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お迎え

●2025年10月1日全編書き下ろしノベル7巻&8巻発売

◇予約ページ◇https://tobooks.shop-pro.jp/?mode=grp&gid=3106846

◆攻略対象異常公式アカウント◆https://twitter.com/ijou_sugiru?s=20/


「んー、風が気持ちいいねえご主人。すっごくいい気分」




馬車の窓を開き、エリクが髪を風に靡かせ、気持ちよさそうに伸びをする。

私はエリクに促されるまま、ハイム家の馬車に乗って、

バグラ教会に向かっていた。けれど、さっぱり状況が掴めない。

何でエリクが……?


「あの、エリク……先輩は、

 クラウス・セントリックさんの紹介で来たんですよね……?」

「そうだよー」

「ふ、二人って、お友達だったんですか?」


エリクが、クラウスの紹介で来た。それも驚きだが、

エリクとクラウスが知り合いというのも驚きだ。

クラウスはサポートキャラと言う位置づけであるから、

顔見知りであってもおかしくない。けれど、あのクラウスが、

助っ人、協力者としてエリクを指名したのだ。

ある程度の交流はあったわけで。


「友達なんかじゃないよ。

 まぁ、知り合いかな?」 

「い、いつから……?」

「うん、入学してちょっと経った頃かなあ。人手が必要な時に、

 お手伝いが出来ないかってあっちから声をかけてきてくれたんだ。

 それからかな。後は顔が合えば挨拶くらいはする感じ?」


すごく、クラウスのやりそうな手段だと思う。

おそらく、エリクとも私やレイド・ノクターと同じく、

好青年状態での知り合いなのだろう。


「あの、紹介のこと、頼まれた経緯を聞いても?」

「んー? 普通に自分が案内してあげたいけど用事があるから、

 代わりに行って欲しいって頼まれたんだー」


ということは、私はただバグラ教会に興味があるだけ、

って感じで話をしているのだろう。


クラウスの用事。

案外後ろの方で様子を窺っていたり、と言う可能性もある。

注意していないと……。


「まあ、他の人間の案内なら絶対断ってるけど相手はご主人だしね。

 バグラ教会について案内する内容は聞いてあるし、

 立ち入り許可も貰ってるから、今日は安心して僕に任せてよ!」

「案内する内容?」

「うん、ばっちり勉強しておいたから。

 何が起きたとか、……何があるとか。

 カンテラとかも用意したし、準備も万端!」


カンテラ。私も持ってきている。

二人分の光量は心強いと考えていると、ふとあることに気付く。

エリクは、事件のことを知っている。それは当然だ。

バグラ教会を知るうえで、あの事件を知らない訳がない。


そのわりに、何故バグラ教会に行くのかエリクは全く尋ねてこない。

普段なら、聞いてきそうなのに。

もしかして、気をつかわせてしまっているのだろうか。


「エリ……」

「ふふ、それにしても何だか、

 ご主人とデートしに行くみたいだねえ」


エリクは嬉々として笑う。

確かに年頃の男女が二人、

通学でもなんでもなく、馬車に揺られている訳で。

傍から見れば完全にデートだ。

絶対アリス、他関係各所に見られてはならない。

エリクの風評に関わる。


「いやいや……」

「ねえ、このまま旅に出ちゃわない?」


エリクは嬉々として笑う。

状況的に勿論冗談だろうけど、目や声色は本気で返答に困る。

するとエリクは「どこがいいだろう……」と窓に視線を向け始めた。


「どっか、遠いところがいいよね。

 ご主人と僕の事を、だーれも知らないところに。

 ……ねえ、本当にこのままどっか逃げちゃう?」

「駄目ですよ、夏休みは永遠じゃないんですから」

「へへ、そうだよね」


エリクが窓からこちらに顔を向け、

今度は困ったようにして笑う。


冗談か、本気か分からない。

いや、勿論冗談のはずだ。でも、

肯定してはいけないような気がしてしまって、

つい否定してしまった。あまりに非現実的な話しで、

そんなはずないのに。もっと軽く返しておけば良かったかもしれない。


「……はい」

「……そー、だよ、ねぇ……」


エリクはまた窓に視線を視線を向ける。

すると「あ」と声をあげた。


「エリク?」

「ほら、ご主人! 見えて来たよ!

 こっちこっち、あれがバグラ教会! あの白いやつ!」


エリクが私を抱えるように肩を抱き寄せ、窓の外を指し示す。

すると、木々の奥に白い屋根が見えた。

図書館で読んだ本でもその姿を見たけれど、

それよりもっと前に見覚えがある気がしてならない。

けれど、それ以上の何かを思い出せない。












どこか落ち着かない心のまま、馬車に乗っていると、

馬車はゆっくりと停車し、ハイム家の御者が扉を開いた。

するとエリクが先に降りて、こちらに手を差し伸べる。


「どうぞ」

「あ、ありがとうございます」

「いーえ」


エリクの手を取り、馬車を降りる。

周囲は木々で覆われ、物語の中に出てくるような、

森の中の教会、と表現する事が一番正しい様な、そんな場所だ。


そして私たちの目の前には、森の中にぽつんと佇むようにありながら、

まるで森を支配するかのような純白の教会、バグラ教会が建っている。


「ここが、バグラ教会だよ」


エリクが一歩進み、入り口の門に手をかける。

その門には、教会とはどこか不釣り合いな蜘蛛紋章が刻まれている。


頭が、痛い。


痛みを感じていると、ふと映像が痛みとともに頭に流れてくる。


無邪気に遊ぶ子供達を、ただじっと、見ている私。

ふと周りをきょろきょろ見回し、探検でもするかと、

私は、この教会の裏に行って……。


そうだ、ハイム家で、エリクとお茶をした時と、

同じように、私は子供達の無邪気に合わせるのに疲弊した。

そして、しばらくいなくなるかと、その場を離れたんだった。


「エリク、とりあえず、中に入らないで裏から見てもいい?」

「うん。ご主人の好きなように」


隣にいるエリクに声をかけ、承諾を貰って教会の裏へと歩みを進めていく。

教会の前は、雑草一つ生えていなかった。けれど、

裏へと進むたびに雑草は増えていく。

なんとなく同じようなルートで私はこうして通った気がする。


前だけ雑草抜いてるのか。ということはここは誰も来ないはず。

と考えた、ような。


周囲を見回しながら、教会の裏に到着すると、

ステンドグラスが視界に入る。教会の裏側の壁はステンドグラスで出来ているらしい。

が、あたりは完全に膝下ほどまで伸びている雑草で生い茂り、全体像は見えないし、

裏面だから分かり辛い。

反対側は崖のようになっていて、先には進めない。


……来た覚えが確かにある。

この崖の、岩場の中腹から滝が流れ、

下には岩や石に囲まれている、池のような滝壺があるのだ。


崖の方へ近づいて、下をのぞき込みたいのに、足がすくむ。

高いところは落ち着かない。


……ん、でも、この時はそこまで高いところに対して、

何とも思っていなかったような気がする。

犯人が自白する系の崖だ! とテンションが上がっていた。

下を確認できていたのだ。あの時は高所に対して恐怖を感じていなかった。


他に何か思い出すことがないか周囲を見渡す。

教会の裏の壁はステンドグラスで出来ているが、

さすがに硝子だけだと耐久に問題があるらしい。

ところどころしっかりとした壁になっている。

その壁に近づき注意深く観察していると、

草に覆い隠されるように壁に穴が開いていた。


その穴をじっと見ていると、エリクが口を開く。


「何だろこの穴、小さい子だったら通れそうだね。

 いつから開いてるんだろう。

 案外小さい子の秘密の遊び場になってたりして」

「この穴、多分、すごく昔から開いてます……」


ずきずきと、痛む頭。

覚えがある。私はこの穴を見て、「うわ、ダンジョン」などと思って、

入った。私は、入った。


「そうなんだ……、入ってみた方がいいんだろうけど、

 僕らじゃ無理だね。入り口から入って、この穴の先を目指そうか」

「うん……」


エリクに促され、穴から離れる。


その瞬間、また頭に痛みが走って、映像が流れる。


誰かに怒る、私。

誰に怒っているかが分からない。


でも、この穴と繋がっている場所に行けば、

何かが分かる。そんな気がした。
















教会に入ると、それはそれは大きな、教会の天井に届きそうな石膏像と、祭壇。

そしてそれを囲うようにして、

私と同じくらいの背の石膏像が並んでいるのが視界に入った。


そこに光が降り注ぐよう設計されているのか、

極彩色のステンドグラスが設置されている。

教会裏で見たステンドグラスだ。

周囲は埃っぽく、何年も閉じられていたような匂いがするけれど、

光の差している場所は時が止まったようにきらきらと輝き、

どことなく、歪んだ雰囲気を醸し出している。


確か、あの穴がある位置は、丁度祭壇のほう、

礼拝がある時、神父が立つような位置だった。


「エリク、あっちに行こう」


エリクに呼びかけ、祭壇の方へ向かっていく。

すると神父の立つ場所、本や読み上げる紙を置く、

学校でいう教卓のような机の下に、扉があり、

立ち入り禁止、危険、と警察隊の張り紙が貼られている。

張り紙は年数が経っているのか、ところどころ茶色く汚れている。


「これは地下に行くための扉だよ」


エリクが扉を指す。ということは、

地下で行われていた悪行は、ここを出入りして行われていたと言うこと。

ならばやはり、私は地下に行き、被害者の子供と接していたのだ。

地下へ行けば、もっと思い出すだろうか。


「どう? ご主人。何か思い出した?」


思い出した? って。

エリクは、私が何の目的を持ってここに来たか、

知らないはずでは……?


「え……?」

「あれ? 違う?

 ご主人、何か思い出したそうな顔してるなって思ってたんだけど」

「あ、あぁ、なるほど……そんな顔に出て……」

「ふふ、何年一緒に居たと思ってるの?

 もう、五年一緒に居るんだよ? 僕たち」


エリクは私の傍にしゃがみ込み、張り紙をなぞる。


「でも、僕はもう少し早く会いたかったけどね。

 でも、始まりは自分じゃどうしようも出来ないから、仕方ないか」


そう言ってエリクは、扉を閉じるように貼られている張り紙を破いた。

ふわっと、ここでは場違いな紅茶の香りを一瞬感じる。

いや、それどころじゃない。


「ちょっと何してるんですか?」

「ここ、入っちゃおうよ。

 もう十年とか経つんでしょ? 僕たちが入って破けたなんて分かんないし、

 今破こうが一緒だよ。もしかしたら何度も破けて、

 何度も張り直してるかもしれないし」


扉を開くエリク。すると階段が現れ、

下に降りられるようになっていた。


「ほら、行こうご主人。

 全部思い出して、綺麗さっぱりにして、

 屋敷に帰るんでしょ?」


エリクがこちらに手を伸ばす。

私はその手を取った。







●2025年10月1日全編書き下ろしノベル7巻&8巻発売

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