おもしれー女
●2025年10月1日全編書き下ろしノベル7巻&8巻発売
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「イフの死に関係しているのは、貴女のほうだったのね、アンジー」
構えていた痛みはいつまでも襲ってくることがなく、代わりに聞こえてきたメイリーさんの声に、耳を疑った。
メイリーさんはアンジー嬢へ斧を向けていて、彼女を睨んでいる。
「ずっと疑問だった。ミスティア・アーレンに、どうやってあんなにも心の優しいイフが狂ったのか。家族まで焼き殺してしまえたのか。ミスティア・アーレンと話すたびに、その疑問は濃くなっていった。その代わりに、どんどん思うようになったことがあるのよ」
「ふうん、どんな?」
「アンジー、貴女がイフを追い詰めて、焼き殺したのでしょう」
「私? 私のせいだっていうの?」
「ええ。貴女はいつだって聡明だった。公爵家から、三人を連れ出るくらい簡単にしてみせた。こうして、爆薬を教室に持ち込むことだってできた。ミスティア・アーレンが彼を誘惑したことよりずっと、貴女が彼を精神的に追い詰め殺させようとして、失敗したから私にさせようとしている、そう考えたほうが、ずっとしっくりくるのよ! アンジー!」
「ふ、ずいぶんヒロインらしい目つきになってきたじゃない。最初からそういう顔をしていれば、イフも貴女を好きになったんじゃない?」
メイリーさんの苦し気な問いかけに対して、アンジー嬢は鼻で笑い、口角を上げる。
「悪いけれど、私は彼にミスティア・アーレンを殺してなんて、一度も頼んでいないわ。貴女が好きな彼は、そこにいるバグまみれのアーレンの娘を好きで、ただ行動しただけでしょう? 私は、アーレンの娘を殺してこの世界をリセットすれば、シナリオは正されると嘘をついただけよ?」
そのとき、クレセンド嬢がひどく追い詰められていたことを思い出した。
「もしかして、クレセンド嬢を追い詰めたのは──」
「追い詰めた? 人聞きが悪いわ。このままだと死ぬしかないと、ゲームのシナリオを教えてあげただけ。半信半疑だったけど、崖から人が落ちるのを見たら、私のことを神様みたいに扱ったわ。でも、神様が前世を思い出したのは赤子の頃──十五年も前だから、ちょっとシナリオが変わっていても、仕方ないわよね? 殺人鬼を脱獄させるとか、別のゲームと混ざっていても」
アンジー嬢はクレセンド嬢に、自分を悪役令嬢であると誤解させ、レイド・ノクターを破滅させないと自分が破滅すると誤解させるように、イフという生徒にも同じことをしたのだ。
普通だったら、絵空事だと思って信じないかもしれない。でも、アンジー嬢も私も、ゲームの知識がある。そのゲームに出ている人物なら、この一年の未来を部分的になら言い当てられる。不安を煽り、言いなりにしていたということだ。
「まぁ、本来攻略されると設定されていたのは、イフ自身ってわけだったけど」
私の隣に立っていたメイリーさんが、息を呑んだ。手に持っていた斧を握りしめ、先ほどよりもずっと速くアンジー嬢へ駆けていく。
しかし、すぐに何者かに腕を捕まれ、そのまま地面に伏した。
「おっと、まだお楽しみはこれからだ。飛び入りで邪魔するのはやめてくれよ」
メイリーさんを取り押さえたのは、クラウスだった。目を見開く私に、彼はいつも通りの道化じみた笑みを浮かべる。
「ようミスティア、相変わらず間抜けな顔してんなぁ」
「なぜあなたが、ここに……?」
「なぜって、お友達が……友達は友達にゲロマズミートパイなんて食わせねえか。あれだ、共犯者が夢を叶える瞬間だから、はるばる見に来たに決まってんだろ? 野次馬だよ、野次馬」
「どうせ今年の夏には好きになるんだから、今から試作品を食べてくれたって変わらないじゃない」
「それは絶対お前の妄想だろ」
「ふふ、夏が来たらわかるわよ」
アンジー嬢は、クラウスを見て笑っている。クラウスは、彼女に協力していた。たしかにクラウスの協力があったのならば、人の流れや思考を把握できる。
ゲームでのクラウスは、情報屋の役割を担っている。情報を仕入れるのは、当然影を潜めることも必要になってくる。
だから彼の協力があれば、衛兵やノクター家が探しても犯人を突き止められないほど巧妙に、隠されたルートや情報網を使って、事件を起こすことができるということだ。
「いつから」
「この平民女の素性が暴露されたことあったろ? そんときにこいつから接触してきたんだよ。おもしれー女だなと思って話聞いてたら、お前からノクター奪い返すのが目的って聞いて、なおのことおもしれーと思って」
「つまり……アリスの素性を黒板に書いたのは、クラウスへの、アピールのために……?」
「そうよ、普通に接触をとっても、きっと話すら聞いてもらえないと思っていたから」
「だいせーかい!」
アンジー嬢に向かってクラウスは拍手をしている。
周囲は、未だ武装している男たちに囲まれ、アリスもイヴァライト公爵も眠りについたままだ。私が囮になって逃がす作戦は、全く通用しない。
●2025年10月1日全編書き下ろしノベル7巻&8巻発売
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