Mythos3
自分の顔のキズはなかなか自分では分かりづらいものだが、今はまさにサングレのグーパンによって真っ黒になっているはずだった。
ナヨッとした感じかと思ったが意外と無骨な拳だった。
俺から微妙に距離を取ることにしたらしいセラフは力任せに鉄の扉をこじ開けようとしていた。
「おいおい冗談だろ。」
アンネが声を掛けるのも構わず業を煮やしたのか空手チョップの要領で手刀を降り下ろした。
南京錠のつるが割りばしを折るように切断された。
「物理法則何!?」
俺はたまらずにツッコんだ。
「真空波くらい発生させられるさ。彼女ならな。」
サングレは言った。
「真空でモノは切れないよ!?」
北斗の拳でもあるまいし…
「開いたぜ。」
セラフが扉を半開きにした。
「ではどうぞ。」
当然の如くアンネが俺に向かって礼をする。
「いやいや。」
俺は暗い洞窟の中を覗いた。
天井にモゾモゾする何かがうごめいているのが見えて心底ガックリ来た。
「…ここで何を探せって言うんだよ、あの女は…」
俺は黒縁眼鏡を掛けたアナトリアの、常に心ここにあらず、といった感じを受ける顔を思い浮かべて思った。
「入んないんならおれが行くぜ。」
アンネが狭い隙間をくぐり抜けて漆黒のただ中へ身体を浸した。
「待てまて。」
俺は彼女を呼び止めた。俺にも男のプライドはある。この場でレディファースト等と浮わついたことをのたまうセンスは持ち合わせていなかった。
女二人と男一人を制して(とくに男一人には遅れをとりたくなかった。)
土中の暗闇に対面した。ポケットの中の懐中電灯を触って確認すると明るい外を振り返った。
アンネが扉の縁を掴んで、こちらを真っ直ぐに見据えながら徐々に閉めていた。
ニーっと笑っていた。口を三日月型にして。
「さよーならー♪」
「ぎゃああああああ!」
頭上でキャッキャいう鳴き声がして黒いものが羽ばたき飛んでいった。
「じょーだんだよ☆」
てへ。とでも言う風にアンネは片目を瞑り。
「殺すぞ!」
年甲斐にもなく怒鳴りつけた。
「するわけねーじゃん☆」
「お前ならしかねねーだろ!」
眩しい光で目がくらんだ。