Mythos
お楽しみください。
俺は平底フラスコやアルコールランプが乱雑に並ぶ理科室のテーブルの前にいた。
「尚満君、ちょっと手伝って。」
この中学校の社会科教師(理科ではない…!)ナジム・アナトリア女史が、炊飯器くらいの容器の中で何かを必死こいて練りながら命令した。
「さっきから何やってるんだよ?」
俺はさじを受け取って聞いた。
「世界の変化について。その説明を。」
彼女はこちらをまっすぐに見据えて言った。
深夜11時に明かりのついた中学校の理科室で、妙齢の女性と二人っきり。しかも共に意味不明な実験に手を染め。
危なすぎる絵面だと思った。
「これをかき混ぜればいいのか?」
俺は腰を下ろし、さじを持って容器に向いた。透明な半液体状のものが詰まっている。
「…この物質にはある性質があります。マイナス200℃近くまで一気に冷やし、その後1日以上の長い時間をかけてゆっくり冷ます…そのようにしてようやく結晶化します。」
「それの下準備って訳?」
俺は力を入れて水飴みたいなそれをかき混ぜながら言った。
「そう。完成したものがここにあるわ。」
「あんのかい!?」
アナトリアは冷蔵庫からフタがついた容器を持ってきた。
「中を見て。」
…ぶつぶつ言いながらも俺はフタを開けて中を覗きこんだ。
俺が先程までやっきになってかき混ぜていた液体と、ほぼ変わることのない透明な物質があった。
「何も変わってないじゃん。液体のままだし。」
フーッとため息をついて彼女は言った。
「…そう。何回同様の実験を行ってもダメ。私の手法は完璧。そこに異論ははさませない。学会でも今騒ぎになってて世界的な問題になりつつあるわ。」
「永久不滅だと思われていた物理法則がこわれはじめているのよ…」
…たいそうな話だと思った。
背後で空気が爆発したようなバァンという音が鳴り響いた。
アンネ=ベーゼが男女二人を連れて立っていた。
「いつ入ってきたんだ…?」
俺はアンネの後ろに控えた男と女の姿をあらためた。二人とも西洋人と見えた。
男の方は明らかに場違いな赤黒のチェック柄のフードつきマント。
女の方は法衣のような純白の衣装に派手な長い赤毛だった。(関係ないけどすごい美人だった)
どちらも二十代、女の方は十代にも見えた。
突然の訪問者に驚いていると男の方が、アンネの横をすり抜けてまっすぐ進んできた。
にこやかに笑い、手を差し出してきた。
「Nice to meet you. I'm Sangre. A hero on New arkham city.」
「お、おう…。」
俺はたじろぎながらも手を取った。
何となくだがこの場にいる日本人が俺だけって凄いな…それにしても…
見事なまでにチープな英文だった。
急ごしらえみたいな。