TRPG風味
「今日集まってもらったのは他でもないわ。」
白壁にブラインドから漏れる陽光が反射して眩しい室内で、アナトリアは俺達に語りかけた。
「またおれらを知らねーところに連れ回そーって言うんだろ?」
軍服っぽい上着を羽織った少女、アンネ=ベーゼ、通称"ユピ"が言った。
「そうよ。」
アナトリアは答えて言った。
金色の髪が輝き、空気を震わせるようだった。
俺は怖い展開を直感で感じ取って思った。
「俺、やっぱ帰る。」
俺は席を立った。
「待ちなさい、尚満君、尚満!」
アナトリアは声を張った。
有無を言わせぬ圧を感じた。
重力が増したような気がして腰をまたストンと椅子に落とした。
「この手の話は最後まで聞くこった。」
気だるそうにアンネ=ベーゼが頭の後ろで手を組んだ。
実に憂鬱な7月の昼下がりだった。3人だけの海の日。
「アンネ、そして尚満君。今度もまたあなたたちにお願いがあるの。これを見て。」
大袈裟な音をたてて天井からスクリーンが降りてきた。
日中の光で相当見辛かったが、回転する地球が3D合成みたいに映し出されているのが見えた。
「ことが起きたのは先々月、29日。」
アナトリアはキーボードを操作した。
画面は地球上の、ある一点をロックして拡大した。ユーラシア大陸の東の果て、日本列島、西日本、中国地方、山陰…街の中に緑繁る丘があった。どことなく人工的な面影が伺えた。
「古墳か…?」
俺は呟いた。
「そう。構築された詳細な年代は不明。地元住民は○◯天皇の陵だと考えている。学術的根拠はなし。この中には石で作られた部屋がある。それがこの写真。」
アナトリアはポンとキーを叩いた。
俺は息を飲んだ。
スクリーンに映し出されたのは、人骨だった。
それもおびただしい量の。
石で造られた空洞の中LEDライトで照らされ、ブルーシートに乗せられて山と積まれていた。
「これ…発掘されたのか…?」
「なわけねーだろ。」
すかさずアンネが言った。
スクリーンを見直して俺は合点し直した。
積み重なった「かれら」は数百年前、数千年前の古代の名残でありはずはなかった。
割られて鋭いままの先端。
変色した何かがこびりついた頭蓋。
それほど見慣れているわけではないが少なくとも俺達と同じ時を生きたものたちの成れの果てであることは明白だった。
「どういうつもりだ…?」
俺は低い声で言った。
「去年の豪雨被害で地盤が緩み、加えて今年5月に起きた小規模の地震の影響で入り口が崩れて見つかった。ニュースにはなっていない。」
「ニュースに"ならなくした"ンだろぉ?」
「そうよ。アンネ=ベーゼ。」
アナトリアは答えた。
「俺達にどうしろって言うんだ!? 完全にヤバいやつやん!これ!!」
俺は今度こそ席を立ち、ドアノブに手を掛けた。
「石室からは同時にこれが見つかった。」
アナトリアはビニール袋に包まれたなにかを、振り返る俺に提示した。
太陽印の、その青いパッケージには見覚えがあった。
輪ゴムで縛られ、ネームプレートがご丁寧にも取り付けられたそこにはしっかりと「常磐代耶」と書いてあった。
「いなくなった彼女を探す機会よ…」
「教えてくれ。」
俺は再び着席した。