便利丸
馬車はのんびりと下っている。
下りも大変だとは思わなかった。急斜面なので馬車が馬とぶつからない様に馬車を押さえてのんびりと下らないといけない。
馬はのんびりと歩くだけなので、馬に負担はない。
「ユーリ、休んでいてもいいんだぞ」
「左手があれば馬車を押さえれらるので、大丈夫です」
僕は左手なので右側で押さえて歩いている、反対側にウイントンさんだ。
ルルさんは馬車3号にマリアさんと並んで歩いている筈だ。
急斜面で緩やかなカーブを進んでいて、馬車1号も見えない。
中腹位で反対方向から登って来る馬車に会った。
お互いに気を付けろよと挨拶を交わしてすれ違った。
麓まで1日掛かりで下りて来た。
野営の準備をしていると、この先の街道に魔物が沢山いると偵察に向かっていたアルさんから報告があった。
「魔物の数はどの位いるのか確認できているのかい?」
ロードさんが魔物の数を聞いて考える。
「100体はいるかも知れません、村から遠いので村からの討伐隊は期待できません」
「冒険者の意見を聞きたい」
ロードさんの言葉で6人が集って話し合う。
100体全部が密集しているのか、広範囲で100体なのかで作戦も対策も変わってくる。
街道の近くに100体だと他から魔物が来る可能性がある。
「僕達は戦う方がいいと思います。数が多いので長期戦になるので馬車はここか山道に戻らないと危ないかも知れません」
でも夜に戦うのは危険だ、冒険者の意見は夜戦うことなのか、明日の朝戦うことなのか、それによっても作戦が変わる。
夜ご飯を木のトレイ載せた、皆に前に行って取ってもらう。
1日では骨折が治らない、異世界の常識でも1ヶ月もかかるのかな。
先に食べ終わったのでいつもの様にお香を置きに行く、今日はいつもより遠くに置いた。
「戦うにしても明日ですね、夜は危険です」
「そうだな、どこから魔物が出てくるか分からない」
明日戦う事になった。
僕は見張り以外の人が寝ると、実験の為に魔物がいる街道に行って見るつもりだ。
「ユーリ、どこに行くんだ?」
見張りではないバジスさんに見つかった。
「魔物がいる所です、試したい実験があるんです」
皆が寝ているので自然に声が小さくなる、バジスさんも小声だ。
「魔物に襲われたらどうするんだ」
「逃げ足が速いので大丈夫です、それに見つからない様にしないと実験になりません」
もし、襲うつもりで来られたら、苦手の匂いでも向かって来るかも・・・・・・絶対に向かって来るな、気付かれない様にしないと。
「それなら俺も行く、いいか?」
「邪魔をしない、魔物に見つからないを心がけて下さい」
「分かった」
見張りの2人に実験の為にしなければならない事があるので魔物の所に行く事を告げると。ダメだと言われたが何とか説得してバジルさんと魔物がいる所まで街道からそれて先に進んだ。
「魔物が見える、本当に沢山いる」
バジルさんが街道の方を見て魔物の確認をしている。
草原の草陰から魔物を見ているバジルさん。
その横で便利丸に松明で火を付けて投げる。
火を付けて投げるために便利丸は大きな玉の中心に火が付く様になっている。
左で投げにといけないけど、前世の僕は両利きだった、この世界の僕はどちらが利き腕だ。
剣は二刀流で、何かする時は右手ばかりを使うから右利きなのかな。右手は骨折しているから左で投げればいいのか、バスケの時を思い出そう・・・・違う、野球で左で投げた時の事を思い出そう。
やれそうな気がしてきた、やっぱりバスケにした方がいいな、山なりで目的の地点に落ちる様にして投げた。
「おお、やはり両利きか慣れれば右よりも確率よく狙った場所に落とせる筈だ。それでは街道の中のぎりぎり端に落とす。天才か僕は・・・・火を付けるのを忘れた」
狙った所に落とせるならどんどん落とすぞ。
火を付けて投げた6個の便利丸は狙った場所に落ちた。
「面白そうに遊んでいるところ悪いんだけど、説明はいつしてくれるんだ」
「秘密なので見学だけして下さい」
「どうしても?」
「どうしても秘密です」
持って来た便利丸を投げるのをやめて、魔物を観察する。
便利丸は街道に5角形の形で落ちている、6個目は中心にある。
5角形の中の魔物は5体ほどいて徐々に5角形の外に出ていった。
今度は1個に火を付けて魔物の立っている所に落ちる様に投げる。
「どうかな、近づかないで出来る実験はこれで終わる」
魔物はやはりその場所から移動した。でも、その場に立ったままでいるはずがないので移動したと見えてもおかしくない。
ただ、嫌そうにして移動したように見えた。
「さあ、バジルさんもう帰って下さい。ここから先の実験は危険だ、もし馬車の方に魔物が行く様なら倒して下さい」
「ユーリはどうするんだ?」
「最後の実験の為に魔物と遊んできます」
「おい、危ないぞ」
「危ないのは分かっているんです、でも、これをしないと論文が書けません、なのでバジルさんだけでも戻って下さい、朝までに戻らなかった。そのまま旅を続けて下さい」
「分かった、そこまで言うなら戻る、気を付けろよ」
バジルさんは魔物に気づかれない様に戻って言った。
「試してみるか」
五角形に近づいて周りを見る、一番近い魔物に気が付いてもらう為にいつもの歌を歌う。
「お母ちゃんは出べそ、お前の父ちゃん酒飲み、お前の友達は見分けがつかない」
いつもどうり音痴で、この続きを考えつかない。
「早く気が付いてよ、実験なんだから~」
気が付いてくれたが、周りにいた全ての魔物がこっちに来る。
急いで五角形の中心の便利丸の所に向かう。
「さあ、どうなるかな」
魔物は5角形の外まで来て、五角形の中にも入って来た。
魔物は不快な顔をしている様に見える。
「ガ~」「グキ~」「ガォ~」
色々な雄たけびが聞こえてきた。
実験が終わった、苦手だけど獲物がいれば襲って来る。そうだ、逃げよう。
「あっち側にはみんながいるので反対かそれとも街道から外れるかどちらがいいかな」
皆が戦わない様にした方がいいかな、あの人達が可哀そうだ。僕の様に起きるのを嫌がるかも、5分は命取りだ。
それならいつものだ、逃げるが勝ち作戦が始まった。
「さあ付いて来るのだ、痛い・・・・・そこは骨折しているのに」
油断していてたので骨折した腕に攻撃を受けた・・・・・・かすっただけなのに痛い。
街道から外れてどんどん南に向かう。
久しぶりに声に出そう。
「バキューン、バキューン、バキューン」
魔法の練習をしながら逃げる。なるべく多くの魔物が追って来る様に足を止めたり声を出したりした。
「僕に追い付けたら怪我をしてない左手を差し出そう。しかし、追い付けるかな」
「ユーリは、帰って来なかったわね」
「いい奴だったが、魔物にやられたんだな」
馬車3号でマリアさんとウイントンさんが会話している。
朝起きた皆は、昨日のユーリが言った事をバシルさんに聞いた。
朝ご飯が終わり、魔物と戦う為に偵察に行ったアルさんとルーベルさんは、街道に魔物がいなくなっていて、もし遭遇しても魔物の数が少ないかもと判断した。
その判断を信じたロードさんはユーリを心配したが、旅を続ける為に馬車の出発を皆に告げた。
魔物が多数いた場所にはユーリが実験した後が残されていたが、ユーリはいなかった。
そのまま馬車は西から少しづつ北寄りになる街道を進んでいる。
見つからないユーリの事を話す二人にバジルさんは言う。
「ウイントン、今まで言わなかったけど、君がコロシアムで大負けした時の事を覚えているかい」
「ああ、覚えている。子供がスライムに降参したせいで、俺は冒険で稼いだ大金を全て負けたんだ」
「それって、ウイントンが酔ってバカ騒ぎした原因の子供の事だよね」
馬車の後ろのウイントンさんが大負けした事を思い出す。
御者をしているヒューラさんも話に加わる。
「まさか、第一試合に賭けたのかい、確率的に挑戦者が勝つけど倍率が悪いので誰も賭けないのにウイントンさんは賭けて負けたんだね」
バジルさんはその試合の事を更に話す。
「その試合に出ていたのがユーリだよ。俺も最近思い出した。第二試合から逃げるだけで勝った少年がユーリだ。それに第二試合では魔物に賭けて負けたんだよな、ウイントンは」
「あれがユーリなのか・・・・・・第二試合の逃げっぷりはユーリに似ている」
話を聞いたルルさんは。
「本人なんでしょ」
「俺の負けの原因がすぐそこに居たのか~」
そんな話をしている時に前の馬車が止まった。
「後5分寝かせて下さい、徹夜なんです」
僕の周りに沢山の人の気配があるけど、徹夜なので眠い。
徹夜して魔物と鬼ごっこをしたのでとても眠い。
草原から街道に戻り馬車が野営した方に歩いて便利丸を設置していった。
便利丸が無くなったので、便利丸に守られている街道に戻りそのまま寝た。
周りに魔物がいないと確信しているので気にしなかった。
「おい、ユーリ。あの時の子供はユーリなのか?」
誰かが僕に質問している。
「後4分寝かせて下さい、徹夜で質問には答えられません」
「俺に謝れ、ユーリ」
「すいません、後3分寝かせて下さい」
「ユーリ、みんな心配していたんだ、起きてくれないか」
ロードさんの声が聞こえたので起きよう。
「おはようございます、おお~、馬車が着ている。さあ旅を続けましょう」
「おいユーリ、説明はないのか?」
アルさんが聞いてきたので答えよう。
「秘密を話すと思いますか、魔物と鬼ごっこをして面白かったです、以上」
「まあいいじゃないか、俺達も魔物と戦わないですんだんだし、ユーリも無事なんだから」
ロードさんは偉大だ、冒険者の皆が意見を聞き入れてくれる。
「それでは、馬車に戻って出発しよう」
便利丸の効果が効いていたのか、夜まで安全に移動できた。
お昼も食べないで寝ていた僕は夜には眠気も無くなり、皆のご飯を運ぶ。
「ユーリ、俺の事を覚えてないかコロシアムで会っただろ」
「コロシアムですか、あの時会ったのはノーラさんとコロシアムの関係者だけだと思います」
バジルさんがウイントンさんを指した。何の事だ、みんなも苦い野菜を拾って牢屋で一晩か。
「ウイントンと俺は観客席にいたんだ、目が合ったような気がしたんだが覚えてないか?」
あの時はノーラさんと話していた、控え室に戻る時に2人組の人がいたけど。
「思い出しました、泣いて僕を応援してくれた人ですか、そんなに勝ったんですか?」
「負けたんだよ、ユーリに賭けて負けたんだよ」
そうか、あの1.1倍に賭ける人がいるのか、目の前のウイントンさんが可哀そうに見えてきた。
「何だその目は、顔もだ。憐れむ様な顔をしないでくれ」
「そうですね、自業自得ですよ、1.1倍に賭けるなんて。何で負けた後も賭け続けなかったんですか?」
「賭けたよ、ユーリが負ける方に」
「僕は賭け事をよく分かりませんが、人間に賭け続けるだけでだいぶ儲かるのに」
「「「「何」」」」
周りを見ると面白がって皆が近づいて来た。
「だってコロシアムは人間が勝つと解放されるんですよ。最初から人間に賭けるていれば合計では勝てるはずです。例外は第一試合ではあまりかけない事です、倍率がひど過ぎるので賭けてもうまみが無いのです。後は選手が負けるまでの賭け方を工夫するだけです」
「ハァ~」
分からないか、余計な事を教えて負けたら僕の責任なるのでこれ以上は説明をするのをやめた。
そう、倍率は強さとは関係ない、スライム君に負ける人は僕だけ、逆に考えれ倍率が変だ。それに今の説明で死にたくない人間が頑張れば次の試合に進む確率は減るだろうけど、最初のスライムは絶対に勝てる、次からは選手の技量しだいだけど、第二試合に賭けないなら、第三試合にはもっと賭けずらい。
まあいいか、賭け事は嫌いだ。それでいいのだ。




