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七つの神と星の少年  作者: 葉山亜月
序話:神儀の町
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第二節:散歩

翌朝、僕は日が昇る前に目が覚めた。

出来るだけ考えないようにしていたが、やはり昨日の木札が気になっていたのだ。

期待というより、不安が大きかった。

他の人が神から授かった才能は一目見て理解が及ぶような文字だった。

《星》とは何か。

祖母はこれが未来の言葉で他の世界を意味するという。

もしそうだとしても、それに何の意味があるのか。

考えても何一つ答えは出ない。

「少し、散歩でもしてこようかな。」

そう呟いて、僕は家から出た。

何か悩み事がある時、僕はこうして散歩をする。

それは父が書いた手記に影響されての行動だろう。

父の手記にはこう書いてあった。


―――――


数日前、珍しく彼から相談があった。

(くだん)の死亡事故の原因を特定してほしいという。

私は別件を担当していたが、同僚の頼みとあれば手伝ってみようと思った。

しかし、彼から見聞きした状況と痕跡だけでは原因に辿り着くのは困難であった。

その日は一度諦め、気分転換に家の周りで散歩をした。

仕事のことは考えず、見慣れた景色や空気を味わっていた。

そろそろ帰ろうかと思ったその時、ふと一つの調書の内容の違和感に気付いた。

私はすぐにメモ帳に走り書きを残し、家に帰った。

翌日同僚にその違和感について話してみると、その周辺の事を詳しく調べ直してくれた。

すると、現場にあるはずの証拠品が不足していることが判明した。

それが故意に持ち去られたものだとしたら事故ではなく事件かもしれない。

このことがきっかけで彼の担当する件は再度捜査班が組まれ、解決へと動き出した。

ほどなくして無事に解決することとなったが、これは事故ではなく、現場にいた一人の研究者が事故に偽装した殺人であったと断定された。

彼曰く、私の提言が無ければ事故として処理されていたらしい。

私が解決したとは思っていないが、彼の同僚として誇らしく思えた。

私がしたことといえば、考えが進まなくなってしまった時に一度全てを忘れただけだ。

単なる偶然か、あるいはそういう才能なのか、私は自分の先入観を捨てることで違和感を発見した。

まぁ偶然にしても気分転換をするのは悪い事ではないし、今後も散歩には出てみよう。


―――――


この手記を見て、僕は父を真似て散歩をするようになった。

もちろん散歩によってこの文字の謎が解決するわけではないが、父の言う通り少なくとも気分転換にはなるだろう。

僕の知る父は手記の中にしかいないが、同僚の仕事を手伝うほどお人好しであったのだから、きっと優しいのだと思っている。

散歩に出てしばらくすると、山の後ろには赤い光が見えた。

そろそろ祖母が起きる時間だ。

もう大人の仲間入りをしたとはいえ、何も言わずに家を出たので心配するかもしれない。

やはり木札については何も思い浮かばなかったが、夕方に教会に行けばきっとわかるのだろう。

そんなことを考えながら、家に帰った。


―――――


家に帰ると、丁度祖母が起きたところだった。

「おはようパーダ。どこかへ行ってたのかい?」

「おはよう。少し散歩に行ってただけだよ。」

「あら、そうなのかい。シュウさんもよく散歩に出ていたわねぇ。」

「その真似事みたいな感じだよ。」

シュウとは先程の手記の主、つまり僕の父だ。

「そうそう、昨晩言い忘れていたのだけれど、南通りの木工店が配達の人手不足で困っていたそうなの。夕頃には終わるそうだから、朝食の後に手伝いに行ってくれないかしら。」

「あぁ、わかった。南の木工店ね。」

僕はこうして町の人の仕事を不定期で手伝っている。

大抵の子供は家業の手伝いや修行をするものだが、薬師(くすし)の許可証が必要なため、大人になった後にしか修行も許されていない。

そのため、特にやりたいこともない僕は専門技術を用いない仕事を中心に手伝うことになった。

十三の頃から手伝い始めたので、三年程度続けている。

もう町のほとんどの店の手伝いをしたことがあるので、町の皆が家族と言っても過言ではないほど親しかった。


祖母が手早く朝食の支度をしてくれたので、早朝の散歩で空腹だった僕はぺろりと平らげた。





お久しぶりです。


体調面の不安により半年間の休養をしておりましたが、ようやく前進できる程度には回復しました。

この小説をご覧いただいている皆様も、怪我や病気などには十分に気をつけましょう。

社会情勢も不安な中ではありますが、この小説を読んでいる最中は、現実から離れてリラックスできる時間になるよう、精進して参ります。

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