122話 意趣返しみたいになった。
私がアレコレ考えている時の顔をどう捉えたのかは分からないが、コスモクロアさんは深刻そうな顔をした。
「兎に角、夜風さんは今は出来るだけ安全に家に帰った方が良いよ。念には念を入れとかないと…家を特定されると面倒だし。」
「そうですね。」
う、ううん。確かに一階の一部は一般解放してるけど、そう言うヤバイ人は取り敢えず影の精霊が何かやるから……私の目覚めが悪くならない為にも、きっちり身の安全を確保しよう。もしかしたら小春にまで危害が及ぶかも…及ぶ、かも…。
「ど、どうしたの、夜風さん…はっ、もしかしてトロバドールの姿が!?」
「えっ?ああ、違いますよ。少し思う所があっただけです。」
「そう…もし何かあったら、言ってね?」
心配そうにこちらを窺うコスモクロアさんに、申し訳なさが募る。…本当良い人だな。
はぁ…いかんいかん。起きてもいない出来事でキレて心配かけるとか、感情に振り回されすぎだろ…もう少し冷静になれ、私。…いやまぁ、冷静に考えた結果トロバドールさんを締め上げる算段が粗方立ってしまったんだけど。捕らぬ狸の皮算用ってヤツだな。この言葉が合ってるか知らんけど。
まぁ…もしそうなった場合は、影の精霊を使うのも辞さないけどね。あ、父様や母様にも連絡を入れなきゃなぁ。…っと、頭の中の話が逸れまくるな。
「話を戻しますが…私は、自宅へ安全に帰る手段は既に確保していますよ。」
「そうなんだ。…と言うか今更なんだけど、夜風さんってどんな所に住んでるの?」
「どんな所…ですか。」
そう言われると、若干説明に困る。郊外のアパート…と言うには、私が住んでいる所は一軒家みたいな感じだし…いや、この場合は場が切り抜けられたら、俗に言う『間違っていない』って感じでも大丈夫だとは思うけど…でもなぁ、こうして親身になって聞いてくれるコスモクロアさんに対して、そんな誤魔化しみたいな事を言うのも気が引けるし…ううん。
「ご、ごめんなさい。言いにくかったら、無理に言わなくて良いのよ?」
「言いにくい、と言うか……いえ、そうですね。コスモクロアさん、これからお時間ありますか?」
さっきコスモクロアさんが私に対して言った言葉を、私はコスモクロアさんに対して口にした。
お会計を済ませて喫茶店を出た後、訝しがるコスモクロアさんを何とか宥めながら一旦ギルドに戻り、ギルドの裏口で、数分で消える認識阻害の結界を張ってから、私はコスモクロアさんを連れて転移魔法を発動した。
「へ…は…へっ!?」
「っと…ただいま。」
瞬く間にギルドの裏口の景色が、私は見慣れた玄関先の景色になったので、コスモクロアさんは驚きで固まった。…それもそうか。
「やか…夜風さん…貴女…。」
「私が武闘部で重宝されている所以がこれです。一応、ご内密にしていだだけると嬉しいです。」
混乱するコスモクロアさんに対して、ちょっとイタズラっぽい笑みを浮かべながら肩を竦めた。
その姿をどう感じたのか分からないが、「流石、あのアルベロ・ランケ・セマンスと一緒に居れるだけはあるわねぇ。」としみじみ言われ、反射的に「はい?」と言ってしまった。何で今アルベロ先生の話が出てきた?
「ふきゅ…きゅ?琴姉、お帰りなさい。」
私がアルベロ先生の名前に疑問符を浮かべていると、部屋の奥からキツネの姿の小春がトコトコと歩いてきた。うん、可愛い。
「…や、夜風さん…あのキツネさんは…何?」
「私が契約している精霊です。小春、と言うんですよ。」
「小春…ちゃん。」
呆けた感じにそう言ったコスモクロアさんに、私は簡単に説明するが…え、どうしたんだろう。もしかしてコスモクロアさん…キツネが苦手?
今まで誰もが小春を受け入れてくれていたので思い至らなかったが、そもそも私だって『私』の時から犬苦手なままだった。小春は小春として受け入れたからそうでもなかったけど、そう思わない人もいる訳で…や、ヤバイ。




