私のすべての人
●2025年10月1日全編書き下ろしノベル7巻&8巻発売
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「あの……もしよろしければなのですが、皆さん……私と一緒に旅行へ行っていただけないでしょうか……」
ミスティア様が屋敷の使用人たちに自分の意向を伝える背中を、一歩下がった位置から見守る。
彼女の背後、彼女の隣は私の位置だ。誰にも譲らない、私だけの位置。なぜならこの屋敷で一番御嬢様に近く、この屋敷の使用人たちの中には、私を殺せる人間が一人もいないからだ。
庭師や専属医の毒は効かない。料理人掃除婦御者門番執事が束になって襲ってきても全員殺せる。だから御嬢様に過ぎた想いを抱き御嬢様が嫌悪を示せば殺していた。現在その兆候は見えない。使用人たちは日増しに御嬢様への想いを強くしている。いつなにかの拍子に爆発するか分からない中、御嬢様は何も気づかず、悪化させるような行動ばかりとる。
私は、彼女に変わってほしいと思うことは無い。
ありのままの彼女でいてほしい。
彼女の、思うとおりに生きてほしい。
もう誰も助けられなくなって、人を蹴落とすような人間に成り果ててもいいのに。変わったミスティア様として愛するのに、私だけは受け入れる。
彼女のためならなんだってしたい。
でもそれを許さない状況がある。御嬢様は学園に入学してから何度も危険な目に遭い、それでも人に手を伸ばし、助けようとすることを決して諦めない。
そんな彼女が愛おしくて、愛おしく想う自分が苦しい。生きていてほしい。死にたくなったら一緒に死ぬ。生も死もすべて彼女に繋がっていることが誇らしい。だからこそ、この世界が定めたという彼女の末路は許せない。
『いやいや、あとできれば生きてる時に出来るお願いもたくさんしてね』
私は五年前に彼女とした約束を思い出す。
彼女の心臓が鼓動している間にしか出来ないこと。思い当たる願いが一つある。彼女が自らの前世について話をし、投獄を迎え死の道を辿る可能性について打ち明けた夜、芽生えた願いが。
それを声にすることはないだろう。でも私はきっと一生願い続ける。
私の知らない場所で殺されないでほしい。
同じ墓に入りたい。
その二つとは異なり、度が過ぎた願い。
願いは叶えたいと祈るもの。
私はその願いが叶ったら、嬉しい。でも叶えたくない。至上の幸福と最悪の地獄を同時に味わうことになるから。
だからどうかこの願いに気付かないでと、祈る。
「どうか、お気を付けください。私は、貴女を私から守ることだけは出来ない」
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