10話 自分がそうだから…つい。
由榎さんには、是非このアパート自慢の大浴場を堪能して欲しかったが…この時間に住人以外の人間が使用するのは、例えそれが大家である私の客人だとしても…いや、大家である私の客人だからこそマズイと判断したから、今日は私の部屋?のお風呂で我慢してもらった。…我ながら後付けながら、結構的を射ていると思う。
後付けの理由は…お風呂を入れた段階で大浴場の事を忘れいた、と言う毎度の事ながら呆れるようなボケをしてしまったからだ。お風呂にお湯が貯まる前に気付けば、まだやりようはあっただろうに。…後、別に住人でなくても大浴場は使える。住人専用のフロアにあるから、使用できるのは女性限定になってしまうが。
…うーん、私が普段使っているお風呂だってけして狭い訳じゃないけど、それでも大浴場の解放感を味わってしまうとなぁ。個人のお風呂は、それはそれでプライベートスペースが確保されてる感じが良いがね。
「…んむ、おはよう…。」
「うきゅ…おはようなの〜。」
「おはようございます、二人とも。…えっと、由榎さん大丈夫ですか?」
お風呂ねアレコレを思い出しながら、私は朝食を作る手を止めずに由榎さんと小春に挨拶を返す。それくらいは料理に慣れてきている。
しかし…ここまで寝惚けた由榎さんなんて、初めて見たか、以前見た事があったとしてもかなり久しぶりだ。まぁ学生時代は、なまじ一緒の空間で暮らしていたからあんまりお泊まりとか出来なかったからなぁ……うん、ただ寝惚けているだけなのに何かエロいな由榎さん。ちゃんとジャージ着ているのにエロいとはこれいかに。小春は安定の可愛さである。
「…ん〜、大丈夫。…ん、あれ…ルナは?」
「ルナさんは部屋ですよ。学生時代と違って、今は基本ご飯は各自で摂る様になってます。」
「るーちゃ、日辻しゃん、最近一緒じゃなくてしょんぼりなの…。」
「ごめんねぇ…。」
学生時代はルナさんと日辻さんの分も作るのが普通だったけど、今は普通に自分と小春の分を作れている。意外と順応出来てるじゃんと思う一方で、この量だけか…と、ちょっと物足りなさを感じている自分も居て笑える。
由榎さんの分を作ってもそう感じるのだから、学生時代の習慣はそう抜けないのだなぁと実感する。外を走るヤツとかは、まだ体力維持に役立っているけど…ご飯沢山作ってもなぁ。作り置きとか考えずに料理してるから、保存するのも大変だし…サラダとかスープとか。
「っし、出来た。由榎さんはお客様ですから、ちゃんと私がご飯作りますよ。朝ご飯、パンで良かったですか?」
「うん…ありがとう。」
由榎さん、学生時代の朝食はパン率かなり高めだったから、パン系にしてハズレはないと思っていたけど…いざ大丈夫だと分かると、非常にホッとする。…因みに今日の朝ご飯はホットサンドであるが、別に洒落とかではない。つか、今気付いたわ。
「今日は、朝イチから講義なんでしょうか?」
「ん?私達はまだ春休みよ。明日入学式。私は人気がない時間に居ない時間に家に戻ろうかと思って。」
「あ、そうなんですか…。」
「まぁ、学園から離れると分からなくなるわよね。」
しまった…学生と社会人だとそう言うラグが発生するのか。
少し反省しながら、由榎さんの言葉にだろうなぁと思って思考を切り替える。この家には由榎さんの服はない。昨日と同じ服を着ていると言うのは、男女関係なく、目敏い人なら気付いてしまう。いくら、それが浄化魔法でキレイにした服だとしても。…アルベロ先生クラスになるのは、少なくとも今の私には難しいなぁ。まだまだ人の目が気になってしまうよ。
「では、出る時は大体一緒になりますね。」
「そうね。私としては、昨日話した転移装置を是非とも使ってみたかったけれど…ないものねだりをしても仕方ないわね。」
「その辺は…すみません。住人でもおいそれと使えない、切り札みたいなモノなので。」
まぁ、私はバンバン使えるんだけどね。私個人で転移魔法を使う分には、それほど制約ないし。…でもまぁ、今までのクセで間に合いそうな時は普通に公共交通機関使うんだけど。