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愛するあなたへ捧げます

●2025年10月1日全編書き下ろしノベル7巻&8巻発売

◇予約ページ◇https://tobooks.shop-pro.jp/?mode=grp&gid=3106846

◆攻略対象異常公式アカウント◆https://twitter.com/ijou_sugiru?s=20/


「な、何を言ってるんですか」

「説明では、作ったものは残すなとは言っていたが、

 誰かに食べてもらうことに対して触れていないし、

 交換についても言及されていない」


淡々と話すロベルト・ワイズ。

まだ昔の負い目を感じて、

どう見ても危険性の高い料理の肩代わりをしようとしている?


「いや、大丈夫ですよ。

 本当に交換とかしなくて大丈夫です」

「身体を壊すだろう! 明らかにそれは食べられるものでは……」


やはり、ロベルト・ワイズは気を遣ってくれているのだ。

「そんな危ないもの食べたら死ぬぞ」ということを濁し、

危険物を肩代わりしようとしてくれている。

流石に人の手作りに「それ危険だから!」とは言い辛いし。


けれど実際危険物どころか安全で衛生面にはしっかり留意した料理であり、

味も普通の野菜パスタだ。が、食べられるのは困る。

見た目だけが異端で、味は普通だとバレてしまえば、

失敗作が「ただの見た目だけがアレな料理」に変わってしまう。


「これは私の食事ですのでお気持ちだけで充分です」

「だが……!」


「へぇ、ミスティアが作ったの?」


私とロベルト・ワイズの間に割って入る人影。

レイド・ノクターだ。本当に、

よりによって一体何でこんな時に……。


「美味しそうだね」


どこをどう見ても美味しそうに見えないが、

流石レイド・ノクター。演技も完璧か。

このボルトマカロニを前に自然な笑顔を浮かべている。


「一口貰ってもいいかな?」


御世辞だろうと聞き流すと、

レイド・ノクターは私の手からフォークを取った。


「……え、いや良くないです。

 私が責任をもって食べるので、駄目です」


レイド・ノクターはそれでもフォークを手から離さない。

仮にも婚約者の作った料理なら食べるという優しさが、

彼をここまで駆り立てているのだろうか。


「なら、僕のと少し交換するだけならいいよね?」

「へ」

「僕は具材を挟んだパンを焼いたものなんだけど、

 君の嫌いな食材は入っていないし、食べられると思うよ」


差し出されたトレーには、焼きサンドイッチとスープがのせられていた。

炒り卵と、美しく焼かれたベーコンが挟まれている。

スープは丁寧に切り揃えられた野菜が入っていて、

見るだけで食欲をそそられる。しかし交換なんて無理だ。

特にレイド・ノクターに私の料理の正体を知られてはいけない。


「いや、大丈夫です、間に合ってます」

「僕の料理を食べたくないということかな?」

「ノクター。少し強引すぎるんじゃないか?」


断る私。交換を申し込むレイド・ノクター。

そしてそれを止めるロベルト・ワイズ。

どうしてこんなことにと考えて、

ふいに今もなお目の前に出されているサンドイッチを見る。

初見では普通に美味しそうとしか思わなかったけど、変だ。


シナリオでは、レイド・ノクターも、

慣れない料理に悪戦苦闘していたはずだ。

確か、焦げたパイを作っていた。ならばどうして。

理由を考えて、ある人物の姿が思い浮かぶ。


夫人だ。


ノクター夫人が、教えたのか。


すごく前に、

「母が料理作ってくれてたけど、弟産まれるから最近食べてなかった」

みたいな話をしていた。そして、ザルドくんが誕生し、

彼が成長したことで、ノクター夫人は、

料理をすることもあるわけで……。


最初から、私がどんな料理を作ろうと、

こうしてレイド・ノクターは完璧な料理を作りだしたわけで、

私の行いなんて、微塵も関係無かったのでは。


というか、レイド・ノクターの作った料理に見覚えがありすぎる。

約五年前。私はレイド・ノクターに炊き出しまがいのことをした期間があった。

これは、その時の、料理ではないだろうか。


五年も前のことだし、期間も限定的。

すっかり忘れていたけれど、レイド・ノクターは覚えていたということか。


なら、作戦は最初から失敗で……。


いやでも、まだ結果は分からないし、

失敗作だと思われている方がいいだろう。

過去も大事だけど、今も大事だ。

失敗料理を作る婚約者、温かい、家庭的な手料理を作るアリス。

この図式を作り上げ、今を大切にしよう。


で、どう断ろう。


「そこまでだ」


上から声が降ってくる。顔を上げるとジェシー先生が隣に立っていた。


「人の作った食い物にたかるな、ほら。

 出来たんならさっさと食事する場所行って、学籍番号順に座れ」


ジェシー先生はそう言って、

レイド・ノクターとロベルト・ワイズの肩を掴むと、

この場から去るよう促す。

するとロベルト・ワイズは、心配そうな目を、

レイド・ノクターは冷めた目をこちらに向けながら去っていく。


「ったく、あいつら……。

 お前も出来たんだよな?」

「はい」

「なら、座れ、あと少しで食べる時間だから。

 少し冷めちまうけど、

 皆が終わるまでっつーのが規則だからな」


ぽん、と私の肩を叩いてジェシー先生は戻っていく。

助かった。本当に助かった。

いつもいつも、危機的状況になるとジェシー先生は現れ何とかしてくれる。

本当にありがたい……。


ぼんやりと先生のその背中を眺めていると、

ふとレイド・ノクターに言われた言葉を思い出す。


……ジェシー先生に気をつけた方がいい。


レイド・ノクターの言葉。

あれは一体何だったのだろう。













長机に、各自自分の料理と共に座っていく。

そしてテーブルには、やや焦げていたり、少なかったりする料理が並んでいた。

しかし、全部が全部そうではなく、スープや、

煮込み料理、ソテー、サラダ、パイが並んでいたりもしている。


「ああ、これは母に教わったごく短時間で出来るスープなんだ」


遠くの席でレイド・ノクターが周囲のクラスメイトと話をしている。その近くには、

アリス、ロベルト・ワイズ、そしてルキット様もいる。

学籍番号順と言う制度は、本当にありがたい。

シナリオの進行上の問題なのか、レイド・ノクターたち主要メンバーの学籍番号は固まっており、

ミスティアは離れている。学籍番号順に物事が進めば、

何もしなくても私とレイド・ノクターらの間には、

クラスメイト達という数多の目撃者がいる。何もしなければ、

「ミスティアは何もしていない」というアリバイが出来る。安心だ。


「父は、料理に母を取られるみたいだと言って、

 工程の多い料理をすると渋い顔をするんだ。前から思っていたみたいだけど、

 五年前からそれが顕著になって。

 だから、これは、母が工程を省略できないか考えて出来たスープなんだ」


レイド・ノクターのスープ解説。五年前というのは、

ノクター夫人の妊娠報告のことだろう。ノクター伯爵は、

父に盛大なのろけ話を伝記レベルの手紙で送ってくる。

それは今でも続き、この間父が読んでいるのを横目で見たが、

「妻が可愛すぎて心配、天使かもしれない。神に奪われたくない」

みたいな内容が、物凄く硬い文章で書かれていた。

おそらく妊娠時には相当労わり、保護し続けていたのだろうと思う。


「で、こっちは僕の個人的な好物なんだ」


サンドイッチを示し、にこやかに微笑むレイド・ノクター。

そしてその隣の対照的なロベルト・ワイズに視線を移すと、

彼は向かいの席のクラスメイトと談笑している。


「ああ、煮込み料理を作った。妹が好きでな」


ロベルト・ワイズの煮込み料理。

一体どんな感じかと見ると、

トマト煮込み、といった様子で、失敗はしていない。

成功している。あれ……?


「ええ、ソテーとサラダですの。お料理はあんまり好きでは無くて……」


いじらしく俯くルキット様に、

ルキット様の周りの男子の目が釘付けになっている。

そしてそのルキット様のソテーだが、こちらもやっぱり成功している。

そもそもルキット様は省略されていたのか、シナリオにはいなかった生徒だ。


今回、本当にただ空回っただけだった。

でもまあ、食材を無駄にしなくて済んだし、いいか。

レイド・ノクターには、

「唐突に料理出来なくなった奴」と認識されただけだろうし、

まだチャンスはある。いけるいける。


っていうか、アリスめちゃくちゃ遅いな。

ゲームではぱぱっと大量に家庭料理を作り上げていたけれど、

もうクラスの皆は席についているし、むしろアリス以外の皆は着席している。


一体何をしているんだ。トラブルでもあったのか。

アリスの方へ視線を向けると、遠くからワゴンがガラガラ……と押す人型が見えた。

よく目を凝らしてみていると、アリスだ。


「え……」


慎重に、ワゴンを押すアリス。

そのワゴンには、想像を絶する料理がのせられていた。






「この料理のテーマは、愛と輝きなんですよ!」


アリスがルキット様にそう語りながら、

嬉々としてテーブルに自分の作った料理をのせていく。

アリスが作った料理は、赤と黒で統一されたフルコース料理であった。

それはもう、プロレベルの。


「この赤い飲み物は何……?」

「高貴と可憐から着想を得た木苺の飲み物です。

 鮮やかな紅を生かしつつ、甘さを際立たせ、

 高貴と可憐をしっかり表現致しました!!」


ルキット様が、引き気味にアリスに尋ねると、

アリスは目を輝かせてそう話す。ルキット様の気持ちはわかる。

自分の前に、それはもう異次元レベルのプロのフルコース料理があるのだ。

それを、クラスメイトが作った。委縮する気持ちも分かる。

ある日突然クラスメイトが剣を取り出し空を飛び、

「俺、実は世界を救わなきゃいけないんだ、じゃあな」

と飛んでいってしまったくらいの複雑な、

心が追いつかないような、状況が上手く処理できない気持ちだろう。

それくらい、アリスの料理は、生徒のレベルを逸している。

なにこれ。プロの人なのかな。


前菜は食用の薔薇の花びらをあしらい、

さらに野菜を薄く切り薔薇に見立てて、その薔薇の花弁の中に、

ミルフィーユ状に様々な具材が挟まれ、

さらに美しい曲線を描いた漆黒のソースが添えられている。

スープはトマトのポタージュの様だが、

クリームでいくつもの薔薇が繊細に描かれており、

完全にその職の人だ。職人の域に達している。


「肉料理は、塊の肉を表面だけしっかりと焼いて、

 その後薔薇と香草で蒸し焼きにしました!

 ソースは野菜と果実を煮込んで作ったので、

 さっぱりと食べられます! へへへ。

 デザートは林檎のタルトです。

 薔薇を、薔薇を表現してます! 赤い薔薇です!

 本当はもう少し作りたかったんですけど、

 完成させたかったので! へへへ!」


アリスが蕩けるような笑みを浮かべる。

ルキット様は、「あ、そう」と返事をし、

顔を青くしながらソテーを食べ始めた。


おそらく、アリスのこのフルコースを作り上げる能力は、

夏休みのバイトによるものだろう。そしてアリスは、

努力家でひた向きで一生懸命な子だ。バイトに尽力した結果、

こうしてプロレベルの域に達した。

うん、段々落ち着いてきた。アリスのフルコースのインパクトが強すぎて、

一瞬呆然としてしまったけれど、これは間違いなくチャンスだ。

アリスの卓越したこの料理能力を見れば、

食に関心が全くないわけじゃないレイド・ノクターの好感度は上がるはず……!


レイド・ノクターの様子をちらりと伺うと、

彼は真顔でアリスを見ていた。けれど様子がおかしい。

感心している、尊敬している、驚いている、わけでもなく、

ただじっと動向を窺うような、疑いの目を向けている。

間違っても、ヒロインに向けていい目では無い。


「隣いいか?」


カタン、と物音がして、隣にハンバーグがのった皿がのせられる。

顔を上げると、ジェシー先生が立っていた。


「あ、どうぞ」

「悪いな」


返事をして、礼をすると席に座るジェシー先生。

隣に座っていた生徒は、いつの間にか食事を終え戻ったらしい。

食事を終えたら解散、部屋に戻る仕組みだったことを忘れていた。

あれ、ハンバーグは、もしや先生の?


「それ先生が作ったんですか?」

「まあな。生徒が作ってる手前、作らねえ訳いかねえし」

「なるほど……」

「それに、何か記念とか祝いには、

 こういう手作りがいいって聞くから、な。

 ある程度は覚えるようにしてる」


ハンバーグを食べ始める先生。

何か、安定感があるな。変なことは絶対起きないという安心感が。


「いいですね、そういうの」


そうして私は、安心を得ながら、

ジェシー先生と話をしつつ自分の作った料理を食べた。






ボルトマカロニを食べ終え、水を飲む。

すごい美味しかった。今度作りたいけど、

見た目が常軌を逸しすぎている。あれを屋敷で作ったら使用人の皆が驚く。

改良を加えて彩をどうにかしたいけれど、彩を犠牲にしたことで味が成り立っている節があるし。

どうしたものか考えていると、不意に背後に熱の様なものを感じた。


「アッ……アノゥ……ミスティア様……」


振り返るとアリスが立っている。

手に、ワンカットのケーキののった皿を持って。


あれ、イベント、まだ終わってない……?


「良ければ食べてください。あの、このケーキ、み、

 ミスティア様の高貴さとか可憐さを表せたらなんて思って作って、

 いやでも全然表せてないんですけど、良ければ!

 あっあと漆黒のチーズグラタン! かっこよかったです!

 語彙力が無くてごめんなさい!

 いつも応援してます! じゃあ!」


私の机にケーキのお皿を置いて、猛ダッシュで立ち去るアリス。


ゲームでは、あんなアグレッシブな食事の勧め方はしていなかった。

っていうか。「いつも応援してます!」ってなんだ。

芸能人に対するファンの言葉だと思う。

前世時代、テレビの街頭インタビューで、見たことがある。


とりあえず、食べるか。


断ろうにも、アリスはもう姿が見えなくなっているし、

もしかしたらアグレッシブな勧め方で丁度良かったかもしれない。


ゲーム的には断るのが正解だけど、

断ってアリスに嫌な印象を与えたくないし、

かといって受け取ってイベントを狂わせたくないし。


私は、アリスのケーキを食べるべく、机に向き直ってフォークを手に取った。






●2025年10月1日全編書き下ろしノベル7巻&8巻発売

◇予約ページ◇https://tobooks.shop-pro.jp/?mode=grp&gid=3106846

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