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七つの神と星の少年  作者: 葉山亜月
序話:神儀の町
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第七節:怪物

パーダは真っすぐにメンダの屋敷へと駆けていた。

道の脇に転がる瓦礫や骸には目もくれず、ただ駆けていた。

彼に残された希望はメンダの安否のみである。

目的の屋敷がもうすぐそこに見えた時、パーダは足を止めた。

風が止み、刹那の静寂を感じる。

しかしそれは静寂ではない。

赤く冷たい空の亀裂は轟音を起こし、それは陽炎のように揺れた。

(この音は……、この耳が壊れるほどの音は何だ……、いや、()()!!)

空が意味もなく音を立てることはない。

パーダはそれを理解し、空に潜む音の正体を探して見上げた。

耳を(つんざ)く程の威圧的な轟音はただの効果ではなく、パーダには呻りを伴った声に聴こえた。

空を飛ぶ大きな獣、あるいはもっとおぞましい者なのか、いずれにしてもこの世に存在するとは思えぬような、まさに轟音と呼ぶべき叫び声だ。

犯人捜しの答えは、一番大きな亀裂の奥からやってきた。

最初に紫色の闇から這い出る二本の灰色の棒が見えた。

まるで亀裂の端を掴むかのような形に曲がったそれの先は七股に分かれ、先端は黒い塊になっていることから、おそらく手であることが窺える。

先ほど同じ亀裂から落ちてきた隕石と同じ、あるいはもっと大きいだろうか。

間違いなくこの世ならざる怪物であることは疑いようもない。

パーダはこの光景から目を離すことなく、何も言わずに空を見上げていた。

道脇の人々は手を見ると同時にほとんどが気を失って地に伏していた。

もはやパーダにあるのは恐怖や絶望ではなく、諦めに近い脱力感だった。

それでも彼はただ空を見上げ、いずれ全容を表す怪物の観察を止めない。

それは父親の影響だろうか、感情とは別の思考が動き続けた。

(あれは手……。でも、指の数が多い。おそらく七本か……。)

パーダが手の観察をしていると、おそらく腕である部分が亀裂の奥へと少し戻った。

その刹那、二本の手は亀裂の端を強く引き、轟音の主は胴、腰、足の順に一気に姿を現した。

勢いよく上空へと這い出た怪物は亀裂の端から手を放し、足を地面に向けた。

正確には、それに足など存在しない。

足であるはずの部分は木の根のように細く、枝分かれした灰色の線が伸びている。

また、丸く大きな胴には同色の翼のようなものが上下に二対あった。

あらゆる部分が特徴的な怪物であるが、この姿にはそれ以上に特徴的なものがある。

いや、()()()()()のだ。

(あ、あたま……が、無い……?)

そう、この怪物には()()()()のだ。

七本指の手と四本の翼が生えた胴体、さらには首と足が無いという、生命として成立しうるはずのない姿だ。

しかしそれは翼を揺らめかせ、胴体もまるで呼吸をするかのように轟音と共に揺れている。

もちろん威圧的な轟音を出せるような喉はなく、しかし轟音の主であることは間違いなかった。

空の亀裂は次第に小さいものから消えてゆき、最後は怪物の横に浮かび続ける大きな一欠片のみとなった。

そこに至るまでは現れてから数刻もの時間をかけていたが、その間に怪物は滞空したまま動くことはなく、今も空を揺らめいている。

(メ、メンダを、メンダは、探さないと……!!)

怪物を見上げて動かないパーダの意識はようやく戻ってきた。

それと同時に恐怖がこみ上げ、助けを求めるかのように目前の屋敷に走り出した。

緊張と恐怖で覚束ない足を精一杯に御し、遅く駆ける。


その時、上空の怪物は更に大きな雄叫びを上げ、怪物の胴体は地上にいるパーダの方へと傾いた。

轟音に驚いたパーダは振り返り、再び怪物を見上げた。

怪物は視界の正面に大きく映り、無いはずの顔に見られているかのような緊張感が走った。

(こっちを見た!?ま、まずいぞ!!)

直感と状況は同時にパーダの危機感へと変化した。

パーダは足を止めることなく、背後に怪物を残したまま前に進み続ける。

その直後、怪物は胴より長い右腕を前方に突き出し、内側から二本目の指がパーダを指した。

パーダはそれを見ることなく走り続ける。

しかし次の瞬間、パーダの右から風切り音がした。

やってきたのは音だけでなく、右足の前方には自分の胴体と同じくらいの大きさの黒い塊が刺さった。

その正体は言うまでもなく、パーダの後方から斜めに地面を抉っている。

だが、地面を抉るのは黒い塊だけではなかった。

土煙が散り、眼前にある地面と黒い塊の間には明るい黄土色の物体が挟まり、その端からは赤い液体が飛び出している。

そう、飛来した黒い塊はパーダを貫き、右腕を切り落とした。

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