過ちは犯してからでないと気付かない
●2025年10月1日全編書き下ろしノベル7巻&8巻発売
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ということで次の日。私はまたハイム家の屋敷に来た。昨日ぶり、厳密にいえば半日ぶりにエリーの部屋の扉の前である。
昨日、夫人とお茶会の会場に戻ったとき、母はこっそり私に、「意図的にはぐれる時は、ちゃんとお母さんに言ってからにしなさいね」と耳打ちした。娘の放浪癖に理解がある。ありがたい。ハイム家についてのことは少し悩んだ後母にも話をしているから、今日は我儘もなく正しい手順で屋敷に来た。
そして今日ハイム家の屋敷に来たわけだけど、夫人は、「私が傍にいるとだめかもしれない」と広間で待機中だ。
エリーの部屋の前に立ち、ノックをするために扉に手を伸ばす。
「えっ!?」
しかしあると思った扉の感触はなく、代わりに手首に暖かな温度を感じた。閉じていたはずの扉はわずかに開き、そこから手が出て私の手首を掴んでいる。そう理解した瞬間勢いよく部屋の中へと引っ張り込まれた。勢いのまま倒れるように床に着地すると、不思議と痛くない。確認すると私の着地したところにはクッションが敷き詰められていていて、衝撃はすべてクッションに吸収されていたようだ。
周りを見渡すと、クッションが敷き詰められているのは扉の前付近だけ。昨日は無かったことから考えると、引きずり込むこと前提で敷き詰めたのだろう。起き上がると目の前にエリーが立った。今日も黒い布を被り、下から覗いてもその素顔は見えない。
「えーっと、クッションの配慮ありがとう」
「そのままだと怪我するから」
お礼を言うと、エリーはそっけないような、それでいてもじもじしているように言葉を返した。起き上がろうとすると手を差し出され、その手を掴んでお礼を言いつつ立ち上がる。それにしてもこんなに早く部屋に入れられるとは思わなかった。今日は帰ってと怒鳴られるか、無視を想定していたからそちらの脳内模擬訓練しかしてない。エリーは頭を私をつまさきから頭の上まで見るような動かし方をした。
「お母さんに言われてきたの?」
まるでおつかいで来た子供に対する店主のような物言い。しかしその声色は子供に対する慈愛では無く、不信感をにじませている。めちゃくちゃ疑われている。仕方は無い、実際頼まれてはいるのだ。
「また来てとは言われたよ」
「やっぱり」
「でも、今日来たのは、昨日お別れの言葉も無くて、何か中途半端だったからっていうのが理由だよ」
「ほんとうにそれだけ?」
私の言葉に、今度は不信感ではなく、念を押すようにエリーは問いかけてくる。エリーが安心できるよう、私は力強くうなずいた。
「うん。別に部屋から出てとか頼まないし、説得とかはじめないからそこは安心して、理由とかも聞かないし」
人が、部屋に籠るには様々な理由や事情が存在する。例えば「外が怖い」という恐怖心。
外で人そのものに会うことが怖いのか、それとも特定の人間に会うことが怖いのか。部屋から出ること自体に得体のしれない恐怖を感じるなど、それに「理由が無い」という理由だってあり、多岐に渡る。一日二日でどうにかなる問題ではない。
夫人に部屋に籠る理由を尋ねてほしいと頼まれたが、彼女が話をするまで聞くことは無いだろう。それに、彼女の両親が脅威であり、私にしてきたことは全て作り話で、実は彼女を部屋に閉じ込めている可能性も考えられる。その場合は父に相談する必要がある。今は様子見て、慎重な判断が必要だ。
エリーはしばらく考え込んだ後、私に座るよう手で促し、「じゃあ、エリーと遊んで、遊びはそっちが決めていいから」と言って、私がこの場にいることを承認するように自分も座った。
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