第六節:安否
パーダが自宅に着く数刻前、メンダは街の中央にある屋敷に辿り着いていた。
「ハァ、ハァ……。クソッ、ここにも……。」
隕石の一つはこの屋敷の庭に落下していたようで、建物は西棟の一部が崩れ落ちている。
全速力で走ったメンダは息を荒げたまま開け放たれた門を走り抜けた。
「父さん、母さん、みんな……!!」
夕方はキッチンや食事場のある東棟に人が多くいるため、無事である確率は高いだろう。
メンダは入口の大扉の片方を引っ張り、自分が通れるだけ開けるとすぐに東側の廊下へと走った。
「誰か!誰かいるか!?」
外の荒れた音に負けぬ大きな声で叫び、廊下中に声を響かせた。
すると、奥にある一室、従者用の食事場から女性の声が返ってきた。
「メンダ様!?私共はここにおります!」
「その声はエレノアか!今そっちへ向かう!」
メンダは人がいることに安心しつつも、焦った足取りで食事場へと向かった。
食事場に入って中を見渡すと、そこにはメイド長のエレノアをはじめ、多くの従業員が身を寄せていた。
「メンダ様、ご無事で何よりです。もう本当に、何かあったのではと。」
今にも泣き崩れそうな声でエレノアが言葉を連ねる。
「それはこっちも同じだ。従者は皆生きているか?」
「東棟にいたコックとキッチンメイド、パーラーメイド、ナースメイド、それと訪問医一名は皆此処に集まっております。申し訳ありませんが、他の者の安否は未だ確認できておりません。」
「いや、良い判断だと思う。この時間、西棟近くで働いている者はいるか?」
「ランドリーメイド三名、それに庭師一名が西の庭に。」
それを聴いた直後、言葉にならない恐怖と吐き気がメンダを襲った。
「メンダ様、大丈夫ですか!?」
急に口を抑えたメンダを心配したエレノアが話しかける。
「そうか……。西の庭に隕石が落ちて西棟は半壊している。皆は落ち着くまでここにいるといい。」
「西の庭……、で、では彼ら……。」
静かに会話を聴いていた他のメイド達が動揺しざわざわと話し始める。
「あぁ。生きているとしても、今確認しに行くのは危険だ。」
皆が不安の声を漏らしているが、メンダは話を続ける。
「それと、父さんと母さんは無事か?」
「領主様とご婦人は執事が地下壕に連れて守っているはずです。入口はここを出てすぐの階段横にあります。きっとメンダ様を心配なさっているので、会いに行かれるのが良いでしょう。」
「よかった……!!ありがとう!」
メンダは小さな子供の用に喜びの声を上げた。
その笑い顔と声音でメイド達の不安が少し和らいだようで、エレノアもメンダを見て微笑んでいる。
「え、えっと、そ、それじゃあ行ってくる。」
皆の反応を見て恥ずかしくなったメンダは足早に階段へと向かった。
壁や床が煉瓦で覆われた地下の階段を下ると、目の前には二重の硬い鉄扉があった。
メンダはその一つを開けて通った後、もう一度閉じてから次の扉を開ける。
中に入ると、目の前にはランプの灯りに揺れる三つの人影があった。
「父さん、母さん、ユエ!」
カーテンの奥の人影に向けて叫ぶと、すぐに返事があった。
「メンダか!」
応答と共にカーテンが開け放たれ、此方を見る三人の姿が見えた。
「メンダ!無事でよかったわ!」
「メンダ様、ご無事で何より。」
「あぁ、俺は無事だ。良かった。皆生きてて……。」
三人泣きそうになりながらも声をかけ、両親は揃ってメンダに抱きしめた。
メンダも両親の無事を確認して目に涙を浮かべる。
しかし、両親は抱きしめたメンダを離して正面に向き直ると、涙ぐんだまま真剣な面持ちになった。
すると、父さんが口を開いた。
「メンダ、今から言うことを落ち着いて聞いてくれ。」