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見えない境界線を越えて  作者: 帰宅
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再会

 バスを降りた瞬間、黄色いほどの眩しさ、むせ返るような暑さ、じめっとした空気、叩きつけるような蝉しぐれ、そこらに充満した草いきれなどが一体となったものが、僕の存在を圧倒した。

電車を降りた後、30分ほどバスに揺られて辿りついた場所は、田畑や山に囲まれた田舎である。

ひ〇らしとか、のん〇んびよりとかに比べれば閉鎖的な場所でもないけれど。

僕の他に、バスを降りる者はいない。バスに乗っていたのは僕を含めて3人だった。まあ、人口が減少してきている田舎だし、これといった観光スポットもないため仕方ないか。バスは僕を下した後、数少ない乗客を乗せて山の方に上っていった。

ほんの四か月前までこの土地に住んでいたはずなのに、妙に久しく感じる。

僕は高校を卒業した後、県外の大学に通い一人暮らしをしていた。今日は8月13日。夏が来て、8月に入りお盆休みに突入したので帰省してきたというわけだ。

少し前まで住んでいたという実感が薄い。僕が留守にしていた間のこの場所の時間に触れないだけで、どこか遠くの街にやってきたみたいな、旅人として訪れたような。。これが故郷に帰るという気分なのだろうか。生まれて初めて味わう奇妙な感覚に少々戸惑ってしまう。


感傷に浸りながら、10分ほどスーツケースを引いて歩いていると、実家の前に着いた。

暑い、とにかく暑い。ちょっとあるいただけで来ているTシャツが汗びっしょりだ。

家を目前にして緊張する。汗の量が増した気がする。

家の敷地に入るのにやけに慎重になった。庭に敷かれた砂利を踏みしめながら歩いて、玄関扉の前に来る。

さて、扉を開けるぞ。

「んっ…」

意気込んで扉を横へ引こうとしたもののカギがかかっていた。もしかして、母も妹も留守にしているのかな。父は海外出張中だし。

今日は休日のはず。妹は遊びに行ったのだろうか、母は買出しにでも行ったのだろうか。それとも、部屋で寝ているとか。

仕方なく財布から実家の合鍵を取り出した。

「ただいまー」

返事がない。

「ただいまー!」

少し大きな声を出してみたが、薄暗い空間に声が響くだけで反応は見られなかった。人のいる気配もしない。誰もいないんだろう。


取り敢えず、玄関から続く廊下を少し進んだところにある階段から2階へ上がり、自分の部屋に入り込んだ。

ちなみに隣には妹の部屋がある。

部屋に着くと取り敢えず荷物を少し片づけ、しばらく使われていなかっただろうベッドの上に腰を掛けた。うーん、暇だ。そうだ、暑いけど散歩でもしてこようかな。帰りに駄菓子屋に寄ってアイスでも食べてこよう。


家を出ると、また酷暑が降りかかってくる。しかし、これも夏の醍醐味といえば醍醐味だ。今は、久しぶりに行ってみたい場所がいくつかある。

駅で買った1リットルのお茶のペットボトルはまだ半分よりも多く残りが入っているし、水分は大丈夫だろう。最悪、自販機で買えばいい。


実家のある集落を抜け、水田に囲まれた道を10分ほど歩くと、右手の方に石造り鳥居が見えてきた。鳥居の後ろにはこんもりとした森がある。

鳥居をくぐり森の中へ入った。すぐに石段がありそれを上っていく。天上は青空が見えないほど木で覆われていて、薄暗い。わずかに木漏れ日が差し込んでくるのみだ。神域の森の中は外とは違って、ひんやりとした空気が支配している。神社の神聖な雰囲気も相まってより涼しく感じるのかもしれない。

ここもよく来た場所だ。小学生のときはかくれんぼや鬼ごっこなどでよく使っていた。

石段をしばらく上がると、平坦な道になる。ここは踊り場のような場所で、さらに20mほど先にはまた石段が待ち構えている。

僕は、直進して次の石段に足をかけた。社殿はもうすぐだ。転ばないように下を向き、一歩一歩、確実に上っていく。

そのとき、気配を感じた。

見上げると、上から誰かが降りてきた。白いワンピースを着た少女だった。サンダルを履いていて、麦藁帽を被り俯きがちにやってくる。

「こんにちは」

僕はすれ違いざまに挨拶する。

しかし、彼女は何も言わず。通り過ぎていってしまった。

聞こえなかったのかな。まあいいか。それにしても少し不思議な感じがする人だったな。


石段を上り切り、社殿の前に来て賽銭を投げて、鐘を鳴らす。ここは山の神を祀っている神社だ。

作法はよくわからないから取り敢えず、手を合わせてお祈りする。

突如、僕の脳天に衝撃が走った。

さっきの少女。

あの雰囲気。

あの横顔。

どこかで見たことあるような。

そうだ、あの面影には確かに見覚えがある。

脳みそが搾られるような感覚に襲われる。とてもソワソワする。

次の瞬間、僕はすぐに駆け出していた。何かに突き動かされるように。






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