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┗道化師は楽しむ

●2025年10月1日全編書き下ろしノベル7巻&8巻発売

◇予約ページ◇https://tobooks.shop-pro.jp/?mode=grp&gid=3106846

◆攻略対象異常公式アカウント◆https://twitter.com/ijou_sugiru?s=20/


終業式まで三日を切った放課後。

呼び出してくるだろうと思っていた相手は、

計算より早く俺を呼び出した。


「えっと、はじめまして、ですよね?

 クラウス・セントリックと申します、へへへ」


うだつの上がらない笑みを浮かべ、頭を掻く。

すると目の前の歪んだ玩具は冷ややかな目を向けた。


「普通に話していいよ。お前が本当はどんな奴か知ってるから」


瞳も声色も心底冷たい。

これが、馬鹿な玩具を前にして発する無邪気な子供ぶった声色と、

全く同じ場所から発されているなんて、

あの頭の先からつま先まで馬鹿な玩具は想像もしないだろう。


「そうですか? それはそれは。

 で、何の用です? ハイム先輩」


別棟の廊下で、俺を睨む、歪んだ玩具。

エリク・ハイム。優れた能力を持ち、この顔があれば、

女関係でいくつも楽しい修羅場を作り出せそうなのに、

それを一切せず、本人は馬鹿な玩具にしか興味の無い、歪んだ玩具。


「ミスティアに、近付くなって言おうと思って」

「どうしてです?」

「お前の存在が、間違いなくミスティアの害になるからだよ」


歪んだ玩具はきっぱりとそう言う。

なんて面白いことを言うんだろう。

自分が矛盾をしているのが、まるで分かってねえ!


「あははははははは、ハイム先輩は面白いなあ!

 昏倒させて触る人間は害じゃないんですか?」


歪んだ玩具は、体育祭で、

いつまでも思い通りにならない馬鹿に業を煮やしたのか、

香で眠らせ、何かをしようとした。


まぁ、どうせ口付けだろうが、結局しなかった。

身体の一つでも奪おうとすれば、すぐに馬鹿な婚約者を引っ張って来て、

どんな喜劇よりも楽しい劇を見るのに。全く以てつまらねえ。

俺に見られていたことは予想外らしく、

玩具は今にも殺しかねないほど殺気立っている。


「ははは、安心してくださいよ。俺は面白いものを見れたと、

 むしろ感動しているんですから」

「は?」

「だから、先輩にとっておきの情報を教えてあげますよ。

 ミスティア・アーレンの専属侍女は知っているでしょう?

 あの女は……」



大型連休の時、見かけた専属侍女には、確かに見覚えがあった。

どこで見かけたのか長らく思い出せなかったが、

バグラ教会について調べるにつれ、思い出した。


その専属侍女の素性を歪んだ玩具に伝えると、

玩具は目の色を変える。



「だから、先輩にとって最も優先して消すべきなのは、

 俺じゃないと思うんですよねえ」



きっと、今年の夏は、今まで過ごしたどんな夏よりも、

最高に楽しい夏になる。

その、最高の夏を作り上げるには、役者が必要だ。

馬鹿な玩具がある程度信頼を置き、それなりの家柄で、

そして、あいつに執着がある、歪んだ役者が。


「俺、とてもいい案があるんです。

 俺を消すのは、その後でもいいんじゃないですか?」


玩具は俺の言葉の真意を考えているらしい。

出し抜かれないか不安なのだろう。

馬鹿な婚約者や、滑稽な眼鏡と同じ気持ちなはずがない。


けれど、あいつを見つけて、心から良かったと思う。

あいつは、人を狂わせる天才だ。


「で、その案は何?」


玩具の目は、完全に狂気の淵ぎりぎりを揺蕩い、

今にも堕ちようとしていた。














「……ひひ」


そして今、その瞳は、完全に狂気に堕ちた。

専属侍女は自分の罪を告白し、

馬鹿な玩具は専属侍女を巻き添えにして飛び降りた。

けれど、すぐに滝壺から浮上し、

意識のある状態で岩場にいる。心底つまらない。

おそらく大した怪我もしていないだろう。

ああ、退屈だ。

なんて陳腐な心中悲劇だろう。これが劇場なら、

金では無く泥の一つでも投げたいところだ。


けれど、今隣にいる歪んだ玩具を見ていれば、

その気持ちも収まる。

今まで、堕ちきっていなかった歪んだ玩具は、

とうとう堕ちた。きっと、婚約者様ですら敵わないだろう。

今は逆に、あの滑稽な眼鏡の方が迎え撃てそうだ。


ああ、夏休み明けが待ち遠しい。

しばらく馬鹿な玩具は屋敷から出してもらえないだろうし、

夏休み中はあれも動くことは無い。動きも無くつまらないだろう。


ああ、それにしても気分がいい。

朝に食べたパイが甘くないことへの苛立ちが完全に吹き飛んだ。


ディリアの正体が、これでうやむやになるのは面白くない。

が、下手に掘ってつまらないまま消されたくない。


しばらくは、ただ様子を見ていても楽しそうだ。


大きく伸びをしながら、

夕日に背を向け、俺は満たされた気持ちで歩き出した。




●2025年10月1日全編書き下ろしノベル7巻&8巻発売

◇予約ページ◇https://tobooks.shop-pro.jp/?mode=grp&gid=3106846

◆攻略対象異常公式アカウント◆https://twitter.com/ijou_sugiru?s=20/

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