第十三話 どっちもどっち
「ぐ、何しやがる……何で、今さら……」
殴り飛ばされ、頬を張らせながらもモブノくんが少女たちを非難の目で見ています。
「そ、それはゴメン……でも……お願い……ちょっと考え直させて欲しいっていうか……その冷め……ううん、ちょっと、分かんないんだけど……」
「ぐすん、ひっぐ……ぐす……」
「すまん。私も舞い上がっていたのか……分からん……どうしてあんな……」
少女達も気まずそうな表情を浮かべています。
彼女たちなりにも罪悪感のようなものを感じているようです。
だって……
「ふ、ふざけんなよ！ あんだけ雰囲気出して、俺を好きだって言って……抱いてって言ったのもお前たちじゃないか！ しかもそんな恰好までしてベッドで待っていて……それが何で今になって「嫌だ」とか言って、しかも殴るんだよッ！」
そう、彼の気持ちはまさにごもっともなのです。
もちろん、それは少女たちも分かっているのです。
でも……
「分かんないわよ、私にも……ただ……このままリュウセイに全員で抱かれて……みんなであんたの女になって平等に愛してもらうって……そんなんで本当にいいのかなって……」
「ぐすっ、うぅ……私……急に、分からないのですが、急に鳥肌が立って……体と心が拒絶して……」
「リュウセイ。すまぬがここは仕切り直させてもらえないか？ 私たちも時間がやはり欲しい……」
チートから覚めた彼女たちはもう、気持ちまで冷めてしまっているのです。
「そ、そんなの認めるかよ！ ざ、ざけんなよな！ お前ら、俺に助けられて、普段はあんなにイチャイチャベタベタしてきて、ご機嫌取って、告白してきて、いざ一線超えようと思ったらそれかよ、ふざけんなよな！」
「リュウセイ……」
「あ～、くそ、もううんざりだよ、お前らなんか。もう知るか！」
「え、リュウセイ……」
「もう、お前らなんか知ったこっちゃねぇ。勇者の使命とかもうどうでもいい。俺は別に……そうだ……今の俺は女に何も不自由はないんだからよ！」
「ッ、使命はどうでも……そ、それは待ってよ、リュウセイ！ あんたはこの世界を救うために――——」
「そんなもん、知るかって言ってんだよ！ 都合のいいこと言ってんじゃねーよ、バーーーカ！」
これは……何とも見るに堪えないといいますか……
『まっ、こんなもんだ……分かったか？ マインよ』
『御主神さま……』
『でも……何だか……うん、どっちが悪いのでしょう……』
『人間たちの諍いに、良いも悪いもない。言うとすれば……『人間なんてこんなもん』……でよいのだ』
『そんな……身も蓋もない……女の子たちは、まぁ、チートで望まぬことにならなくてよかったみたいですが……モブノくんが少し報われなさすぎな気も……』
『報われる？ あやつはチートで調子に乗っていただけ。それが元に戻っただけであろう？』
『でも、そのチートも元々は神々が勝手に与えたものです……』
そう、突然これまでの自分からは想像もできない力を手にしたら、有頂天になってしまうという人間の心理も理解できます。
そしてそれは、元々は神々が勝手に与えたもので、それをこっちの都合で回収しているのです。
『それなら、これまでの転生者やチートスキルを与えられた者たちもそうであろう？』
『うっ……』
『あれはよくて、こっちはだめ？ ダブスタエンジェルめ。その唇を塞いでくれる♡』
『御主神さま、まだ、話しの……あっ、ん……』
そして、御主神さまの言う通り、これまでもこういう場面を見てきました。
僕も最初は「ただチートを回収するだけ」ということに何の疑問を抱きませんでした。
でも、最近思うのです……これでいいのかな？ ……と。
