2話 新生活にネガティブは付き物。
「…またか。」
緊張すると、眠気がなくなるか眠りが浅くなるのは良くある事ではあるが…私は引っ越ししたてで慣れる時間を置かずにこれだから、二重の緊張で一・二時間寝て起きると言うのを繰り返していた。寝具自体は、相変わらず影の精霊のお陰で質の良いモノではあるのだが…。
こんな事なら卒業してから早く引っ越しておけば良かったと思ったが、あの空間に残っていた事に対しては後悔はない。多分直ぐ引っ越ししていたら、それはそれでしんどくなっていたと思う。…どちらにしろしんどくなるなら、私は今の選択を後悔したくない。
結局寝ては起き、寝ては起きを繰り返して朝になった。熟睡出来なくて体のあちこちがダルいが、眠れなかったよりマシだろうと歯磨きで強制的に目を覚まし、学生の頃の習慣で家の回りを走り、バッとシャワーを浴びて、髪と体を乾かしてから、温かいお茶とヨーグルトと言った、いかにも手抜きな朝食を食べた。
ちょっと今、気分悪くなる前兆みたいなモノを感じていてな…どうも嗅覚が敏感になっているらしく、匂いがそれ程キツくないアッサリしたモノじゃないと食べられないみたいなのだ。冷やしたヨーグルトなら、匂いを意識する前に飲み込めるし。
「でもな、お嬢さん。それ今は良くても、絶対お昼前にお腹空くヤツやない?」
「そうなんですが…一応、コンビニで何か流し込めそうなモノ見繕いますよ。」
ただ、今の私にはこの朝食が限界だ。もう一回朝ご飯を食べるか、お昼はどうするかは、その時になってから考えよう。…でも、小春にはちゃんとしたご飯作ってあげたいから、凄く鼻から息を吸わないようにしてご飯を作った。
小春の朝ご飯を作った後、ほぼ飲み込んだだけだが再度歯磨きをして…少し悩んだが、スーツに着替えた。まだ新社会人だし、一週間くらいはコレで大丈夫だろう。
土壇場で買い揃えた化粧品で素っぴんよりマシ、ぐらいの薄化粧を施し、ビジネスバッグに必要なモノが入っているか確認してから時計を見ると…まだ若干出勤予定時刻より早かった。朝ご飯アレだったからなぁ。
「お嬢さん、お嬢さん。どうせならこの時間にちょっと食べるか?」
「まだ体調が回復した訳ではないですし…何より、歯磨きと化粧した後にそう言わないでくれません?」
確かに暇だけど。本を読んだりスマホをいじったりする余裕もないけど。じっと待っていたら胃からキリキリなる前兆みたいな違和感が来ているけど。
「はぁ…この食べ物の匂いで気分悪くなっる症状何なんだろう…しんどい。」
「まぁ、体のどこが悪い訳やないから…落ち着いたら大丈夫やろ。」
…影の精霊が言うなら、そうなのだろうか。コイツ、下手したら私より私の体に詳しいし。
「確かに今はちょっと胃が荒れ気味やけど、お嬢さん精神的なアレコレで良く体調…と言うか胃の調子崩すからな。それはいつもの事や。…と言うか毎度不思議なんやけど、お嬢さん似たような場面でも落ち着いてる時とそうでない時とでムラ凄いよな。何でなん?なぁなぁ、何でなん?」
「そんなの、私が知りたいですよ…あ、そろそろ時間ですね。」
私が動く音で起きたらしい小春の頭をなでながら「いってきます。朝ご飯作ったから、食べてね。」と伝え、まだ若干寝惚けている小春は「んむ…はぁい。琴姉、いってらっしゃい~。」と言った。…うん、今日も今日とて小春可愛いな。和むわ。まだ体のあちこち緊張で強張っているけど、それでも頑張ろうって思えるくらい可愛かった。可愛いって凄いな。
小春から元気貰った事だし、私も今日一日頑張ろう。さしあたっては…自己紹介、緊張で噛まない様にしよう。何事も第一印象は大事だ。
ただでさえ私は周りより年下だろうし、使えねぇ…と思われたら巻き返すのに時間掛かるだろう。…見た目成人済みな風なのに実はまだ十代なんだぁ…みたいな、学生の頃にも言われた事言われたりしないかな。