119話 本当に誰なんだ、この人?
お昼休みも終わり、気だるい気持ちから仕事モードに切り替える。と言っても、やっぱり最初の方は集中力が上手く働かないので、ゆっくり関係資料を目を通して、次第にシフトしていく感じなのだが。
ルナさん達みたいに、カチリとスイッチが入ったみたいに即座に集中力…と言うか、ヤル気のスイッチが入れば楽なのになぁ…と溜め息を吐きそうになったが、今は気に病むより仕事だと軽く頭を振り、気合いを入れる目的で大袈裟に溜め息を吐いた。
「ねぇ…夜風さんって、アルベロ・ランケ・セマンスとデキてるって本当?」
「はい?…あ〜、良く言われますが、アルベロ先生とは教師と元教え子ってだけですよ。」
今日は受け付け業務がない代わりに、冒険者さん達から提出された魔物とかの討伐部位や依頼品の整理や管理と言った、事務部の中では忙しない方の仕事をしていたら、同じ仕事をしていた男性職員に話し掛けられた。…あ、この人さっき話し掛けてきた人だ。
う、うーん…ギルドでだと、事務部の部長さん、武闘部の部長さん、そして総合部の部長さん…そして同期のセイボリーさんくらいしか交流ないんだよね。あ、いや…ギルド長もとかも会釈程度には喋るか。
…いや、セイボリーさん以外は仕事の会話以外してないか。セイボリーさんもセイボリーさんで、本当短い世間話しかしないし。
何にしても、上記の人達以外の男性から挨拶や社交辞令的な会話以外でこうして話し掛けられるとは思わなかったので、内心かなり警戒してしまう。
「へぇ?かなり前から噂になってるから、てっきり既に婚約者にでもなったのかと。」
「昔から色々あったんで、周りから良く噂されていますけど…私達の間では、全くそんな事はないんですよ。」
と言うか、婚約者って!!と、思わず苦笑いしそうになった。
アルベロ先生は知らないが、私には以前婚約者は居たのだ。…しかしまぁ、親がノリで決めた感じがあったので、普通に双方話し合いの元白紙になった。…まぁ、その時少しドキドキしてしまったのは確かだけど、今思えば淡い思いだったなぁ。
「そうなんだ…ところで、夜風さんはいつも直ぐギルドから出るよね。真っ直ぐ帰ってるの?」
「え、ええ…買い物する事もありますが、基本は直ぐに帰りますね。」
何せ家に小春が待ってるからね!!と、またもや内心でフフンッと胸を張る。…いや、私が本気で胸を張ると、揺れないにしても我ながらとんでもない事になるのがありありと想像できるので、どちらにしても内心以外ではやらないけど。根拠はルナさん。
「じゃあ、休日は何してるの?家でマッタリ?」
「その時々ですけど…あの、仕事中にお喋りはどうかと。」
元々壁を作っていたし、別の事を考えていたので今更思い至ったんだけど…仕事中の軽い世間話にしては、この人の話はちょっと長いなと感じた。…つか、本当誰だろうこの人。コスモクロアさんに聞けば分かるだろうか?
「おっと、それもそうだね。ごめんごめん。」
私の言葉に納得した感じに男性職員は自分の仕事に戻っていったので、私は静かに息を吐き出してから仕事に戻った。
何だろう、あの人…表面上は世間話な雰囲気なんだけど、何か読み切れない何かを感じる。
アルベロ先生や影の精霊にもそんな雰囲気はあるのだが…あの二人は、少なくとも口に出した発言に関しては、あの人達からしたら、あまり深く考えていない感じがする。
「いやん、お嬢さんったらお上手やなっ!!」
「今のどの辺に誉めた要素がありましたかねー。」
肩口の感触で、私は影の精霊の登場を察して溜め息を吐く。
…何だろうね。あの男性職員より影の精霊の方がよっぽど訳が分からない存在なのに、影の精霊の登場で軽く安心感を得ている自分がビックリだよ。




