5話 何故かその時は気付かない。
家に帰り、食材を取り敢えず冷蔵庫に突っ込み、スーツから部屋着と言うか普段着に着替えてから、私は台所に立った。
本日のメニューは、メインはロールキャベツと決まっている。しかし…作る気満々ではあるが、ぶっちゃけロールキャベツって面倒くさい料理だよね。仕込みに時間掛かる的な意味で。
「でもお嬢さん。面倒な作業である微塵切り、ちょっと楽しそうやん。」
「微塵切りに限らないけど…野菜を包丁で切るって、何とも言えない気分の時良くやるんだよなぁ。」
フードプロセッサーとか使えば楽なんだけど…微塵切りの面倒とフードプロセッサーを引っ張り出して、使って、片付けるまでの手間を考えたら、今回は包丁でも良いかなって思う。
後、本当不思議なんだけど…疲れた時に料理すると、不思議と野菜刻んでるんだよね。ちょっと危ないのかな、この思考って。
そんなこんなで粗方ロールキャベツの肉タネが出来たので、一旦肉タネを冷蔵庫に入れてからベツの芯を取ってレンチンする。ネットとかで載ってた、簡単にキャベツの葉取れる方法である。…まぁこれするとキャベツ丸々一玉使わないといけないのだが…数作った所でルナさんや日辻さんの胃の中に消えるだろうから問題ない。
「そう言えば、干瓢や爪楊枝の代わりにスパゲッティとかでロールキャベツを留めるってありますが…アレ、キレイに留まるんですかね?」
「お嬢さんなら早々に諦めそうやよねぇ。存外ぶきっちょさんなんやからっ。」
オイコラ影の精霊、手先の事だよな?お前は今、私の手先が意外に不器用だと言ったんだよな?いや確かに、私はあらゆる意味で不器用であるけども。
意地でパスタで止めてやろうかっ…いや、落ち着け私。上手くキャベツが留まらずにイライラして、煮込み作業に移る前にルナさん由榎さんが家に来てしまう未来が見える。見栄を張るのは止めておこう。
「…今回は素直に爪楊枝にします。食べる時に外せば良いですし。」
「お嬢さん…手に力が篭っとるで〜。」
うふふ、影の精霊。誰のせいかな?
…そう言えば、『私』が子供の時、何故だか冷凍食品のロールキャベツに巻かれていた干瓢だけが異様に好きだったな。寧ろロールキャベツ本体は少し苦手だったかも。…アレは割れながら何だったんだろう。太巻きに入ってた干瓢はあんまり好きじゃなかった記憶があるんだけど…。
前世の謎の思い出を思い返しながら、私は黙々と作業を続けて…途中から影の精霊にも手伝ってもらって、どうにかトマトベースのスープでクツクツ煮込まれているロールキャベツが出来た。…ロールキャベツが出来たなら、次は何か…軽く摘まめそうな簡単なモノを作ろう。ロールキャベツだけとか寂しすぎる。
買い置きのニンジンを薄く細切りにしてオリーブオイルとレモン汁で和えて、後は適当に塩コショウで味を整えたニンジンサラダ、後はベターにポテトサラダ、カリカリベーコンと缶詰のコーンとホウレン草を炒め和え、中央に玉子を落として蒸した巣籠もり玉子を作った。
ロールキャベツって、意外にサイドを何にするか悩む。サラダの万能選手であるキャベツはもう使えず、似たようなレタスは使うは少し戸惑ってしまうし。…こんな事ならベビーリーフとか買っておけば良かった。
「お嬢さん、連絡や。お嬢ちゃんとお嬢様、飲み物類買ってこっちに向かっとるで〜。」
「ああ、飲み物!!ロールキャベツに気を取られて、すっかり忘れてた…。」
ロールキャベツにはパンかご飯か、それともロールキャベツの最後のトマトスープの〆のパスタで炭水化物もう良いのかな…とスーパーで悩む前に、飲み物カゴに入れとけよ私。
結局ご飯は炊いたし、バケットも買ったけど。パスタも買ったし、パスタのトッピングに使うチーズも二種類くらい買ったけど。