93話 今回は目立たないぞ!!多分!!
影の精霊に何だか悲しい事実を突き付けられた気がした次の日…流石に出勤時から学生服を着る訳にもいかないので、早めにギルドに出勤して、姿を変えてから、前回ナヴェーさんやミストラルさん、ヴァンさんやラシェールさんと会った応接室に入った。
にしても…事前に連絡が入っていたのか何なのか分からないけど、トレラント学園の事務員さん達は順応性が高いね。同姓同名のパッと見た限り別人の私を見ても、「お仕事頑張ってください。」だけで流したからね。スッゲェな、事務員さん。
応接室に入ると、案の定私が一番乗りで…暇潰しに持ってきていた文庫本を読むか、それともお茶の準備をするかで少し悩んだ。いつナヴェーさんやミストラルさんが来るか分からないし…。
「失礼します。…えっと、夜風さん?ですよね?」
どうしようかとちょっとモタモタしていたら、その間にナヴェーさんとラシェールさんが来てしまった。…そして、姿を変えているからか警戒されてしまった。
「はい、私…夜風・ヴェヒター・琴波で合ってますよ。学園には後輩や家族、友人も通っていますし…念には念を入れませんと、潜入してる事に気付かれてしまいますから。」
「そ、そうでしたか…はっ、私はとんでもないお願いをしてしまったのではないでしょうか!?」
「あはは、大丈夫ですよ。受けたからにはしっかりお仕事させていただきますし。」
私には姿を偽れる術があるからね…まぁ、一週間だけだし。一週間だけだし。
私が自己暗示を掛けている間、ラシェールさんが流れる様に給湯スペースに行った。…そうだよね、ある意味本業だものね。
「はい、ナヴェーさん。お茶です。夜風さんもどうでしょうか?」
「ありがとう、ラシェール。」
「はい、頂きます。」
ラシェールさんからお茶を受け取って、一口飲んでから息を吐く。うん、お茶を飲んだら少し落ち着いた。
「あの、今日は気が早ってしまって…これからこの寮に住むんだなぁって思ったら、興奮して眠りが浅くなってしまいました。」
「あ〜…まぁ、入寮したてはそうですよね。」
ナヴェーさんが必死に話の糸口を見つけ出そうと口にした言葉に、少し懐かしい気持ちになった。もう大分昔の話だから、少し思い出すのに苦労したけど…確かにその気持ちは分かるかも。
「そう言えば、ラシェールさんはそのままなんですね。」
同じ制服に身を包んだラシェールさんは、昨日会った時より妙にしっくり来る雰囲気を感じた。確かにラシェールさんは幼い感じがしたけど、ここまで学生服がしっくりハマるなんて…何かあるのかな。
「夜風さんは変えてきましたね。良くお似合いですよ。」
「ああ…ありがとう、ございます。」
まさかこの髪色や目の色じゃないと似合わないって理由は…言わなくて良いかな。私がただただ悲しくなるだけだから。
「夜風さん…ううん、一応偽名?を使った方が良いのでしょうか。」
「いや、そんなに名前呼ばれないでしょうし…そんなに印象に残らないつもりなんで、夜風のままで良いですよ。」
ふふ…ナヴェーさんやラシェールさん、ミストラルさんに視線が向かって、私なんて空気になるだろう。私が目立っていた理由は噂が原因だから、噂がない今は…その人が見ようと思わなければ目立たないだろう。
「そうですね。ナヴェーさんはあまりアドリブが利く方ではないですし、見る限りミストラル様…いえ、ミストラルさんもそうでしょう。そのままが、一番良いと思います。」
ズバッと言うなぁ、ラシェールさん。否定できないのか、ナヴェーさんが物凄く申し訳なさそうな顔を…まぁ、うん。私も戦闘以外ではアドリブ利く方ではないし…自分で言ってて悲しくなってきた…。
「えっと…改めまして、一週間だけですがよろしくお願いします。」
「何回言う気ですか…。」
ら、ラシェールさん…インドールさんと違った感じに厳しい。お姉さんと言うか、お母さん的な?雰囲気は学生なのになぁ。




