馬追い
●2025年10月1日全編書き下ろしノベル7巻&8巻発売
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疑似修羅場事故から一週間後の夕暮れ。私はシーク家にて乗馬練習を終え、ひたすらに馬を撫でている。というのも先生に「屋敷に取りに行くものがあるから、少し待っていてほしい」と頼まれたからだ。多分馬小屋の鍵を忘れた、とかなのだろう。要は馬の見張りだ。
「おー、よしよし、」
そう言って馬を撫でる。返事は無い。馬は生きている、ただ言葉が通じないだけだ。馬を撫でながら修羅場事故を思い出しため息をつく。またイレギュラーを引き起こしてしまった。
レイド・ノクターとエリクが出会うのは間違いなく学校に入学してからで、十歳の頃に出会う訳がなかった。ましてやミスティアの屋敷でなんてありえない。どうしてこうも私は間違いを繰り返すのか、私の学習能力は平凡だと思っていたが、それはそれは低いものだったらしい。
幸い今回はエリクにもご主人呼び以上の異常行動は見られなかったし、レイド・ノクターにも異常は見られなかったから安心だ。しかし今後より一層気を付けなければならない。過ちは繰り返してはならない。
「取り返しが付かなかったことをした時に、出来る事ってなんだと思う?」
馬に話しかけるが、当然ながら言葉は通じない。アニメや漫画みたいに「ヒヒン!」みたいな返事もしない。相手は馬。人間の言葉は分からないし、私も馬の言葉は分からない。ああ、今この瞬間馬に「ねぇ、お願いだから話しかけるのやめて!」と言われていても、私は分からない。だから話を続ける。
「切腹だよね……」
馬を撫でながら続ける。もう投獄死罪断頭を待つ前に責任を取って切腹の方が現実味を帯びてきた。気分が滅入る。どんどん自分のしている行動が裏目に出ている気がする。
もういっそどこか遠くへ行きたい。
ああ、そうだ、留学だ。留学しよう。そもそも学校に通うのをやめてしまえばいいのでは?エリクを主人公に会わせる使命があるな……いや、主人公に会わせてご主人様呼びをやめたら即座に留学も手だ。それに入学前に飽きてくれたら入学前に行けるじゃないか。でも、そんなに上手くはいかないのだろう。
「いざとなったら乗せて遠くへ連れてってね」
いや、この馬はシーク家の馬だから、実際この練習が終わったら会うことは無い馬だけど、何となく撫でているうちに縋りたくなってしまった。
「好きなのか?」
振り返ると先生が立っている。馬に熱心に話かけているのを見られてしまった。言葉が通じないことをいいことに縋りつく様を。平静を取り繕い「そうなんですよ」と返す。
「……じゃあ明日、買いに行くか、鞍でも」
くら? 鞍? ああ、鞍かと理解する。丁度今まさに私が撫でている馬の背中についてる「これがあることで人間が乗りやすいよ」という座席の様なものだ。他にも色々理由があるそうだが、逃亡の時は馬に鞍をつけている暇があるかという問題や、あと馬車だから必要ないとあまり重要視していなかった為によく知らない。好きなのか? というさっきの質問は、馬についてだったのだろう。
「明日の予定は空いてるか?」
「空いてます」
「なら、明日の昼に迎えに行く。」
先生は私に「今日は解散だな」と言って去っていく。流されるまま返事をしたけど、明日、一緒に街に行く、ってことか。嫌な予感を感じはするものの考えれば、先生と主人公が街へ行くイベントは無かった。それに、先生と街に何かしらの因縁がある訳ではない。
私は気に留めることはせず、軽い気持ちで行くことを決めたのだった。
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