30話 詳しくないから心配になる。
小春に頼まれたとは言え、ぶっちゃけクーさんとベアさんに何を振る舞えば良いのか分からなかった。…一応私の手持ちの荷物の中にリンゴはあるから、それを切って渡せば良いかな。実際熊って、意外にリンゴとか食べるらしいし。テレビで見た動物園情報だけど。
「小春のオヤツにって、リンゴも入れといて良かった…。」
アヴィオールさんから借りたナイフでリンゴを手早く二つに切り、クーさんとベアさんに差し出す。どことなく喜色を滲ませた声を上げた二匹は、美味しそうにリンゴに齧り付いた。…毛、リンゴ果汁でベタベタにならんかな…影の精霊が居るから、フォローしてくれると思うけど…。
少し不公平かな…と思ったので、小春には市販のクッキーを渡しておいた。…うん、このオリエンテーションを遠足か何かと勘違いしてるの?と言う、インドールさんの厳しい目線を感じる。
ひ、非常食代わりだったんですぅ…と、心の中だけで言い訳した。実際大抵の焼き菓子は湿気なければそこそこ日持ちするし、こう言う何気ない行動が生死を分けたりする…ってテレビで見た気がしないでも。
「って、クーさんとベアさんがクッキー食べてる!?だ、大丈夫なのか…?」
小春が、渡したクッキーをクーさとベアさんに分けて…心なしか、クーさんもベアさんもリンゴより美味しそうに食べている。いや、まぁ確かに熊って大概雑食だよね的な事は思いましたけど、流石によろしくないだろ、熊にクッキーって。画は大変ファンシーで可愛らしいけど、過糖質に過脂質だろ明らかに。
「大丈夫、大丈夫やで。羊さんみたいに、この熊さんも見た目通りの生態とは限らんから。パンケーキとかも美味しく食べるで。」
た、確かに日辻さんは、見た目は羊…草食動物だけどバリバリ肉とか食べるが…クーさんもベアさんもぬいぐるみみたいな姿だからお菓子似合ってるけどさ……ファンタジー、こんな所で力を発揮しなくても良いと思うんだ。
「まぁ、お嬢さんは色々思う所はあるやろうけど、大丈夫なモンは大丈夫やからウチからはどうも言えんなぁ。」
「…あ、はい。」
少なくとも、影の精霊がここまで大丈夫と言うなら…大丈夫なのだろう。これ以上掘り下げると、私の知りたくない発言まで知る羽目になるから、モヤモヤしていても飲み込んでおこう。
「うーん、見た目が実にファンシー。絵本の一場面みたいだ。」
「可愛いですね…リンゴを食べていた姿も可愛らしかったですが、クッキーを食べているのも可愛いです。」
「…セイボリー、お前ああ言うモフモフしたヤツ好きなのか?随分テンション上がってるが。」
あ、それ私も思ってました。セイボリーさん、ベアさんとクーさんの話題に食い付きが良いんですよね…さっきから目がキラキラしてるし。
「い、いや、両親がこう言うモノが凄く好きで…流れで俺も、ああ言う愛らしいモノが好きに…す、すみません。やっぱり気持ち悪いですよね…。」
ほう…知識としてそう言う男性が居るとは知っていたけど、実際に見るのは始めてだ。…私の周りには、マスコットそのモノになったか、見た目がかなり女性的で悩んでいる人なら居たけど。
「迷惑にならない限り、人の趣味嗜好に文句は言いません。」
「は、はい…。」
い、インドールさん言葉キッツ。分からなくもないけど、言葉が何か冷たい響き…雰囲気はそこまででもないから、本当に言葉だけキツくなってしまったのかな。いや、私インドールさんの事良く知らないけど。
「まぁ、セイボリーさんなら過剰な事にはならないと思いますが…少なくとも私は、驚きはしましたが変とは思いませんよ。」
思ったんだが、セイボリーさんのその感覚ってつまり、私が小春可愛いよ小春〜!!となってるのと似たモノなのでは?だったら、私がその感覚を否定するのは違うと思う。寧ろ、私よりまだセイボリーさんの方が可愛げがあると思うな…。
「長い事冒険者やってると、色んなヤツに出会うからなぁ…そん中で言うなら、お前はまだマトモな部類だよ。」
「皆さん…ありがとうございます。」
余程今まで受け入れられなかったのか、セイボリーさんは私達の言葉を噛み締めたと言う感じに感極まった顔をして、深々と頭を下げながらお礼を言っていた。




