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七つの神と星の少年  作者: 葉山亜月
序話:神儀の町
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第一節:神儀

 夢をみた。それはとても冷たい夢だった。

赤茶色に錆びた四角い箱がいくつも連なり、積み重なっている。

見たこともない光景だが、その一つ一つは家なのだろう。

箱の足元に立っていた僕は中へと入り、階段を登った。

箱の一番上に辿り着くと、眼前には僕と似た茶髪の少年が立っていた。

少年に近づこうと足を進めると、地面が大きく揺れ、僕達が乗っている箱が崩れ始めた。

箱が崩れゆく中で、少年はこちらを見て、優しげな口調でこう呟いた。

「パーダ」


――――――――――――


 鳥の(さえず)り、石畳を叩く音が聞こえる。

「んん…、朝?」

僕は薄い毛布を押し退け、上半身を起こした。

(なんか…変な夢、だったな。)

眠い目をこすり、昨晩の夢を思い出す。

見たこともない建物や景色だったせいか、僕はそれを鮮明に覚えていた。

夢で見た景色は全てが知らないもので、今までに聞いた物語や読んだ本にも描かれていないような不思議な光景だった。

コンコン、と扉を叩く音が部屋に響く。

「パーダ、もう起きてるか?入るぞ」

その言葉に続くように扉が開いた。

扉の前には、僕と同じくらいの背丈で青い瞳をした金髪の少年が立っていた。

「今起きたところだよ。おはよう、メンダ。」

「ったく、お前はいつも遅いんだよ。もうすぐ神儀の時間だぞ。」

「悪い悪い、ちょっと変な夢を見てて…。」

「はぁ、変な夢だ?そんな夢がなくても寝坊はしてるだろ。俺はいつもの場所で待ってるからな、早く出てこいよ。」

「うっ、それはそうだけど…。ありがとう、すぐ行くよ。」

彼の名前はメンダ、僕の幼馴染でいつも一緒に遊んでいる。

メンダはこの町の領主の息子だが、隣国から越してきた平民の僕にも対等な立場で接してくれている。

「さて、メンダが怒ると大変だし早く支度をしないと。」


――――――――――――


 軽い身支度を済ませ、僕は家の外へ出た。

幸いにも家では唯一の家族である祖母が朝食のスープを作ってくれていたため、なんとか朝食をとることができた。

既に太陽は僕を真上から見下ろし、道には多くの人が行き交っていた。

僕の家はこの街の南西の端にあるが、この時間になると荷車を引く馬や露店で服や作物を売る商人などで賑わっている。

メンダが指定したいつもの場所はここから北東、大噴水がある街の中心の広場だ。

僕は早足で広場へ向かった。

西の大通りに入り右を向くと、既に大きな噴水とその周囲に建てられた七つの像が目に入った。

更に足を早め広場が近づくにつれ、噴水が徐々に高く昇り、水飛沫の涼しげな風が気持ちを軽くする。

広場に入った僕は七つの像のうち、小さな点が無数にちりばれられたような模様のペンダントを胸に下げた女性の像へと向かった。

ちなみに七つの像はこの世界を護る神であり、それぞれが異なる役割で世界の均衡を保っているという。

僕が目当ての像の前に着くと、像に(もた)れるメンダの姿が見えた。

「やっと来たか、パーダ。寝ぼけていつもの場所を忘れてないかと心配したぞ。」

「そんなのあるわけないよ。六歳の頃から十年も同じ場所に集まってるのに。」

「まぁこんなヘンテコなペンダントの模様を忘れるはずがないな。」

「そうだね。この模様、一体何なんだろう…。」

「さあな。っと、のんびりしてる暇はないぞ。はやく大聖堂に行かねぇとな。」

「あぁ、まだ急げば間に合いそうだね。」

「じゃあ大聖堂まで競争だ!」

メンダの言葉を合図に、僕達は北の大聖堂へと走り出した。

今日は大聖堂で神儀が行われる。

この国では十六歳を迎えた子供に神の祈りを説き、その祝福を受けたのちに大人であると認められる。

ほどなくして大聖堂に着いた僕達は、大扉の横にいる神父に子供達が並んでいるのを見た。

先頭に並んでいる子供が一枚ずつ木札を受け取り、横の小さな扉から大聖堂に入っていく。

どうやら中に入るには、あそこで木札を受け取る必要があるそうだ。

僕達もその列の最後尾に並び、入場の順番を待つことにした。

「そういやパーダ、お前は大人になったら仕事はどうするんだ?」

「まだ決めてない…。」

「お前なぁ…。まぁお前のばあさんもじきに薬屋を畳むらしいし、仕方ないか。」

「あ、そうだ。神儀が終わったらすぐ帰ってくるようにってばあちゃんが言ってた。」

「もしかしたら仕事のアテでもあったのか?」

「うーん、そこまではわからないや。」

「まぁ二十歳までに仕事かその見習いに入れば何も問題ないか。」

そんな他愛もない話をしているうちに、順番が来たようだ。

「おや、パーダにメンダじゃないか。そうかそうか、お前さん達も十六になったのかい。」

「こんにちは、神父さん。」

「よう、おっさん。」

「こんにちは。メンダは相変わらず貴族とは思えんのう。」

「別に領主の息子だからって普段から丁寧な言葉なんて使ってられるか。」

「ほほほ、それがお前さんの良さでもあるからのう。さあ、この木札を持って中へお行き。」

僕達は神父から木札を受け取った。

「ところで、この木札は何なんですか?」

「それは中に入ってからのお楽しみじゃ。」

大聖堂の中に入ると、既に二十人程の子供達が長椅子に座っていた。

僕達もそれに(なら)い、空いている席に座った。

遅れて数人の子供達が順に席に着くと、小扉から神父が入ってきて正面の卓に本を広げた。

神父は小さく咳払いをすると、口を開いた。

「では、これより神儀を始める。」

「まず初めに、この世界を護る神と五つの声の話をする。――――」


――――――――――――


 この世界の根源が産声を上げた時、最初の一声より発された最初の神は大地の神アース。

アースは我々が降り立つ大地を生み出した。

第二の声より空の神エアがアースが創りし大地に降り立ち、その上に空を与えた。

大地には空の重みによって凹凸が生まれ、それが山となった。

第三の声より海の神シャンが生まれ、空には雲と雨が降り注いだ。

降り注ぐ雨はやがて海となり、大地にも水をもたらした。

大地に雨が降り、海の中では新たな希望の芽が出た。

その希望はアース・エア・シャンの加護により育てられ、新たなる生命の神アニマが生まれた。

アニマは万物に魂を与え、それを生命とした。

第四の声より光の神ソラが生まれ、大地を闇から解放し、いくつかの生命に光を教え、それが動物・植物となった。

第五の声より時間の神クロが現れ大地・空・海・生命に動きを与えた。

それにより植物は高く伸び、動物はそれを糧として成長を覚えた。

こうして世界は生まれ、最初の三柱の神の希望は実り、世界が豊かな感情を手に入れた。


 そして最後、あるいは最初に存在した宇宙の神イスパースは我々が住む世界と他の世界が互いに衝突せぬように宇宙を創ったとされている。


――――――――――――


 「―――以上がこの世界の創造主たる神々の話である」

(ようやく長い話が終わった。それにしても宇宙の神だけ付け足したような感じだったな。)

そんなことを考えているうちに、神父が話を続けた。

「それでは、今からその木札に神からの祝福を授かり、新たな才能を開花させる。木札に与えられた祝福は君達の可能性となり、その長所を伸ばすだろう。」

(なるほど、神儀で才能を得た分野の仕事をすると良いのかな。)

「ただ、これはあくまでも君達が選ぶことのできる可能性の話だ。この結果を自分の意志で話すことは出来るが、他人から無理やり聞き出されることはない。また、書かれた文字は神父である私と持ち主にしか見えないように施される。やりたいことがある者は才能がなくても目指すべきである。神々の希望として芽生えた感情を無視することが、何よりも神への恩返しになるであろう。」

その言葉を聞き終えると、周囲の子供達は安心したように周りと話し始めた。

ある者はこの才能が良いと、ある者はあまり自信がないと、それぞれ違った気持ちで木札を握りしめている。

「では、名を呼ばれた者から順に私の前に来るように。木札の内容は私も目にすることになるが、七柱の神に誓って決して口外しないと約束する。」

最初の少年が名前を呼ばれ、神父の前に行くと、神父は小さな声で何かを唱えて木札に両手を掲げた。

その時少年の上に黄色い光の柱が現れ、瞬く間に消えてしまった。

神父が木札を確認し少年に手渡すと、少年は嬉しそうな顔で元居た椅子に戻った。

どうやらあれが神の祝福らしい。

「すげぇな…。あんな光初めて見たぞ。」

横ではメンダが息を呑んで見入っていた。

奇跡を起こすことができるのは一部の神官だけだ。

生まれながらの適性と、奇跡を発現するための弛まぬ努力がなければ使うことができない、特別なものだ。

僕もこれを見たのは初めてだったので、とても驚いていた。

次々に名前が呼ばれているが、僕はまだ呼ばれていない。

住んでいる区画の順に呼ばれているようだ。

「次は…メンダ、前に来なさい。」

「お、それじゃあ言ってくる。」

「うん、頑張ってね。」

「何を頑張れってんだよ。まぁお前には特別に木札の内容を教えてやるよ。」

そう言うとメンダは神父のもとへ歩いて行った。

短い祈りの後、すぐにメンダは木札を手に取って戻ってきた。

「すげぇぞ!俺の才能は采配って書いてあるぞ!」

「采配…!確かに次期領主としてピッタリだね!」

「だろ?なんか祝福を受けてから身体の内側に力が湧いてきたし、本当に才能が開花したみたいだ。」

メンダの嬉しそうな表情を見て、ひとまずホッとした。

彼は生まれながらの活発さと優しさがあるので、街でイタズラをしながらも困っている人は助け、とても信頼されている。

きっと良い領主となることだろう。

「最後はパーダ、前に来なさい。」

遂に僕の番だ。

自分の才能は何なんだろうか。

特にやりたいこともない今、まずは書かれていた才能に従ってみようかと考えながら、神父の前に立った。

神父に木札を渡すと、後ろからでは聞こえなかった祈りの言葉が聞こえた。

「六柱の神を創りし世界の根源よ。その均衡を保つ神の祝福により若き希望に新たなる才能をもたらしたまえ。」

神父がそう唱えると、自分の周りに白い光が現れた。

その光はすぐに消え、神父は木札に目をやった。

「ん…?これは…」

神父が眉をひそめながら呟くと、木札を僕へ手渡した。

不思議に思った僕はすぐに木札に目をやると、見知らぬ記号が書いてあった。

「なんだこれ…文字…じゃない?」

木札にはただ一つ《星》という文字のようなものが書かれていた。

「これは困ったのう…。また明日、教会の仕事が終わる夕方にもう一度大聖堂に来てくれんかのう。」

「…わかりました。」

これが僕に与えられた才能なのだろうか。

この記号が意味するものなのか、又は才能など与えられなかったのか。

それは何もわからないまま、神儀は終わってしまった。

「パーダ、お前の才能は…って、これは聞けないんだったな。」

「いや、教えたいのは山々なんだけど…。それがよくわからないんだ。」

「どういうことだ?木札にはちゃんと書いてあるんだろ?」

「そうなんだけど、この文字が読めないんだよ。」

「ふーん、不思議な事もあるもんなんだなぁ。そんな変なところもある意味お前らしいけどな。」

「はは、そうかもしれないね。また明日神父さんに詳しく聞いてくるよ。」

「それじゃ、俺は早速父さんに報告してくるぜ。また明日な!」

「うん、じゃあね。」

そう言うとメンダは落ちる陽を追いかけるように家へと走っていった。


――――――――――――


 自宅に帰ると、シチューの良い香りが漂ってきた。

靴を脱いで部屋に入ると、キッチンでは祖母が夕食を作り終えたところだった。

「ただいまー。」

「おかえりなさい、パーダ。神儀にはちゃんと行けたかしら。」

「うん、メンダのおかげで間に合ったよ。」

「無事に終わってよかったわ。」

「ところでばあちゃん、神儀で貰った木札に妙な記号が書かれたんだけど…。結局才能はわからないままになっちゃった。」

「おやまぁ、それは…。」

祖母は少し考えた後、羊皮紙に記号を描いて見せた。

「もしかして、こんな記号かい?」

祖母が見せたのは木札に書かれたものと同じく《星》が描かれていた。

「それ!なんでわかったの!?」

「話せば長くなるわ。夕食をとりながら話してあげましょう。」

そう言うと、キッチンからパンとシチューを持ってきて食卓に並べた。

祖母が作るシチューは絶品だ。

野菜の甘味を引き出したクリームソースと香辛料のアクセントが効いた逸品で、パンによく合う。

シチューを食べながら、僕は再び木札の記号について問いかけた。

「あの記号は何なの?」

「あれはね、遠い未来の言葉で宇宙の先、他の世界を意味しているんだよ。」

「未来の言葉…他の世界…?それが何の才能になるの?」

「これは才能というより、運命だよ。ただ、パーダ、あなたが背負う必要のないものよ。」

「うーん、言っていることがよくわからないよ。」

「そうね、それじゃあまた明日でもいいかい?婆は少し用事があるから、その後にちゃんと話すよ。」

「分かった、ありがとう。あ、それとこの木札について神父さんも話があるって言ってたから、明日の夕方は大聖堂に行ってくるよ」

「神父様が…?気を付けて行ってくるのよ。」

「うん、じゃあおやすみなさい。」

こうして僕の十六歳の神儀は終わった。

明日になれば木札の謎も分かるはずだから、今晩はゆっくり休むことにした。






初投稿です、初めまして。

この物語は主人公パーダという人物を中心に展開されるバトルファンタジーです。

バトル要素はもう少し先になってしまいますが、まずは登場する世界観と人物像をお楽しみください。

執筆時間が取れ次第随時投稿する予定なので、投稿ペースはバラバラになります。

また、感想、誤字脱字、表現の指摘、読む上でのレイアウト等、読みづらい部分の指摘もお待ちしております。

今後ともよろしくお願いいたします。

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