6話 戸惑いや緊張は伝染する。
少しソワソワしながら、ルナさんと由榎さんの到着を待つ。…何か、私のソワソワが移ったのか小春までソワソワしだした。可愛いなぁ…って、違う違うそうじゃない。流れるように短い動画撮ってしまったけど違うそうじゃない。
えっと…来客用のスリッパは玄関に配置済み、一応目立ったホコリはないと思うけど…ルナさんだからなぁ。意地悪姑より質悪くホコリ見付けてきそう…いや、流石にそこまではしないか。落ち着け私。ネガティブが過ぎるぞ私。
そう自分に言い聞かせても、集合の時間が近付くにつれて意味もなくソファーに座ったり立ったり、その辺ウロウロしたりを繰り返してしまった。
そうこうしていると、何か場違いな程お洒落なベルの音が聞こえた。え、何だよこの音。
「あ、ベルの音はドアホンの所で再設定出来るで〜。」
「マジか。」
まぁこの際ベルの音はどうでも良く、急いでドアホンの前に立ち、画面を覗くと…案の定、そこにはルナさんと由榎さんが立っていた。
「はぁはぁ…何や、こうしてお嬢さんに冷たくされるん久し振りな感じがするわぁ…はぁはぁ。」
「影の精霊煩い。」
急いで適当なサンダルを突っ掛けて扉を開ける。あ、やべぇ…心臓凄いバクバクしてる…。
「い、いらっしゃいませ。」
「おじゃましま〜すっ。」
「おじゃします。…何緊張しているのよ、琴波。今更でしょ?」
由榎さんにそう言われて、緊張で熱を持った頬が更に熱くなった。…もう全身真っ赤なんじゃないかな。
「そうなんですけど…何でしょう。何かテンパっちゃって。」
「まぁ、ルナは兎も角私は貴女が学園から出てから会ってないものね。…そう思うと久し振りな感じはするけど、言う程日は空いてないのよね。」
確かに…言われてみれば、ルナさんは昨日も会ってるし、由榎さんでも精々三日会わなかっただけでこんなにテンパるとはどう言う事なんだ私…。
「コトハ、生活環境変わったばかりだからねぇ…この匂いは、ロールキャベツだね!!」
「匂いで分かるんですかルナさん。」
「久し振りねぇ、ルナのその特技。それにしても何か、琴波らしい部屋ね。」
ルナさん相変わらず鼻良いなぁと思っていたら、由榎さんにそう言われて少し驚いた。
「そうでしょうか…気に入ってますが、殆んどの家具とかはルナさん達が作って下さったので。」
家含めて全体的にお任せしたから、私は好きな雰囲気だけど…この家具、私らしいのか。
「へへっ、コトハが好きそうだなぁって家具作ったもん!!」
「流石、琴波と十二年相部屋だっただけあるわね。」
「え、由榎ちゃんの好きそうな家具も分かるよ?二人は好みが比較的ブレないから正直楽なんだよね。」
…ルナさんに掛かると、個人情報丸裸にされそうだな。一応軽くだけど、読心術も出来るみたいだし…。
私と由榎さんが警戒し出したのを察したのか、ルナさんの頬っぺたをプクッと膨らませた。…まぁ、お約束である。ルナさんも分かっているのか、直ぐ膨らんだ頬が引っ込んだ。
「はい、琴波。これ気持ちばかりだけど…バームクーヘンよ。」
「ありがとうございます。」
おお、バームクーヘンか…お茶でもコーヒーでも合う良いお茶請けだ。…たくさん食べ過ぎない様に、気を付けておこう。
「そう言えば小春ちゃんは?居るよね?」
「え、居ますけど…あれ、小春〜?」
さっきまで私の近くでウロウロしていた小春の姿が、何故だか全く見えない。ルナさんと由榎さんを迎え入れた時はまだ居たから、部屋の中に居る筈なんだけど…。
「きゅい…きゅう、ルーちゃ?ゆーちゃ?」
「わお、ソファーの影に…あれ〜?」
ルナさんのアホ毛がハテナマークになり、私と由榎さんも顔を見合わせた。ルナさんも由榎さんも、小春は初めてではないのに…私の緊張が移った?そう言えば、前も似たような事があった様な…なかった様な。
「私のせいですね…。」
「まぁ、そんな時もあるって。取り敢えず、小春ちゃ〜ん。僕達怖い人じゃないよ〜?」
ソファーの影から小春を引っ張り出すのに、ルナさんの力を持ってしても体感五分ぐらい掛かった。