早いみたいよ、まだまだ数字を引きますよ、皆も頑張ってね。さあ、連続で数字を引くわよ、2番と7番ね」
ロードさんが番号を見せる。
「どうかな、揃ったかな?」
「揃いました~」
「すごいですね、最短で当たりましたよ。おめでとう、この板をあげます。好きな食べ物が貰える板をあげます。どうぞ」
「ありがとう」
キョトンとしている男の子に「さあ、裏庭のお祭り広場に行ってね、1個好きなのを食べれますよ」と再度説明をした。
進行をマリアさんに任せて、ビンゴした子供とお母さんに裏庭のお祭り会場の説明をした。
「そうです、出て右です」
「行ってみます」
「おめでとう」
僕は男の子に手を振る。
「どうかな、次で揃いそうな人はいるかな」
「「「は~い」」」
3人いる、ミアちゃんもリーチだ。
「さあ、引くわよ、1番です」
「「「揃った」」」
「3人とも揃ったのね、頑張りすぎよ。はい、好きな物を食べたね。さあ、他の人も食べたいでしょ、4番よ」
「「「「やった~」」」」
あれ・・・・・6個目で全員揃うはずなのに。ああ、同じ所にリングが入っている。4人の子供は既に揃っていた、マリアさんに7回目の数字はないと教えていたはずなのに。
僕も忘れていたけどね。
夕方になると子供達が来なくなったので、お店の営業は終わった。
「ロード、お店はどうだったんだ?」
「ゲームをしていたけど、よく売れたよ。両親と一緒だとどちらかの親が棚の商品を見てくれるんだよ」
おじさんは焼きそばを焼きながら、昼間のお店の様子を聞いている。
「そうか、あの棚でも見てくれるのか」
「父さん、見やすくなったとお客は言っていたよ」
焼きそばを焼く手が止まる。
「見やすくか、どうしてだ」
「その辺の事はユーリに聞いてみたらどうだろう」
「あの子にか、何でだ?」
「まあ、あのデザインになった理由が分かるかなと思っただけだよ」
「ミア、楽しいですか?」
「はい、大きく作れるので面白いです」
ミアちゃんとアメリアさんは、お店ごっこをしている。夕方で白い雲は売れなくなったので、売り子がミアちゃんでお客がアメリアさんだ。
「まあ、店員のミアさん、大きく作りましたね。おまけですか?」
「はい、おまけです」
「変わった食べ物っですね」
「そうなんです、私もそう思います」
お好み焼きを焼いているアメリアおじさんは、お客と同じ感想を言って、お好み焼きを焼いている。
お祭りの中でもおばさん2人は頑張った。
作るのも早いが売るのもうまい、声が出ているので自然と人が寄って来る。
「美味しいメンチ丸、さあ買いなさい。これを食べないとお祭りじゃないよ」
「美味しいです、初めて食べた肉丸、止めれません、止まりません、間違いありません、さあ食べましょう、限定です」
2人はお祭り限定だと何度も言っている。それに裏庭の横を通る人が何をしているのと顔を向けてくれるのも2人の声のお陰だ。
そう僕は何もしていない、もっと見に来てくれる人を増やすのは簡単だ。
あの2人の言っている事を表通りで宣伝すれば4倍以上いの人が来るだろう。この街の道は広いので声が遠くまで聞こえる。
でも、自分の街の為に頑張っている、自分達も楽しんでいるのに余計な手伝いは要らない。
「しかし、材料は必要、新鮮なお肉も必要だ。残ったミノス肉はコトコト煮ている」
朝には帰って来れる様に出かけよう、ミノス王国のミノスを減らそう、今年も西に向かう冒険者が一杯いる筈だ。西に居るんだから少しはお手伝いだ。
夜ご飯を食べ終わると森に向かった。
何で皆が西の方の魔物を討伐に行くのか、西の方の街や村にいる貴族の騎士さんが少ないからかもしれないと思った。増える魔物、増えない戦闘員、バランスが崩れてきているのかもしれない。
ガーベラの東の森に生息していた魔物はガーベラの騎士団では勝てない数だった。
計算していないが1万以上はいたはずだ、もしかしたら2万位いたかもしれない。
便利丸作戦がなければあの魔物はいずれ何処かに向かったかもしれない。
砂漠のワームも沢山いた。街が近くにあれば壊滅していたかもしれない。
ミノスも沢山いた。魔物が移動を始めたら最初の被害に遭うのは農家のみんなだ。
しかし、情報が足りない。
ユーデット様の貸してくれた本には、リリカ・クライスの事が書いてあるが、起きた事に注目していない。
あれと同じ事が起きる事はないのだろうか、考え事をしながら走っていたので森が見えていたのに気が付かなかった。
分からないことだらけだけど、今は頑張るしかない、あんなに干し肉がぶら下がっているんだから。




