102話 イメージは伝わる。
そうと決まれば善は急げと言わんばかりに、カルマートさんはエントランスにチョークで複雑な術式の陣を描き出した。…ルナさんもだけど、陣は全体的に結構なサイズなのに、良くフリーハンドで円やら複雑な模様やらをキレイに描けるよな。私ならコンパスと何か色んな模様が書けそうな定規で下書きしたくなる。
昔から黒板の内容をノートに板書するのは得意だったけど、それは私の筆箱の中にその道具があったからで…って、私は何を言い訳しているんだか。
「あ、ああっ!?主、何やってるんですか!!」
私が感心していると、柚季さんは凄く慌てた感じの声を上げた。…ああ、魔法とか魔術とかに詳しくないと、この行動はちょっと奇行に見えるか…若しくは、陣を描くにしてももう少し小さいサイズを想像していたか…。
「あ、始。術式にまだ魔力を流して定着させてないから、こっちに入らないでね。」
「あ、はい。って、定着って…ああ、主っ!?ここ玄関エントランスですよ!?」
カルマートさんがサラッと返すと、日頃染み付いた感覚で話を流しかけた柚季さんだったが、疑問が切っ掛けになり、寸での所でノリツッコミを入れた。
確かに、今のタイミングでお客様とか来たらカルマートさんがご乱心!!とか何とか言われて、大変な事になりそうだ。
「も〜、煩いよ。始は心配性だなぁ…大丈夫だよ。定着と言っても焼き付ける訳じゃないし、元の陣はチョークで描いてる訳だから、モップで拭けば簡単に消えるよ。」
「ほ、本当ですね?信じますよ?」
そんなに警戒する?ってぐらい、カルマートさんの一挙一動に目を光らせる柚季さん。疑り深いにも程が…。
溜め息を噛み殺しながら、私もあまり詳しい方ではないけれど、こうも堂々と言われたら、信じるしかないって気持ちになってきた。…まぁ、そもそもこの家はカルマートさんのお家だから、自分で自分の首を締めるような事はしないか。
「柚季さん。カルマートさんの目は嘘を吐いている目ではありません。」
「それは、分かっているんですけど…やっぱり不安になるモノは不安になるんです。」
それだったら、本当にどうしようもねぇな。柚季さんの言う言葉も分からなくもないので、それ以上は何も言わない様にするけど…。これは、カルマートさんが示した方法でちゃんとこの陣が消えないと、柚季さんの不安は消えないのだろう。私も中々な自覚があるけど、柚季さんも結構アレな性格してるなぁ。
「…ん〜、長年構想していた魔術がこうして日の目を見る事になるなんて…ふふ、楽しみだね。」
個人的には、カルマートさんが凄く楽しそうな方が不安で不安で堪らない気持ちになるんだけどなぁ…と言う気持ちを込めて、静かに気合いを入れた。いや、別にカルマートさんに不信感を感じているとかではなくて、カルマートさんが浮かべている笑みが…確実に何か企んでいる、裏を感じさせる笑みだったから…私は良くこの笑顔の人にオモチャにされるから…つい。
私、こう言う笑みを浮かべる人にロクな人間は居ないと思う。特に影の精霊とか、影の精霊とか、影の精霊とか。…うん、影の精霊と並び称されるのはカルマートさんも不名誉な事だろう。止めておこう。
…影の精霊の顔を思い浮かべると、何故かいつかのスズメバチの精霊さん達を思い出してくるのは…影の精霊の顔が顔文字みたいな時があるから、かな。まぁ、影の精霊の基本顔も顔文字みたいなんだけど。
「これがこうなって…よしっ!!次は陣に魔力を馴染ませていくっと。」
私達が無言でも何のその。カルマートさんは、ノリノリで円含めた様々な図形と文字や模様を組み合わせた術式の陣をチョークで描ききった。
そして、陣に手をかざして魔力を流しているみたいなのだが…陣の線全体が光って、中二な方々喜びそうな感じになってる。
…凄くキレイなのにそんな感想しか抱けない自分が情けない。