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52話 揺れない強さが、羨ましい。


記憶がスッポリと抜け落ちた恐怖でパニックになっていたら、フワッと暖かい空気に包まれた。


冷えきった体を暖める様な……あまり経験ないからイマイチ自信ないけど、誰かに抱き締められてあやされている様な、不思議な暖かさと安心感がある。


今この場には、誰も私を抱き締めてもいないし、頼りすがる人は居ないのに。…ああいや、頼りになる、と言うか頼りになりすぎる方々はたくさんいらっしゃいますけどね?ああ、何か…思考が今は、まとまらない。


「良し良し、お嬢さんがいつもの調子に戻ったで。」


「ふふ、久し振りにコレ使ったわ〜。」


…何だか良く分からないけど、取り敢えずヴァンさんが凄い力を使ったのだけは分かった。まぁ、このメンバーだったらそうなるよね。影の精霊だったら、何かもう少しこう…もんにょりした感触だろうし、アルベロ先生はそもそも慰めたりするタイプじゃないし。


「ふぁあ…まぁ、アレだ。今必要な書類はそれで終わりだから、休憩でもすれば?」


「お茶、淹れ直すわね〜。」


やっとこさ思考が落ち着いても、やっぱりさっきの記憶が抜け落ちた事が疑問に感じていたら、アルベロ先生が珍しく助け船を出してくれた。…基本放任の人なのに、本当に困った時は自然体で手を差し伸べてくれる。…モテるだろうなぁ。


「あら、あらあらあらっ!?アルベロ君にヤキモチ?ヤキモチなの夜風さんっ!?」


お茶を淹れていたヴァンさんが、キッチンの方からバッと出てきた。そんなに食い付く話かな、これ。


「いや、ヤキモチと言うか…何でしょう、一種の憧れだと思います。」


「まぁ、まさかの反応。」


後でその辺詳しく教えてね〜と言って、ヴァンさんはキッチンに戻っていた。


詳しくも何も、どっしり構えた精神力を持ち、他者を気遣える力を持っている…今の私に、足りない要素ばかりだから、憧れるのだ。特に精神力。


「現に、一度ヤバイ領域に落ちたもんなぁ。」


「ヤバイ領域?」


アルベロ先生レベルの精神力を鍛えるとなると、ヴァンさんレベルの方々の原型を直視するとかしないと無理かなぁ…でも、そうなると確実に私の精神が鍛える以前になくなりそうだなぁ…とか考えていたら、影の精霊が先程私の身に起こった事を説明してくれた。


「…つまり、私の思考が危ない方向に走って、私に決められた思考の範疇をはみ出そうとしたので、世界の法則的な力で、はみ出そうとした思考を消した…って事ですか。」


今まで私に存在している精神が壊れない様にする作用は、記憶を残したままだった。それは多分、忘れてしまったら命に関わる事だったから、だと思う。


でも今回は、覚えていた方が精神に異常を来す可能性があったから…だから、短期間とは言え記憶を消した。そう言う訳らしい。


「人の弱い所やねぇ。と言うか、お嬢さん。神通力と言うかそう言うオーラみたいなんに当てられん様に、自分で防御せな。」


「…耳の痛い話です。」


ぐうの音も出ない正論である。


ヴァンさんだって、人に影響を及ぼさない様に自身の威圧感や魔力を抑えるの大変だろうに、私はその手の努力を全くしていない…影の精霊に任せていれば、と言う考えが無意識にあったのかもしれない。


「あはは、ごめんなさいねぇ。私も家だと力の加減が上手く出来なくて、その上で、どうも夜風さんは精神が少し不安定な所があって、それが影響しているんだと思うわ。」


「いえ、私も…ご迷惑をお掛けしました。」


淹れたお茶を出しながらヴァンさんに申し訳ない雰囲気を出され、こっちも申し訳ない気持ちになった。そもそも、気遣うべきは私なのに…いや、今考え過ぎてもよくないな。次から気を付けよう。


「あっ、そうだわ。ちょっと孫に会ってみてくれない?少しは自信になると思うの。」


「今からですか?」


「直ぐよ、直ぐ。ん〜…三日ぐらい?」


わぁ、ドラゴンの時間感覚だなぁ。人からしたら、三日って長いんだか短いんだか良く分からん。




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