17話 流して誰が盛り上がるんだよ。
バリケードに入った事でホッと息を吐たら、何か腕痛いな〜と感じた。確か、あの黒ずくめさんに体当たり決めた直後に、右腕に衝撃があった気がする。その後から今までは…意外と痛みを忘れていた。興奮状態って怖い。
興奮状態が解けていってるのか、次第に強くなっていく痛みに耐えながら確認すると…どうやら体当たりした黒ずくめの人にナイフで刺されていたみたいで、赤黒い血がジワリと滲んで服を汚していた。…刺し口を見るに刺したのは小さなナイフ。運悪く骨を避けて刺さったみたいで、刃渡り分…結構深く刺さっている感じがする。ズキズキした痛みがかなり奥から響いてくるから。
生憎今は体外に魔法を使えない。少し面倒だが、このままだと出血が多くなりすぎて危ないし…自力で傷をどうにかするしかない様だ。
えっと、先ずは傷口をキレイにしなくては。…どうやろう?体内に浄化魔法を掛けるのは何か違う気がするけど…毒や何かヤバイ菌が入ってないとも限らないから、消毒はしたい。…解毒魔法で良いのかな?でも、菌の類いって毒のカテゴリーに入るのか…やっぱり、傷口をキレイな状態にするには、今は体外に魔法を形成しないといけないよな。外に出れたら、生理食塩水…だっけ?そんなんでキレイに出来るんだけど。…やっぱり不便だな、体外に魔法が形成出来ないってのは。
「あ、もう三分弱経っとるから魔法使えるでお嬢さん。」
「影の精霊…お前、どこ行ってたんだよ。」
ニュッ…ポコンッと効果音が付きそうな感じに床から出てきた影の精霊に、反射的に声を掛ける。思ったより声が出なかったのは、多分想像以上に血を失ってヤバイんだと直感した。
「まぁ、その辺の説明は後にするとして…コレをこうして…どやっ!!」
影の精霊がドヤ顔をして、思わずジトリとした目で見ていたのだが…ふと気付いた事があり、改めて私の姿を見てみた。
「…またまぁ、凄い事をしますね。」
そこには、ナイフで刺されて穴がき血に汚れた服どころか、傷そのモノを負った形跡のない私の体があった。…いや、ちょっと右腕にゴワッとした質感があるから、まだ腕に関しては治療中…とかかな。
「遅緩性の質の悪い毒やったからな〜。一応解毒には時間掛けとるんやで。解毒の他にもちょっと色々しとるけど。」
…あの黒ずくめ野郎、何てモノをナイフに仕込んでるんだ。影の精霊が一応とは言え解毒に時間を掛けているなんて…相当ヤバイって事だろ。もうどうにかなってるみたいだから、今更騒がないけどさ…もし殴れるなら、あの黒ずくめ野郎絶対殴るけど。
「さいで…で、今状況はどうなってます?」
「ここの警察署の一部の備品には、こう言う状況時にバリケードに使えるアレやコレやソレを仕込んどるんやけど、それでさっきまで持ち堪えとったな。今もやけど。」
「私の応援は必要そうですか?もしくは、この警察署宛にギルドに応援要請入ってます?」
「あ〜、行けばええんやない?今ちょっと膠着状態やから。」
…何だよ、その含みのある言い方。またお前しか知らない裏事情があるのかよ…。
「…まぁ、裏事情を知っていようがいまいが私は行くしかないですけどね。」
「よっ、お嬢さん働き者やなぁ。」
働き者って言うか…いくら非番とは言え、その場に居たのに全く役立たずだったと後で言われてギルド内で気まずい空気になりたくない…と言う、何とも打算的な考えがあったりするんだけど…結果からみたら働き者って評価になるんだよね。
「お嬢さん。何かこう、俗に言う勝利BGMとか流そうか?それとも良い感じ変身とかするか?何や良く分からんオーラとか出そうか!?」
「どれも止めて。」
変身やオーラは勿論嫌だけど…アニメやドラマじゃあるまいし、リアルで勝利BGMとか流れたら周囲に困惑しか生まないから。それに何か集中してる時に音楽流されても、喧しいか全く耳に入らないかのどっちかだから。