121話 情報不足な感じがするなぁ。
出来るだけ自然な感じを心掛けてギルドを出た私達は、帰宅する人で賑わう商店街の方へ歩みを進めた。まぁ、コスモクロアさんの指示なんですけどね。
あ、あの八百屋さん野菜が安い…冷やしおでんワンチャン…って、こんな真剣に私の身を案じてくれているコスモクロアさんを見ていたら、そんな事言ってられない。……はぁ。こんな時じゃなかったら、立ち止まって真剣に野菜を吟味するんだけどなぁ。
「…はぁ、どうにか巻けたみたい。」
あの店良いなぁ、意外とシャッター閉まってる店ないなぁとかぼんやり考えていたらコスモクロアさんに手を引かれ、商店街の中にあるこじんまりとした喫茶店に案内された。
白い壁と落ち着いた深い色合いの木材の組合せや、窓の大きさ、全体のインテリア…全体的に好みの喫茶店だなぁと思いつつ、コスモクロアさんに手を引かれるまま角の席に座って、店員さんに紅茶のを二つ注文して、少し落ち着いた時…コスモクロアさんは心の底からホッとした声を出した。
「…あの、尾行されていたんですか?」
「えっ、ううん。ちょっと過敏になってて。…トロバドールのあんな目、初めて見たから。」
仮にも武闘部にも一応所属しているのに尾行に気付かなかったとか、最悪辞表レベルの失態…と思っていたら、ただ単にコスモクロアさんが警戒していただけだった。…でも、尾行を警戒するって事は…。
「あの、トロバドールさんって…。」
「…夜風さんが想像している通り、問題のある男よ。表向きは人当たりの良い好青年なんだけど、特定の事になると本当面倒でね…。」
はぁ…と溜め息を吐きながら前髪を掻き上げるコスモクロアさんに、私はスッと居住まいを正した。…髪を掻き上げる姿が、凄く『大人な女性』って感じがしてカッコいい…と思ったのは、ソッと心の中に留めた。
特定の事か。…私もそう言う面がなくはないから、正直耳が痛い。
にしても、コスモクロアさんがそう言うくらいだから、トロバドールさんの事は噂になっていても良いもんだが。…あっ。
…ふふ、そうだった。私、ギルドの中で同性で仲が良い人がコスモクロアさんと同期のインドールさんしか居ないからだ。そして、コスモクロアさんは兎も角、インドールさんは…私よりマシな方みたいだけど、それでもあまりコミュニケーションを得意としていないから、私に流れてくる噂はそんなに多くないんだ。
唯一の噂話の供給源である影の精霊は…影の精霊が話してくる噂話の類いは、話し半分で聞き流してるからなぁ。そうじゃないと、何と言うか…やってられない。信憑性高いなんてレベルじゃないから。
「その、特定の事と言うのは…。」
「もう結構バレてると思うけど、女性関係で…ね。アイツ、気に入った女性を自分のモノにしたがるのよ。その手段が強引で…人によったら、その強引さに惹かれるんだろうけど…アイツ、本当面倒くさくて…。」
そこでコスモクロアさんは、はぁ…と、深い溜め息を吐いた。
…何と言うか、どうしてコスモクロアさんは、こんなにトロバドールさんの事情に詳しいんだろう。コスモクロアさんの性格的に、困ってる人を放っとけないのもあるんだろうけど…。
「コスモクロアさん、随分トロバドールさんの事について詳しいですね。」
「職場内の人間関係をメチャクチャにされたら、そりゃ詳しくもなるわよ…手に入れたら満足して、直ぐ別の女の子に移るから、一時事務部の女性陣の関係がギスギスした時と言ったら…。」
「し、心中お察しします。」
私がトロバドールさんのターゲットにされたけど、過剰に嫌がる訳でもなく、かと言って乗る訳でもないから、コスモクロアさんがギルドを出る時に見た、いつもと違うトロバドールさんの目…に繋がるのかな。……ん?いや、違うか。普通なら萎えるよな、そんな反応されたら。
あ〜…うん。分からん。




