53話 飲めて食べれるなら、大丈夫。
またギルド経由で呼ぶ事になったので、今日の所はアルベロ先生と一緒に帰った。転移魔法のお陰で、実際なら移動だけでかなりの日数を有するだろうに、一瞬でトレラント学園のアルベロ先生の部屋に戻ってきた。
「……おっと。」
戻ってきて気が緩んだのか、少し体を動かそうとしたらフラっとした。そして、強烈にお腹が空いた。
可笑しい。ヴァンさんの家で、お茶と、何だかんだでお茶菓子を食べたから、こんな…あ、ヤバイ。自覚すればする程、立ってるのがしんどく感じてくる。耳鳴りがして、頭が重たく感じる。
「夜風、燃費悪いな。」
「私はまだ普通だと思いますが。と言うか、アルベロ先生は燃費良すぎなんですよ。」
力なくしゃがみこみ、何も考えずにペタンと床に座り込んで、どうしてこうなったか考えるが…アルベロ先生の言葉で、脱水とかそんなのなのかな…と思った。この際、ヴァンさんの家でお茶を飲んでいたのは一旦棚上げする。
鞄からあらかじめ買っておいたスポーツドリンクが入ったペットボトルを取り出して、中身をガブガブと飲んで暫くじっとして、体が少し楽になってから、鞄から今日のお弁当を取り出した。…念の為でも、スポーツドリンク持ってきておいて良かったぁ。
ついでにスマホで時間を確認すれば、ちょうどお昼時だった。…私の体内時計、凄いな。
「お嬢さん、床に座ったままご飯食べる気なん?」
「生憎と、今は立ち上がって椅子に座る力がないんですよ。」
こんなにお腹が空く事になるなんて…朝ご飯、いつも通り食べてきたんだけどなぁ。
お弁当箱を包んでいた包みを開きながら、内心で首をかしげる。
確かに今日は、色々と緊張する場面があったから、それでいつも以上にエネルギーを消費してしまったのは否めない。エレメント・ドラゴンの一柱に会って、国の偉い人が頭を抱えそうな書類を作って、ほんの二〜三分程度とは言え記憶が消えて、パニックになって…いつもと違う疲労を感じたのは、認める。でも、だとしても、普段より空腹を覚えると言うのは…分からない。
とか考えていたら影の精霊からそんな事を言われて、そう言えばまだ床に座り込んだままだったと思い至った。
今はそんな体力がないし、影の精霊のお陰か、アルベロ先生の部屋の床は意外な程キレイだ。ホコリ一つ落ちていない。だから、別に床に直接座ってご飯を食べる事には抵抗はない。それに、仮に汚れていたとしても、浄化魔法を使えばキレイになる話だ。
パカッとお弁当箱を開けて、お弁当用の箸を持って、手を合わせる。小声で頂きますと言ってから、お弁当を食べ始めた。
「あ〜…夜風、後で茶ぁ淹れてくれ。」
「アルベロ先生は、ちゃんと食事をした方が良いですよ。」
アルベロ先生にそう言いながら、一旦お弁当を食べる手を止めて、さっさとお茶を淹れた。だって後回しにするの面倒だし、魔法使えば直ぐ淹れれるし、何なら簡易キッチンにお弁当持っていって、立ったまま食べても良いし。…いや、まだ長時間は立っていられないから、また床に座り込む事になるけど。
「……ったい。」
アルベロ先生にお茶を淹れて影の精霊に渡す様に言ったし、お弁当だって食べ終わったのだが…まだやっぱり頭が痛い。常備薬、鞄の中に入れてたかなぁ。
「体調くらい把握しておけよ。社会人の嗜みだぞ」
「体調悪い人に、ぐうの音も出ない正論をぶつけてこないでください…。」
とは言え正論ではあるので、鞄から常備薬を取り出して、簡易キッチンでマグカップに水を汲んで、一気に胃に流した。これで少しすれば、頭の痛みも落ち着いてくれるだろう。
「アルベロ先生、頭痛が収まるまでここに居て良いですか?」
「勝手にすれば?俺は別に気にしない。」
…この人は本当ブレないと言うか何と言うか。まぁ、その無関心な感じが気が楽で、心地良くはあるんだけど。




