36話 急だからそんなに材料がない。
母様は一通り小春をモフモフして、私に対してはニコニコ笑顔で妙な圧力を掛けて、時折フッと表情を緩めて優しい顔をして…小春を可愛がって、私を飴と鞭で振り回して、帰っていった。
ふふ、母様強いわぁ…具体的には飴と鞭の加減が本当強いわぁ。やっぱり私より人生を長く生きているだけある。……私には、こんな風に飴と鞭を使い分ける事は出来ないだろうなぁ。
「ウチの飴と鞭は完璧やけどなお嬢さん!!」
「お前さんは……影の精霊は、楽で良いよね。」
何か優しい…と言うか、無駄に穏やかな気分になったので、台所に放置して冷めたお茶を全部飲んでから、またお茶を淹れ直して、小春モフモフしながら、ゆっくり飲んだ。…何か、充電しないとやってられない。
「あ、そやそや。お嬢ちゃんとお嬢様が、手土産片手にお嬢さんの土産話を聞きに向かっとるで〜。」
影の精霊がそう言い終わった時、スマホにメッセージを受信した音が響いた。確認すれば、ルナさんが由榎さんと一緒にこちらに向かっていると言うメッセージと、今更だけど家にお邪魔して良いか聞くメッセージだった。
「影の精霊、サプライズ潰しとか良い根性してますね。」
「いやいや、別にサプライズを潰したかった訳ではないんよ?やけど……こうしたら、お嬢さんに苛めてくれるかなって!!」
ルナさんに、お待ちしてますとメッセージを送ってから影の精霊に恨みがましい風の言葉を言うと、影の精霊から思いの外オーバーな反応が返ってきた。
いや、別に影の精霊にサプライズを潰された事は怒ってないのよ?何か言いたかったのは確かだけど、この態度は言わばポーズである。読心術より質の悪い何かを心得ている影の精霊も、それは分かっているだろう。
…つまり、影の精霊は私の精神を逆撫でする事により、私に影の精霊を攻撃するように仕向けているって事か?また何とも…そう言う所頑張るよな影の精霊。
「きゅい〜…むきゅ?」
母様が帰った後辺りは普通だったけど、私がお茶飲みながら黄昏て撫で撫でしていた段階で完全に寝落ちした小春が、私達の声で起きた。うん、良い手触りだったよ小春。寝起きボイス可愛い。
「影の精霊、ルナさんと由榎さんがこっちに来るまで何分間ぐらいですか?」
「移動込みで…大体四十分やろか。お嬢ちゃんら、沢山惣菜買っとるなぁ。羊さんも、結構本気出しとるで〜。」
ルナさんと日辻さんが選ぶ惣菜…そりゃ勿論ルナさんと日辻さんの趣味になるだろうけど、絶対美味しいだろうな。
「お嬢ちゃんも羊さんも、頭ん中に山盛り白ご飯を思い浮かべとるなぁ。こりゃ、かなり食べる気やで。」
「なるほど、ご飯に合う系の惣菜ですか。」
ルナさんも日辻さんも食べる気満々となると、追加でご飯を炊きたい。今炊飯器にあるご飯を影の精霊使ってどうにかして追加でご飯炊くとしても…四十分は少し厳しいな。普通に炊くと基本的に約一時間は掛かるし……あ、早炊きにすれば間に合うか。三十分くらいで炊ける早炊き機能。あまり使わないからすっかり忘れていた。
そうと決まれば、影の精霊を平たく伸ばして炊飯器に残っていたご飯を包み、手早くお米を研いで水をセットして、モードを早炊きに設定して炊飯器のスイッチを入れた。
「うーむ…残りご飯、少し手を加えてみますか。」
「お嬢さん…もしかして、逆サプライズする気なんか?」
ただ暇で、何か手を動かしたかっただけなのだが…しかし、逆サプライズか。ルナさんにサプライズをする気があるのか分からないが、良い意味で驚く姿は見ていて楽しいから、それ良いな。
と言っても、残りご飯に白ゴマを混ぜて、薬味として万能ネギを刻んだり、チューブのワサビやカラシや七味唐辛子、醤油を用意するだけだけど。地味だなぁ…。




