71話 何だったんだろう、あの人。
面倒くさい仕事を押し付けられた気分になりながらも、ソレはソレ、コレはコレと言った感じに仕事を終わらせて、どうにか定時で上がり、買い物を済ませ、面倒な事になったなと溜め息を吐きながらスーパーの袋片手にアパートのエントランスに入った時…何か直感した。
敵意がある訳でもなく、かと言って好意がある訳でもなく…ただ、誰かがその場に佇んでいる気配がする。
影の精霊に荷物を預けて、少し警戒しながら一階の多目的共有ルームの方を覗くと…居た人に私は目を見開いた。
第一印象は、何か凄い人だった。
見た目は…少し幼いが、中学生くらいだろう。クラシカルテイストの服を着こなす姿は、どこか昔の由榎さんを連想させた。
しかし、知的な色の瞳を穏やかに細めて――影の精霊が手入れをしているって不安要素しかない庭を眺める眼差しは、見た目の幼さとは逆に老人の様な落ち着きに満ちていた。
『幼さ』と『老い』、一見するとアンバランスなそれらが、この人の中では調和している。その不思議さが、第一印象だった。
私に気付いたのか、ゆっくりと振り替える。窓から差し込む西日を艶やかに反射するサラサラな銀髪が僅かに広がって、それにより露出した耳はスッと尖っていた。
エルフ族かと遅れながら気付いたが、私の勘がこの人は普通のエルフ族ではないと告げていた。具体的にどうかとは分からなかったが、今まで出会ってきたエルフ族とはどこか違う…そう確信めいた直感。
「やぁ、お邪魔しているよ。初めまして。僕はシェルシェール・フォルネウス・カルマート。君が夜風・ヴェヒター・琴波さんかな?」
「へ…あ、はい。私が夜風・ヴェヒター・琴波です。…あの、私に何かご用意の方ですか?」
滲み出る様な気品に背筋を伸ばしながら、警戒心は弱めたが解きはしなかった。後、警戒心弱めた代わりに緊張感が…。
後…名前が長い人に出会う度に毎回考えてしまうんだけど、愛称ってどうなってるんだろう?普通にシェル?それとも、私が知らないだけでちゃんとした愛称があるのかな。
「今日は本当に、突然伺ってしまいすまない。如何せん依頼日以外で君と会えるのが今日だけだったから、少し無茶をさせてもらった。」
「は、はぁ。」
スゲェ心臓バクバクしてるの愛称の事を考えるとか、私も神経図太くなったなぁ…じゃなくて。
依頼日?私が今受けている依頼は一つだけだから、その依頼人が彼女?……え、ええっ!?
「ふふ、意外だったかな?私みたいな幼子が依頼人だったと言うのは。」
「いや、あの……はい。」
ただ、見た目は幼いけど…実際の年齢は、少なくとも私はおろか父様ですら赤子レベルに見えてしまう年齢なのは確かだろう。…あ、ヴァンさんよりは年下だろうけどね。うん。
何がどうなって、カルマートさんの容姿でそんな事になっているのか気になる所ではあるけど、今はそれより、どうしてカルマートさんが私の目の前に現れたか…だ。
「依頼前に、同行する相手と顔合わせをしたかったんだ。やっぱり、初対面とそうでないとでは違うからね。」
その気持ちは分からなくはない。依頼前に同行者と顔合わせ出来たらなぁと思う事は、一度や二度だけではない。…まぁ、だから私はソロが多くなってしまうんだけど。
「はぁ……あっ、お客様なのに立たせたままですみません!!今からお茶用意しますね。どうぞこちらに…。」
「いや、アポイントメントもなしに急に来たのは私だし、こちらも手土産を用意するのを忘れてしまったんだ。…重ね重ね、申し訳ない。」
「いえいえそんな…。」
あれ、あれぇ、なんだコレ。コレってアレだよね、恐縮しあって前に進まなくなるヤツだよね?ヤバイ停滞しちゃった!?
「それに、僕もそろそろ行かないといけないんだ。この非礼は、必ず次回挽回するから。…では、失礼する。」
ヤバイかなと思っていたら、カルマートさんが申し訳なさそうに話を打ち切って、申し訳なさそうにアパートから出ていった。…すれ違う時、香った事のない良い香りがした。




