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想いを結ぶ

●2025年10月1日全編書き下ろしノベル7巻&8巻発売

◇予約ページ◇https://tobooks.shop-pro.jp/?mode=grp&gid=3106846

◆攻略対象異常公式アカウント◆https://twitter.com/ijou_sugiru?s=20/

フィーナ先輩と委員会の仕事を終え、

さらに団体競技をこなした私は、クラス座席に向かって歩く。


綱引きなどの団体競技は、団体人数を集める合理性の為か連続している為、

競技への参加が連続し、シャトルランのダメージも重なりじわじわと肉体的疲労が体を蝕んでいる。

そして、フィーナ先輩との仕事は、得点の集計作業だったが、かなり根気のいる作業だった。

計算して、間違いが無いか見直してを繰り返し続ける……。


しかしながら、今現在、気力は回復している。

それは間違いなく、先輩と一緒だったからだと思う。

合間合間にしたフィーナ先輩とのおしゃべり。すごく楽しい時間だった。


好きな音楽や、食べ物、読んだ本、本当に他愛も無い話をした。

きゅんらぶについて考えなくてもいい、というのもあるかもしれない。

けれど、友達として、友達とする話が楽しいということもある。

先輩がいなかったら、削られた体力、

擦り切れかけた精神でどうなっていたか分からない。


……あの時、アリーさんのアドバイスが無かったら。


きっと距離を置いて、接触することは完全に無かっただろう。

貴族学校の、初めての、友達。大切にしないと。


体育祭の恋愛イベントは失敗したけれど、体育祭はしっかり頑張ろう。

この一年は、捨てた一年にはしないんだ。

己の気持ちを奮い立たせると、

突然弾丸のような、何かが懐に飛び込んできた。

反射的に受け止める。


「みすてあお姉さまっ!」


懐にいたのはザルドくん。


「ザルドくんこんにちは、大きくなったねえ」


約二か月ぶりに見るザルドくんは、心なしか背が伸びている気がする。

あれ、保護者の入場はもう始まっているのだろうか。

それなら両親やメロももう来ている?


「へへへ、れーどお兄さまと、みすてあお姉さまを応援しに、来ちゃった!」


ザルドくんは私のお腹に頬ずりをする。可愛い。

こんなに可愛い来ちゃったがあるだろうか。

「抱っこ抱っこ」と甘えてくれている為、そのまま抱えて持ち上げる。

もう本当に、レイド・ノクターの不意の「来ちゃった」ばかり聞いてきたせいで、

若干「来ちゃった」という言葉に恐怖するようになっていたけれど浄化された。

……いや待て、どこをどう見てもノクター伯爵も夫人もいない。

一人って危なくない? 五歳ってこんな野放しで平気だっけ?

何で一人でいるの?


「ザルドくん、お父さんとお母さんはどこかな?」

「お姉さまのお父さまと、お母さまと一緒にいるよ」

「え、じゃあここまでは一人で来たの?」

「ううん、一人じゃなくて二人だよ!」


え、一人じゃない?

どう見ても一人じゃない? どういうこと?


「御嬢様」


この声は、天使の声だ。メロだ。

振り返ると、メロがこちらに歩いてくる。


「へへへ、メロ来てくれたんだ」


我ながら気の抜けた笑い方になってしまった。


「はい、ただいま参りました。

 御嬢様、午前の競技で、お怪我などはなされていませんか」

「大丈夫だよメロ、来てくれてありがとう」

「こちらこそ、招待して頂きありがとうございます」


そう言ってメロは微笑む。

天使がすぎる。マイナスイオンが出ているみたいだ。

天使に囲まれている。ここが天国か。


「招待して頂いた以上、ミスティア様のご活躍を、

 しかとこの目に焼き付け、完全に、余すことなく全て記憶致します」


メロは目をきらきらさせて言う。

嬉しいけれど、メロは運動神経がいいから、

改めて見せるのも、記憶されるのも恥ずかしい。

私の運動能力は、把握していると思うけど……。


思えばメロが走っている所は今だ見たことが無い。

でも遠くにメロがいるなあ、と思って一瞬目を離すと目の前にいたり、動きが速いし、

前に街で 帽子を飛ばした時、壁とか屋根を飛ぶように伝って、

すぐ取ってくれたことがあったから、速いと思う。


運動神経はいいんだよな、メロは。

庭の林檎を取ろうと木をゆすっていたら、

下からトランプカードや小石を飛ばして落としてくれたこともある。

全弾命中して外さなかった。

しっかり収穫して切ったみたいな切り口だったし。

体力テストを受けたら絶対好成績だろう。

前世時代、メロがいたなら野球選手になれていたと思う。


思えば料理長だって足が速い、前に話し忘れがあると、

走ってる馬車に追いつくどころか並走して追いかけて来てくれたことがあった。

あまりの速さに御者のソルさんが引いていた。

掃除婦や執事の皆も物凄い速度と勢いで移動するし、

門番二人も強いから門番をしている訳で。


……もしや、私の屋敷の使用人の皆……、

運動神経めちゃくちゃいい集団なのでは……?



「……なるべく無様な姿を見せないように頑張ります」


「ぼくも、ぼくも! 応援するよ!」


忘れないでと言うようにザルドくんが手を上げる。

おお可愛い。何だろうここだけ高濃度のマイナスイオンが出ている。

純粋可愛いの権化天使メロと、

無垢の権化天使のザルドくん。やっぱりここが天国……。



「おい、それ、誰の子だ?」


地を這うような低い声に振り返ると、ジェシー先生が背後に立っていた。

警戒したらしいメロが私の前に出て庇う態勢をとる。


「待ってメロ、先生だよ、担任のシーク先生、馬習ってたこともある」


先生は声も低めだから、怒ったように思われる……、

なんてことをゲームの時にアリスに話をしていた気がするけど、

まさかメロが警戒するまでとは……。


「こんにちは先生」

「……ああ」

「えっと、こちらは……」


先生に挨拶し、メロとザルドくんを紹介しようとすると、

ザルドくんが「おろしてください、自分でご挨拶できます!」

とお願いしてきて、怪我をしないよう注意しながらおろす。


「ザルド・ノクターと申します! いつも、お兄さまがお世話になっております」


ザルドくんはしゃっきっと背伸びをした後、ぺこりと礼をする。

ああ、立派になって……と感動すると、

「ふえ?」と先生はぽかんと口を大きく開けた。

目も見開いている。


「え、お、お、お、おとうと……? 弟って、弟か? 兄弟の?」

「はい」

「兄、弟の弟か?」

「そうですよ」

「姉、弟の?」

「はい、その組み合わせもありますね」


先生は茫然とした後、息を大きく吐いた。


「ああ、驚いた、何だそうか、弟……、確かに髪色も目も違うし、そうだよな、

 何か、そういえば見覚えあった気がするな……」

「はい、学級長の弟です。

 そしてこちらが私の専属侍女のメロです」


そう言ってメロを紹介するとメロは一礼した。


「ジェイ・シーク、君の主人と、君のお兄さんの担任教師だ、よろしく」


先生は自己紹介の挨拶をする。心なしかさっきより声が明るい。


「おねーさま、もっかいだっこお願いします!」


挨拶を終えたザルドくんが、抱きかかえのアンコールを所望する。

何度でもしてあげるよとにやけつつ抱えようとすると、

先生がザルドくんを抱えあげ、自分の肩にのせた。


「こっちのが、色々見やすいだろ」

「わわ、たかいぃ」


ザルドくんがすごいすごいとはしゃいでいる。

しかし暴れ出さずしっかりと先生の肩を掴んでいるあたり、

しっかりした子だ。


「良かったねザルドくん」

「うん、せんせ、ありがとう!」

「おー」


先生は穏やかに笑う。


「何か、こうしていると、家族みたいだな」

「そうですね」


何か先生がザルドくんを肩にのせていると、年齢的にはそう見えないけれど、

親子感が出る。


「よし、じゃあこのまま保護者席まで連れてってやるか、

 御挨拶もしないといけないしな」

「わーい!」


そのまま、メロ、先生、ザルドくんと保護者席へ行く。

ザルドくんを送り届け、両親の元へ向かい、

一緒に観戦していたノクター家に挨拶をしてから、

私はメロに髪を結ってもらう為に、メロと中庭に向かった。


貴族学校の中庭は、噴水が設置され、噴水を囲むようにベンチが置かれている。

さらにそれら囲むように花壇が並べられ、植物、噴水、ベンチと学校の中庭というよりは、

公園を思い起こさせるビジュアルだ。ここでよくミスティアはアリスを詰め寄ったり、

噴水に突き落としたり、花壇の土をかけたりする。どうかしている。

ミスティアが、この景色を見て、噴水に人を突き落としちゃいけないな、とか、

花壇の土荒らすの良くないな、とは思わなかったんだろうか。


「では、こちらで」


メロが私にベンチに座るよう促し、そこに座るとメロは私の後ろに回り、

どこからか櫛を取り出して髪を梳かし始める。

メロのポケットは、おそらく宇宙に繋がっている。

そう思うくらい、メロは何処からともなく、音もさせずに道具を取り出す。


「お怪我、なさらないでくださいね……」


メロはあまりにも深刻な声色だ。


障害物競走……体育祭の競技は、体育祭の選手決めをしていた頃、

使用人の皆が代わる代わる聞きに来たから、メロ含め皆に説明はした。


けれど、実物を見たわけではないから想像がつかないんだろうな


「大丈夫だよ、学校の競技だしね、皆やっていることだよ。

 台の上にのったり、くぐったりするだけで」

「しかし、気が狂った人間が、

 台の上に乗る御嬢様に無粋な真似をする可能性も否定できません」

「いや、本当、戦いに行くわけじゃないからね、

 そんな競技じゃないからさ、妨害は失格になるし」


一応優勝などは決めたりするらしいが、周囲の体育祭への関心は、

「優勝するぞ」「勝つぞ」というものではなく、

「恥の無い結果を残そう」「しっかり務めを果たそう」というものだ。

そんな皆敵だ、みたいな戦染みた体育祭では無い。


「今から、ミスティア様以外の参加者が居なくなれば、

 競技は中止になりませんか……?」


何か、雲行きが怪しくない?

メロ、めちゃくちゃ縁起悪いこと言ってない?


「いやいやいやいや、本当、なんて言うんだろう、

 安全に留意した競技だから、学校も国がね、関わってるから、大丈夫」

「……では、ミスティア様のお言葉を、信じます」


そう言うと、メロは静かに髪を結う。


メロは基本器用で、頑張り屋で、勉強も出来て運動神経もいいから、

たまに洒落にならない空気が出るんだよな。

思えば、障害物競走に参加することについて庭師のフォレストには、


「御嬢様が出場なさる意味はあります?

 誰がそんな野蛮な行為を御嬢様に強いたのですか? 駆除します?」


なんて物凄い肺活量で問い詰められた。体育祭員は私だと伝えると、

「では下々の者にさせればいいじゃないですか」と暴れられた。

フォレストからすれば、私以外、皆下々の者らしい。

忠誠心が強すぎる。


料理長は、


「へえ! なら障害物競走を体育祭の種目に推薦した方に、

 とっておきの差し入れしますよ! 届けに行かなきゃあ!」


と、何を思ったか包丁だけを忍ばせどこかに行こうとしたので止めた。

おそらく食材をどこかで調達する気だったのだろうが、

事前連絡もなしに包丁を持って訪れる行為は絶対強盗に間違えられるし、

障害物競走を推薦してくれてたからと、

その競技に参加する生徒の家の料理人がやってくるとか、

もう意味が分からない。沢山説得してやめてもらった。




「出来ました」


屋敷での出来事を思い返していると、メロの手が髪から離れ、手鏡を見せてくれる。

そこには、綺麗に編みこまれた三つ編みの私がいた。

三つ編みは、丁寧にまとめられていて、ぶら下がらないようになっている。

こうしていれば、普通にひとつに結ぶよりも、なにかに絡まるリスクは低い。


「ありがとうメロ、めちゃくちゃ頑張れる気がする!」


ベンチから立ち上がりメロにお礼を言うと、

彼女は優しく目を細める。


メロの為にも、頑張ろう。怪我しないことに重きをおきつつ、

さらにかっこ悪いところも見せないように。


「じゃあ、行こうメロ!」


私は障害物競走に挑むため、メロの手を取り校庭に向かった。



●2025年10月1日全編書き下ろしノベル7巻&8巻発売

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― 新着の感想 ―
合間合間にしたフィーナ先輩とのおしゃべり。すごく楽しい時間だった。良かった〜!!マジで精神的にも肉体的にも振り回されてて大変そうだったから一息つけて良かったね。ほのぼのします。 ああ〜!!ザルドくんも…
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