Mythos4
手を伸ばせば中指の先が着きそうなくらいの洞窟を4人で進んだ。
懐中電灯が照らす先以外は自分の鼻先すら見えない暗闇の中、時折モゾっとした何かが手の甲に触れるたびそれを慌てて払い除けるのだった。
「アンネ、どこまでボクらを歩かせれば気が済むんだ?」
サングレがボソッと言った。
「俺が言おうとしたんやそれ!!」
…俺は応じてついカッとなった。
「what?」
外人らしいオーバーリアクションで応じる彼であった。
「ケンカはよせよな。こんな狭いとこで。」
セラフの姿が黒い背景に白くぼぅっと浮かび上がっていた。
「一人ぼっちは寂しい、ですもんね!!」
つい気持ちがノッてしまう。
「だから何なんだよそれ!」
…夢のような自動翻訳機だった。
アナトリア女史のボイス選択の妙に心を込めて礼をした。
「…見ろよセラフ。こいつお前を拝んでいやがる。理由は知らねーが気持ち悪いな。」
アンネが久しぶりに声を発した。
「ああ気持ち悪い。」
セラフは即答した。
…暗い奈落の底に終わりが見えてきたようだ。
4人分の懐中電灯の光が反射していた。
「さあここだ。この洞窟がどっかのオッサンのくせー耳の穴だとしたら、あれが耳くそだらけの鼓膜ってとこだぜ。」
アンネが先陣に立って語る。
「ここでしばらく待ってな。」
「待つって何を?」
俺は問いかける。
「敵を。」
彼女は自分の顔を下から照らして答えた。
「アンネ、ボクそろそろ"チコちゃんに叱られる"観たいから帰りたいんだけど。」
サングレは言った。
「ボーッと生きてんじゃねぇよ!?」
思わずツッコんでしまう。
「クッ…」
見るとセラフが目を反らしていた。
つまらないやり取りのうちに異変が生じた。
奇っ怪な微振動が俺達のいる洞窟の奥を揺すぶった。
「来たぜ…」
アンネの声も震えていた。
「何だよ…」
セラフが彼女の肩に手を置いた瞬間。
人型の何かが岩壁から"染みだし"顔が真横に割れたと思うとアンネの顔を丸ごと飲んだ。
「!?」「!?」「!?」
バァンと空気が炸裂する轟音が鳴り響いてアンネの姿が消えた。
「どうしたんだ!」
3人で狂ったように電灯を振り回した。
よく見ると岩壁には模様があり、水槽の金魚の如く洞窟を"泳いで"いた。
「おい!ボク以外の二人、何とかしろ!!」
サングレがへっぴり腰で来た道に後退りしながら言った。
「ヘタレか!」ボーッと生きてんじゃねぇよ。
「先手必勝!!」
セラフが土を踏んで跳躍し、岩壁を殴った。
石片があられと飛んできて俺は目を覆った。
目を開け、照らしてみるとセラフはそこにいた。
周りから影のような"何か"が再び染み出して彼女を羽交い締めにした。絶叫が洞窟内にこだました。