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日常

2階と3階の部屋のベッドからシーツを外す、この部屋で最後だ。


階段を下りて行く。1階は酒場のホールになっているが、階段の直ぐ近くのドアを開けるて外に出る。何軒かあるお隣さんの前を通り過ぎて、我が家の裏に回り込む。


建物に囲まれた中央に井戸がポッンと在る、この井戸を周りの建物の住人が共同で使っている。井戸の前で忙しそうに洗濯している母さんは、僕が来た気配に気が付いて木のタライを指さした、タライの中に汚れたシーツを無言で入れろと言われた。


「母さん、これで終わりだよ」


何回か往復して回収して来たシーツ、最後のシーツを先に入っている洗濯物の上に載せた。


「ありがとう、父さんの手伝いをお願い」


「わかった」


裏庭の井戸から、我が家の裏口のドアを開けて中に入る。開けた先の部屋が厨房になっている。


中に入ると料理を調理していた父さんが、完成した料理を台の上のお皿に次々と載せていくのが見える。


父さんは料理が大好きで、忙しくても味付けを完璧にしようと頑張っている。


「父さん、この料理の盛り付けは終わっているの?、テーブルに持って行っていいかな?」


「おう、助かる」


頑張っている人がいれば手伝うのが道理だ。盛り付けの終わっている料理のお皿を手に取って、厨房から酒場のホールに向かう。


「お待たせ、ウサギのステーキとパンです」


「お待たせ、イノシシのシチューとパンです」


「お待たせ、イノシシ入り野菜炒めです」


「以上でいいですか?」


「おう、頼んだのは来たな」


お昼前だが忙しい。冒険宿の昼時は、シーツの洗濯と早めにお昼を食べに来る冒険者の料理の調理で両親は手が空かない。八歳になった俺は両親の手伝いをする様になった。


手伝いは難しくないのだが、忙しい。一階が食事も食べれる酒場になっているので、食事だけなら両親だけで何とかなるが、冒険者の泊まった部屋の掃除にシーツ等の洗濯は昼近くまで掛かる。俺はその時間に手伝いをしている。


他の時間も手伝おうかと言ったら、子供なんだから遊んで来なさいと言われた。嬉しい申し出だが、何をして遊べばいいの分からない。この世界には娯楽がないないので、小さい子供は家の手伝いをしている、10歳になると学費が払える家の子は学校に通う、学校に行けない子供は8歳位から見習いとして何らかの仕事を見つけて働く、この世界の10歳は大人の仲間入りで、将来の事を考える。今のところ冒険者になりたいと思っている。


1人で遊ぶ事を思い付かない俺は、自分用の部屋・・・外に建てるんだから小屋だな。


小屋を建てるのに材料の木材が必要だ、両親を説得『手伝いしているよね』して買って貰った。


この世界にはお小遣いを子供にあげる習慣がない。お金を貰っても、焼き菓子のクッキーを買うぐらいだろう。


裏庭は井戸を囲うように建物で囲んであるので、強い風が吹き込んで来ないので、小屋を建てるのも建てる場所としても最適だ。


強度は風の事を考えないで作れるので順調に進んでいる。小屋の大きさはベットと小さいテーブル、小さいクローゼット各1個が入るだけの大きさにした。あまり大きい小屋だと裏庭を共同で使っている皆に悪い。


小屋の出入り口は当初は裏庭に面した方にするつもりだったが、両親に反対された。よく考えたら、手伝いをするのには冒険宿の厨房に繋がっている方が便利だ。


最後の作業の入り口の扉を付けている、家具は先に運んであるので、今日から部屋が使える。


俺の部屋が完成したので、両親は久しぶりの水入らずだ。


小屋作りが終わったのが夕方、宿の受付でお手伝いをする時間だ。受付カウンターで座っていると、お客さんが入って来た、俺の前を通り過ぎれば酒場のお客さん、受付の前で止まれば、お泊りのお客さんだ。5人の冒険者が受付の前で足を止めた。


「いらっしゃいませ、何人でお泊りですか?何日間の予定ですか?」


全員が泊まるとは限らない、何人か聞かないと。それは、他の宿に泊まる事が決まっている人もいるから。


「三人で5泊、延長も出来るのか?」


残念だ、全員ではないんだな。


「はい、今は予約が無いので、最後の日にでも延長を申し出て頂ければ良いと思います」


「わかった」


「前払いになります、1泊銅貨5枚で大銅貨7枚と銅貨5枚です」


「大銅貨7枚と銅貨5枚と、合っているか?」


カウンターに一枚ずつお金を置くお客さんの手元を一緒に確認する。


「はい、合ってます。では、ご案内します」


お客さんの先頭に立って階段を上る、二階に着くと一番奥の部屋に案内する。


「こちらの部屋になります。洗いたてのシーツを敷いたベットが3個、こちらがクローゼットになっています」


「まあ、いい部屋だな、ありがとう」


「では、何かありましたらお申し付け下さい。貴重な物はお持ち下さい」


案内が終わり受付に戻ると宿泊の代金の大銅貨7枚を持って酒場の母さんの所に行く。


「母さん、三人で5泊のお客さん、案内は終わって大銅貨7枚です」


料金の大銅貨7枚を母さんに渡したので、受付に戻る、残りの銅貨5枚はお釣りで使えるので残しておく。


「今日は、もうお客さんは来ないのかな」


夕方が過ぎた時間には泊まりの客が来ないので、全てのお金を持って酒場で働く母さんに渡して、出来たばかりの自分の部屋に行く。


「本日の手伝いが終わった、部屋も出来たしのんびり出来るな」


夜の酒場の仕事の手伝いはしない。酔っ払いに絡まれたり、ケンカに巻き込まれるのが嫌だからだ。


夕飯を食べてないのを思い出し、シチューとパンを持って酒場のカウンターの隅の椅子に座る。


テーブルはほぼ埋まっていて、カウンター席が少し空いてる。


俺の場所は、厨房とカウンターの入り口の脇なのでお客が使う事はない。


「エリザ、ビールのおかわり4つ」


常連客さんがお酒のおかわりを注文する声が聞こえた。


忙しそうにしている母さんの代わりにビールのおかわり持って行って注文のあったテーブルの上に置く。


「ビール4つお待たせ、空いてるジョッキはこっちにまわして」


「はいよ、まだ寝ないのか」


「夕飯食うの忘れて今食べてるから、食べ終わったら寝るよ」


「お前はよく働くよなウチの子にも言ってくれ」


「もう酔ってるの、3歳じゃお手伝い出来ないよ」


「お前は、手伝っていたぞ」


「僕は特別なの、それにおつまみを運んでいただけじゃないか、子供が待ってるんだからほどほどに」


「あはは、言われてやんの」


僕と言いなれないな、いつか慣れるのかな。


ジョッキを片してカウンターに戻って食事の続きを食べる。その後も少し手伝って、食事が終わると眠る為に部屋に戻った。


部屋に戻ると改めて完成した部屋を見る。


「子供の俺が作ったにしては上出来だ。ああ、明日から暇だな~」


出来る暇つぶしが少ないので、ため息が出るな。


「娯楽が無いのはしょうがないが、学校が10歳からで、行かない者もいるから俺はどうなるのかな」




俺は転生者なんだと思う。2回目の赤ちゃんも経験したし、昔の記憶もある。


転生して困ったのが言葉と暇な事。赤ちゃんの時は、食べる以外にする事が無いし歩けないのでベットに寝たきりだ。その食べるだけど、母乳なので恥ずかしいのだ、本能で胸に吸い寄せられるみたいに向かって行ってしまう、子供になると母乳が嫌いになった。


前世で寝るのが好きだったが、それは寝るのが好きなだけで寝てるだけではない。


ベットの上で転がる事は出来たが、見える物が壁や家具などしかないので飽きる。


歩ける様になった時も母さんについてまわるだけの日常だった。


前世の記憶があるが、記憶が有る事でさめた関係になるのかと思ったが、今の両親が好きだ。


前世の最後の記憶はない、よく覚えていない。


高校1年になって部活はどうするか、運動部は先輩にパシリにされると思い文芸部にと考えたが本を読むのは好きだが、基本は運動の方が好きなので部活は何も入らない帰宅部に。


これは最後の記憶じゃないな~、部活はしたいが選ぶべき部が無い。大学に行ったり、就職していた事もないはずだ。高校生で死んだんだな。





今日の宿の手伝いが終わり、街の中を散歩する。


城壁に囲まれたこの街はシューゲル領のカルテド、冒険ギルドや商人ギルドもある結構広い街で交易も盛んなので人の行き来は多い。


今日は冒険ギルドに行く。ギルドでは、掲示板に貼ってあるクエの情報を見に来ている。


文字が読めない僕は冒険者の皆に依頼書の文字の読み方を教えて貰った、依頼書以外の文字は読めない。


張り出されたクエは、護衛、討伐、素材、ポーター。


ポーターは荷物持ちで、戦闘の時は後方で隠れて戦闘が終わるのを待ち、アイテムや魔物の肉などを拾ってまわる。戦闘には参加しない。ポーターは年齢の低い者が受けるがなかなかなり手が居ない。


パーティの募集を見ると魔法使い回復魔法を使える人の募集しかない。


俺は自分なら剣で戦うのと魔法で戦うの、どちらの冒険者が向いてるか考えてみる。


運動神経は抜群にいい。前世ではプロの選手をバカに出来るほどのセンスを持っていた。


見ればそのスポーツのコツが簡単に分かる。スキー、スノボは一日で上級者の中ぐらいにはなった。サッカーのヒールで前に回すのは1回で出来た。


苦手なのがマラソンで恐らく皆よりも速く走れるが、前半遊んでいて後半にやる気が出るために長距離はいい記録を出したことが無い。


体力は有り余っていて、中学の夏休みは友達と自転車で皇居を2周して帰る事を毎日した。なぜか中学の夏の朝に皇居に行くのが俺のトレンド?だと誰かに言われた。


ただ、平和な日本に居た俺が魔物でも倒せるかと言えば無理だと思う。


初めて会った魔物にビビッて、持っていた食べ物をあげて逃げたのは六歳の時で、あれから2年しか経ってない。


俺は冒険者だとどの職に向いてるんだと考えるが、いつも通り答えが出ない。


ギルドを後にして市場に向かう。露天の商品を見ているけど、俺に話しかける店員はいない。買わないで見ているだけなのを分かっているからだ。


食材の露天には行かない。宿の仕入れをしているので、買わない俺にも気を使って声をかけてくれるからだ。


料理を提供している露天に行くと焼肉とシチューの露天がずらりと並んでいる。甘味の焼き菓子も数軒出ているが、客の多くが焼肉を買う。


焼肉のいい匂いがするが、調味料の種類が少ないので味の違いはそんなに無い。


焼肉の肉は魔物の肉の種類が多いのでいろいろ売られている。


まだ物の価値がいまいち分からない。値段設定が高くしてあり値引いて買うのが基本だから、交渉で店側とお客のこの金額ならいいと思えるところに落ち着く。交渉しだいのようだが価格は決められている。


価値観が分からないのは実際の経験が足りないからだろう。


市場の散歩を終わらせて武器屋さんに来た俺は。


「おやじ、名刀は出来たか?」


「何度も言わせるな、ここは普通の武器屋で名刀なんかできるか」


「いや、毎日作ってるんだからそろそろ名刀の一振りが出来るはずだ」


「いや、出来ないから、大体出来ても買えないだろうが」


「そこは、出世払いという都合のいい後払いがあるではないか」


「・・・・・この会話の流れそろそろやめないか?」


「ええ~、凄い剣士が名もない武器屋から名刀を買う流れを毎日しているうちに、本当におじさんが名刀を作る事が出来た的な事がいつか起きる様に、小芝居を続ける俺の暇つぶしはもう終わりを迎えるのか」


「俺も暇だが小僧の暇つぶしに毎日付き合うのもいい加減に飽きた」おじさんが本音をポロリ漏らす。


「俺もおじさんが暇にしてるのが可哀そうで毎日来ていたが、飽きていた」ふむ、おじさんも飽きていたのか、明日からここの暇つぶしの代わりを何処でするかな。


「おじさん、今までありがとう。他を探すよ」


「ああ、今度来るときは買いに来いよ」


「わかった、俺に合う武器を用意して待っていろ」


「待ってるからな、出世払いはないぞ」


「ではおじさん、またいつか」


元気よく武器屋のドアを閉めて街を歩く。


「異世界に来たんだから、冒険をしてみたいな、でも大変なんだろうな」


家に帰ろう、夕時のお客さんが来る時間になる。

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