75話 サラッと言う事ではない。
キレイな…ある意味キレイすぎる施設の中を、白衣を着た施設の人に案内されながら進んでいく。
別に、どこもかしこもピカピカに磨き上げられているとか、新築みたいな匂いがするとか、そう言う訳ではないのだが…雰囲気が、凄く違和感に感じるのだ。まるで病院で感じるあの気配を、何倍か分からないが濃縮した様な…。
そこまで考えなくても、この施設を歩いていたら大方予想は出来てるけど…この施設はメンタルケアとか、メンタルケアを必要としてる人を社会に適合させるとか、そう言う感じの施設なんだろう。何か、こんな感じのをテレビで見た事ある気がする。
今から会う人って、どんな人なんだろう…話が出来る人だと良いなぁ。…いや、何も攻撃的な人だけじゃないか。もし、人形みたいになってる人だったら…それはそれで怖いな。
「ふふ。夜風さん、顔が強張ってるね。」
「す、すみません。こう言う所に来るのは初めて…ではないのですが、それでも慣れてなくて。」
「初めてでない事の方に僕は驚いているのだけど…夜風さん、噂に違わず中々の修羅場を潜ってきたんだね。」
「ええ、まぁ…人並み程度には?」
噂って何だろう…かなり前からあまり噂に頓着しなくなったから、私に関してどんな噂が流れているのか…聞くのが怖いから、気かないでおこう。
軽い会話が終った時、白衣の人が一つの部屋に私達を案内した。チラッとドアを確認したら、『第一面会室』と書かれたプレートが貼り付けられていた。…別にどうって事はない情報だった。
部屋に入ると、少しボサボサでもっさりした髪の毛の十代くらいの女の子と、サポートと思われるの三十代ぐらいの女性だった。
「……この子が、幹部?」
「…うん、話で聞いていたより随分しっかりしているね。」
女の子は私達を認識するとビクリッと体を震わせて、サポートの女性にすがった。…とてもじゃないけど、自主的に犯罪組織に所属していたとは思えない。
「あの、カルマートさん。守秘義務とか多分発生すると思われますので、言えない所は「呼ばれた気がしたウチ参上ゥっ!!」呼んでない。……呼んでない。」
「アハァァンッ!!そないに苦虫頬張ったみたいな顔せんでぇな。ウチはただ、親切でむぎゅう。」
意味はないと思いつつ、影の精霊の口を手で塞いで、カルマートさんに「…邪魔そうなんで、私は廊下で待ってます。」と伝える。カルマートさんも苦笑いしながらそれを了承してくれたので、私は影の精霊を連れて廊下に出た。…部屋に居る三人に向かって手を振るんじゃない、バカ。
「ん〜、お嬢さん。やっぱり緊張しとったんやな。凄い手汗やったで。」
「当たり前でしょう。しかも、貴方のせいで変な汗が余計に出ましたよ。」
「まぁどうでもええんやけど、あのお嬢ちゃんの話やったな。」
サラッと流されたのがそこはかとなくイラッとしたので、まだ掴んだままだった影の精霊をキレイなリノリウムの床に叩き付ける。
「はぁはぁ…長いバージョンと短いバージョン、お嬢さんやったらどっちがええ?」
コイツの場合、長いバージョンって言うとあの女の子の半生を語る事になるから…短いバージョンか?でも、逆に略して訳の分からない事になるかもしれないし…。
「お嬢さん考えすぎやで〜。ちょっと色々あって家族を目の前で殺されて、その後色々あって犯罪組織に所属せなアカン状況にされて、扱いの酷さとかも相俟ってSAN値ピンチなタイミングで組織が警察にバレて助かったお嬢ちゃんや。」
影の精霊が表情を変えずに流暢に話したのは…平和ボケした私には重いとしか言えないが、重いと言う単語では軽すぎる気がしてならない出来事だった。覚悟の上から現実を押し付けられた様な無力感とかで、心臓を鷲掴まれた気分だ。
「まぁ、仕方ないな。大体そんなもんやでお嬢さん。」
影の精霊の、いつも憎たらしい筈の張り付けた笑顔が、今はただ恐ろしく感じた。




