↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
245/282

○白の日記Ⅵ

●2025年10月1日全編書き下ろしノベル7巻&8巻発売

◇予約ページ◇https://tobooks.shop-pro.jp/?mode=grp&gid=3106846

◆攻略対象異常公式アカウント◆https://twitter.com/ijou_sugiru?s=20/

 奴の領地にあの忌々しき教会があることで、勘付いたのかもしれない。ただでさえ俺はフィルジーンとして侯爵を消すという大きな行動を起こし、アリーとしてはミスティアを襲った人間と対峙してしまった。ミスティアを襲った人間が不審な死を遂げたことやミスティアの侍女について調べる中で、注意が散漫となっていた。


 そしてよりによってクラウス・セントリックの奉仕活動の場所は、公爵領が立ち並ぶ、先代が毒を流した水路を浄化する設備路であった。水を綺麗にする為に働く仕事は、先代が引き起こしたことで生まれたものだ。クラウス・セントリックの目をかいくぐりながら、専属侍女を調べ、ミスティアを守る。しかしそれを完璧に行うにはミスティアは遠すぎて、あの夏の日、俺はミスティアを守れなかったし、ミスティアの強さを痛いほどに思い知ったのだ。


 そして最悪な形で、夏が来た。ミスティアがセントリック家へ手紙を出したのだ。アーレン家に届く配達物も、送られていく配達物も、あの美術部員の生徒の凶行から目を通すようにしていた。こんなことは、許されないと分かっている。ミスティアは望まないし、万が一知られたら俺は脅威になることしかできない。


 しかし、アリーとしてミスティアの前に立ち、そしてもしかしたらミスティアを切り裂いていたかもしれない斧を思い浮かべるだけで、俺の中の躊躇いや迷い、罪悪感が霧散していく。ただそれだけだったなら良かったのに、ミスティアはきっと許すだろうと感じる傲慢さが心に巣食うようにあって、まともに会話することなく休暇に入ってしまった。


 その矢先の出来事だ。アーレン家からセントリック家へ一通の手紙が送られたと情報が入ってきたのは。


 内容によれば、ミスティアは教会へ行くらしい。思い出せない人物を確かめたい旨も記されていて、いっそこの手紙を破り捨ててしまえばと考えた。けれど、俺はミスティアを自由にさせてやりたい、ミスティアは幸せであるべきとフィルジーン家に入ったのだ。安全を考えるのならば、侍女が敵であると知らせるためにもミスティアが記憶を取り戻すことは必要で、心を守るのならば、ミスティアの記憶は絶対に封じてなければいけないものだった。


 心と、体。どちらかだけがミスティアであれば良かったのに、そんな都合のいいことを夢想しながらも、俺は手紙を送ったはずのセントリックではなくハイム家の馬車がアーレン家の屋敷の前に辿り着くのを物陰から見ていた。


 そして、あの忌々しい教会の、初めて俺と出会った場所でとうとうミスティアが、俺の名を口にした。


 あの日記を、ハイムの子息は読んでいたらしい。俺が最後にミスティアに口にした言葉を、一言一句違うことなく口にした。でも、日記に書いていないだけで、あの言葉――俺を見つけてくれてありがとうという言葉には続きがある。


 あれは夏が始まろうとしていた頃だ。俺とミスティアは、孤児院近くの丘を登っていた。その場所は気候がよく植物が育ちやすい場所で、孤児院の子らが種を持ち寄り気まぐれに埋めることを習慣としており常に爛漫と花が咲き誇っている場所であった。その周りは緩やかな傾斜が続く砂利道が続いていて、花畑が一点だけぽつんとある場所は箱庭の楽園と呼ばれていた。そこでよく、ミスティアと本を読んでいた。もともとミスティアは屋内で遊ぶことを好んでいたけど、俺が日光に当たらないことを心配して晴れていれば外で俺に読み聞かせをしていた。その日も、同じように読書をしていた。ただいつもと違っていたのは燃えるような夕焼けだったことと、雨上がりであったことだ。俺が地面に足を取られ転んでしまったことで、泥が跳ね返りミスティアの服は悉く汚れてしまった。


 ミスティアは、貴族の娘だ。着ている服の金額を知らずとも、それが高くて手に入りづらいものであることは孤児でもわかる。俺はすぐ帰ろうと促したけれど、ミスティアは言ったのだ。


「洗えば落ちますよ」


 そう、屈託なく笑った。俺が汚したミスティアのドレスのことを言っている。十分にわかっているはずなのに、俺のことを言っているような気がしてしまった。さんざん貴族たちに弄ばれ、夫人と呼ばれる人間たちに穢され続けた俺の存在を許してもらえる気がして、泣きたくなった。だからごまかすために、見つけてくれてありがとうと言ったのだ。ミスティアは嬉しくて泣いてるのか悲しくて泣いてるのかの判断に、好意については特に鈍い。そして俺は続けたのだ。





●2025年10月1日全編書き下ろしノベル7巻&8巻発売

◇予約ページ◇https://tobooks.shop-pro.jp/?mode=grp&gid=3106846

◆攻略対象異常公式アカウント◆https://twitter.com/ijou_sugiru?s=20/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 再開 有難うございます。 うれしいです。 また続きが読ませていただけることに感謝です。 [気になる点] 次回が楽しみです。 そして2巻楽しみです。 早速注文してしまいました。 [一言] …
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。