そこに山があるから
待ち合わせのお昼にギルドで待っていても誰も来ないので、駄目な人達だったと思って、募集の掲示板を確認する事にした。お食事付きは書いてないけどどうなんだろ、実はどの募集も付いていると思っている。
受付のレティさんにお食事が付いているのか、聞いてみよう。
「レティさん、募集のポーターはどれでも食事は付いてますか?」
「そうね、日帰りとかは付いてないかもしれないけど他は付いてる筈よ」
「ありがとうございます」
「いいのよ、良い募集があるといいわね」
確認が取れたので募集の掲示板の前に来たけど、どれにしたらいいんだ。
「ほとんど目的が書いてないな、目を閉じて手を回転させて・・・・・痛い。レイさんでしたか、痛いです、こんにちは」
募集の依頼書を指そうとした指が握られていた、それも凄い力で。
「こんにちは、何してるのよ。行くわよ」
「あれ、行くんですか。みんな二日酔いで行くのを止めたのかと思いました」
募集を選ぶために出した指を掴まれたままギルドを出た。
「やあ、こんにちは。気持ち悪い」
じいさんが気持ち悪そうに前かがみで挨拶をした、風邪の時の立ち上がりたくない状態に似ているな。
「酔い覚めの薬飲むから、待ってくれ」
ボーンさんは何やら出しているけど、異世界に酔い止め・・・・・・勿体ないから、酔ったままでよさそうなのにな。
「私にも頂戴よ」
「こんにちは、さあ、おばあさん、歩きましょうね」
「こんにちは、自分で歩けるよ」
「こんな感じで皆は元気だから、ユーリは、あそこの荷物を持ってね。出発~」
元気なのはレイさんだけみたいだな。
街の北門から街道を3時間ほど歩くと山道になった。
酔いドメが効いたのかみんな元気に歩いている。
先頭はレイさん、その後を他のメンバーが横に並んで歩いている、僕は最後尾を歩いているが荷物は重くないが「タップンタップン」と音を鳴らしている。
ビールの樽がリュックに入っている。冒険中でも飲みたいらしい。
魔物に遭遇するが、レイさんが対応している、ウサギとコボルトだ。
ウサギは火の魔法が撃てるので、名前はファイヤーラビット。アイスラビットは氷魔法を撃ってくる。
僕には覚えやすくて嬉しい、出来れば火うさぎにしてくれればもっと嬉しい。
「だいぶ歩いたから、休もうよ~レイ」
もうダメだとワンダーさんの歩く速度がどんどん遅くなってきた。
「俺は大丈夫だ、イケメンだからな」
「俺もじいだが、大丈夫だ」
「イケメンかどこにいるのかな、まだじいさんの方がイケメンに見えます」
「イケメンは俺だ」
「ヘナチョコイケメンが何か言ってますよ、レイさん」
戸惑い返事をするレイさん。
「え、ええ」
「真のイケメンの僕がワンダーさんを背負いますよ、どうぞ」
荷物を置いてワンダーさんの前で前かがみになり背中を差し出す。
「それじゃ、乗るわよ」
「ダメだ、真のイケメンの僕でも力が足りない、凄く困ったぞ」
「待て、本当のイケメンは俺だ。ワンダー乗れ、ユーリより俺の方がイケメンだ」
こんな感じで、先を急ぐことが出来た。この技の名前は優しいイケメン頑張るだ。
「疲れた、イケメンは疲れた」
「ダメです、そこは俺は疲れたにしないとイケメンのイメージが悪くなるよ」
「おお、そうだな。俺は疲れた、どうだ?」
山道を進んで来て岩場の多い所で野営する事になった。ワンダーさんをおんぶして3時間歩いたイケメン・・・ボードんさん・・・名前を思い出すのに苦労する。
「爽やかなイケメンが疲れた感じが出てますよ」
「おお、そうか。爽やかな・・ふふ」
歩かないで済んだワンダーさんだが、もう横になっている。
「ありがとう、予定より移動できた」
レイさんは小声で僕にお礼を言った。
「干し肉じゃないのか」
夜ご飯はパンとスープだった。
峠の山頂で『あの山が目的地だ』とじいさんが髭を触りなが教えてくれた。
そうだ、目的を知らないんだ。でも荷物持ちだから知らなくていいのだ。
レイさんと並んで歩いている、ボードンさんは楽しそうだ。
「レイ、俺はイケメンなんだ。ユーリも認めている、いい子を見つけたな」
レイさんの背中をボンボン叩いている。叩き方に手加減を感じない。
「痛いわよ、手加減してよ」
レイさんが抗議してボードンさんの背中を叩く。ボンボンだ。
ワンダーさんは軽快に歩いている、昨日は治った二日酔いがぶり返したらしい。
「ユーリ、あの木まで競争しない。負けた方が荷物を持つのよ」
ワンダーさんを見た、小さいリュックと剣しか持っていないので負けたら自分が損なのに・・自信があるのか。
「やめときます、どう見ても僕は勝てませんよ。それに勝負が苦手なんです」
「駄目だぞ、男は勝負で勝たないとイケメンには慣れない」
「イケメンはボードンさんに任せます、僕はまあまあ位がいいですね」
「控えめなのね、ボードンも見習えば」
「うるさい、レイはもっと女らしくしろ」
下りは楽なので皆は軽口をたたく余裕がある。
「今は冒険だけでいいのよ、それに女らしいはずよ私は」
「今日の見張りはじいからお願い、最後がワンダーね」
「「了解」」
見張りはそよ風のメンバーでする事になった。
疲れていない僕は、好きな時間に寝れるんだな。
「何してるの?」
「まだ眠く無いので、ロープを作ってます」
「ロープは何に使うのよ」
何を作っているのかとイレさんに聞かれてロープだと答えたら何に使うのかと聞かれた。何に使えばいいのかな、何かの役に立ちそうだな。それに自作だと無料だ。
「あると便利だな~位で作ってます」
レイさんは、興味が無くなったのか自分の敷物の所に戻った。
ふむ、敷物が欲しいな、このロープを細く作れば紐かな・・・試してみるか。
「細い方が簡単なのは当たり前だな、何でいつもロープを作っていたのかな僕は、まあいいか。敷物を作ろう」
結んでみたり、編んでみたが難しい。
これ敷物になった。編み方が分からにが偶然できたが、グラスのコースターの大きさだ・・・・手のひらよりも小さい。
よく見ると法則みたいなのがあるのが分かる。
「こうしてここに通してこうなって、クロスして通す。この法則を上手く隣の紐に行く様にして通す」
よく分からない法則が分かったつもりで出来たのが、持つところの無い浅いバスケットになった。
自作の敷物にはならなかったな。
偶然出来た、ぶら下げられないバスケットの網目を広げて紐を通した。これで持てるようにはなったな。
「ユーリ、残念だったわね」
「でも、魔法を代わりに受けたんだから良かったと思わないと」
僕の身代わりになったバスケットは出来てから、2時間しかバスケットの形をしていなかった。うさぎの魔法は凄いんだな。
徹夜で作ったのに、壊れるのはすぐなんだな。確か、形ある物は壊れるだったかな。
徹夜で作った事を知ると、皆は『流石子供だ、夢中になると眠るのを忘れる』と言われた。
子供だが精神年齢は・・・・分からない、イケメンを見た後だと更に分からない。
「ユーリ、何故俺を見ている。もしやイケメンの座を狙っているのか、だが諦めろユーリには無理だ」
ほら、どんどん分からなくなる。
「諦めました、ボードンさんの様にはなりません」
「分かればいいんだ・・・・なりません?」
「ほら、行くわよ。やっと山の麓まで来れたんだから、後は登るだけよ」
「じいは登り始めているわ、ユーリは荷物が大変でも頑張るのよ」
今の先頭はじいさんだ。ドラドラさんみたいに年寄りの振りが好きなのかな。
今気が付いた、皆は見た目がムキムキだが体力がない。
女性の2人はムキムキは少し少なめだが、ボディービルダーの練習風景で感じた体力や力強さが感じられない。直ぐに疲れるワンダーさんはレイさんより力はある。
「はい、同じ様に跳んで下さい」
ロープを手で回して縄跳びをしている僕。レイさんとワンダーさんにも同じように僕の真似をして貰っている。
「簡単簡単、負けないわよ」
「私が勝つの」
ボクサーの練習の真似を取り入れてみた。走りながら縄跳びをするあれだな、見た人からするとカッコいい練習をしているな的な、リズムと体力が付きそうなイメージの練習だ。
「今度は、走る様に片足で跳んで下さい。出来るかな」
僕の真似をするけど、2人の動きはぎこちない。
「あれは、何をしてるんだ」
首を傾けて僕達を見てるボードンさんがじいさんに質問している。
「あの動きで体力を付けるんだとユーリは言っていた、レイ達はユーリにお願いされて一緒にしている」
「あんなので体力が付くのか、この後まだ登るのに疲れないか」
「さあ、ユーリがこれからは毎日すると言っていた」
「ワン、ツウ、ワン、ツウ、ワン、ツウ、ワン、ツウ」
レイさんのワン、ツウで縄跳びをしている、そよ風のメンバー。
ボードンさんとじんさんも一緒にする様になってきた。
僕が『男性の2人がレイさん達よりリズムがないよね。まあしょうがないか』と笑いながら言ったら参加する様になった。
僕は飽きたので、ボードンさんに剣を借りて素振りをしている。
「疲れるなこの攻撃は、力は付きそうだ」
剣を上に向けて上に突きをする様に何回もする、疲れたら左手に代えて同じ事をする。
魔法の練習は無詠唱でする事にした。お気に入りの『バーキュン』は声に出さない様にした。暇な時は絶えず練習している。
「レイ、険しくなってきたけど大丈夫か、先頭を代わるか?」
じいさんがレイさんを気遣う、道のない山の登山は誰でもきついが、先頭は木の枝を切ってかき分けて進んでいる。
僕の腰に結わいたロープの反対側には、手で掴める様に丸く結わいていてそれをワンダーさんが掴まっている。
「俺も先頭で歩きたいな、代わってくれレイ」
2人が男らしく代わると言っているが、先頭を譲らないレイさん。
「まだ、大丈夫よ。疲れたら代わってね」
「「分かった」」
「大丈夫ですか、ワンダーさん」
「大丈夫、何とか付いて行ける」
「明日には着けると思うの、今日はここで野営よ」
見た目は悪いが敷物が出来た。自作なので厚みが少し厚いが丈夫そうに出来た。
今日はシチューにパンだ、干し肉は1回も食べてない。
料理担当はワンダーさんだ。料理はそよ風の皆が交代で作ってくれる。
「ユーリ、美味しいでしょう」
「まあまあかな、レイさんの方が少し美味しいかな」
「なんで、レイに負けてるのよ、おかしいでしょう」
よく分からないが、そよ風で一番まともな味を作れているのはじいさんだ。
この人達は不味い中でも自分の方が美味しく出来てると思いたいのか、ただ美味しい料理を食べた事が無いのかどちらなんだ。面倒だから両方にしとこう。
「ほら私の方が美味しいてユーリが言ってる」
何で美味しさを競っているんだろう。
「じんさん、あの2人は何で料理を競っているんですか?」
「何でも女らしさは料理だ~、どちらが美味しいのかユーリに決めて貰おうとなった。俺とボードンは味音痴でダメだと2人は言っている」
僕は小声で「不味い中から選ばなければいけない僕が大変です、あの2人に違う事で女らしさを磨く様にじんさんから言って下さいよ」
「分かった、言っとこう」
完成した敷物の上でドラゴンの事を考えている、どうしたら発見出来るのかと。市場の人達に聞いたらみんなが知っていた。居場所は分からないけど何処かに居るだろうと思っている様だ。ここ広い何処かに居る。4体?レッドちゃんはローランド王国に居ない?ブラック君は西の大陸に残りのドラゴンが居ると言っていた。
「慌てないで、先ずはこの国に慣れよう、お金が無いと何処にも行けない」
僕が色々とこれからの事をお考えているとレイさんとワンダーさんがこちらに向かって来た。
「ユーリ、聞いたわよ私達の料理が不味いって言ったんでしょう」
「うん、不味いです」
正直者なので嘘はつきません。
「何で不味いのよ、頑張ったのに」
「頑張っても不味い、これからも不味い」
「ちょっと酷いよユーリ」
「では、直ぐに美味しくしますね」
「え、そんなに簡単じゃないのよ、料理は」
僕は荷物の中から塩を取り出して、余ったシチューに塩を入れてかき混ぜた。
僕がする事を見ていた2人が「塩入れても美味しくならないよ」と言った。
塩・・・それは、この世界・・・どの世界でも一番料理に必要な物が塩だ。
食材の下味、料理のソース、調味料を作るのにも塩。全ての料理に使うわけではないが、塩が無いと美味しい料理が減ってしまう。醤油に味噌この二つは塩が少ないと味が悪くなる、健康にはいいらしいがそれは科学者の研究によるもので、どれだけの影響があるかは絶対に分からないはずだ。まだまだ分からないことだらけなのだ体の事は。でも、塩が無いと確実に不味くなる、全ての料理が。
「どうぞ、ワンダーさんの料理です」
敷物の上に横になる、横になれるっていいな。
「美味しい、凄く美味しい。これが私の料理なの」
「どれ、ええ~・・・・・こんなに美味しいはずがないわ、何をしたのよユーリ」
話を聞いていたボードンさんも驚いてシチューを食べた。
「美味しい、何故美味しいんだ」
「寝てないで、説明してよ。ユーリ」
ワンダーさんに負けたしまったレイさんが聞きに来た。
「皆さんの料理に足りないのは塩でした、おしまい」
「説明してよ、ユーリ」
何故か泣きそうなレイさん。母さんの心得にはないだろが泣かせるなと母さんが言っている。
「干し肉くれたら説明します」
「持ってない」
やはり、無いのか・・・・。
「皆さんの料理は最後の味付けの調整がありません、それに味見しないし。作るのを見ていましたが一番ダメなのは味付けです。5人分なんだから、その分調味料を増やさないと美味しくなりません」
「そうか、5人分か・・・・考えてなかった。5倍入れればいいのか」
そよ風の皆は何か話し合っている。
基準が無いのに5倍・・・・・・一人分でも美味しく出来なそうなのに、5倍か。




