9話 そろそろお開きの時間です。
ルナさんと由榎さんの議論は深夜近くまで続き…これ以上は明日に差し支えると思ったので、少し強めに二人を止めた。
「二人とも、もうそこまでにしてください!!」
「「!?」」
予めルナさんと由榎さんを覆うように防音結界と遮音結界を重ね掛けして、スピーカー役の影の精霊を配置。結界の外から、私がマイク役の影の精霊に向かって強めに声を出したのだが…想像以上に驚かれた。声のボリュームは影の精霊任せだったが、そんなに大きな声だったのか?
「不意打ちやったから余計に響いたんやろ。後はお嬢さんが張った遮音結界な。音が逃げへんから結界内で結構反響したみたいやで。」
「…直ぐ解除しましょう。」
止めるためとは言え申し訳ない事をしてしまった…防音だけだと、もしかしたらもう寝ている小春が驚いて起きてしまうかな?と、軽い気持ちで遮音結界を張ったが…音の反響とか、考えてなかった。
「ひょはぁぁ…ビックリしたぁ。」
「琴波…力業が過ぎるんじゃなくて?」
心臓の辺りを押さえている二人を見て、安易な行動はいけないと学生時代に学んだのではなかったのかと自分を責めた。
「すみません。もう深夜なので、そろそろ寝ないと明日に差し支えが出ると思って…もう少し止め方を考えれば良かったですね。」
「へ…わぁ、もうこんな時間!?僕達、随分話し込んでたみたいだね…。」
「あら嫌だ、本当。…琴波。止め方は兎も角貴女は正しい事をしたのだから、そこまで気に病まないで?」
頭の中で反省会を開いて、ただただ自分で自分を詰ったり罵倒していたら、由榎さんが肩を軽くポンと叩いた。いけね、顔にネガティブな雰囲気が出てしまっていたか。
「結果良ければ全て良し、だよ。…ところでさ、コトハ。この匂いは何かな?何だか食欲を刺激する匂いなんだけど!!」
「多少胃に何か入れた方が眠りやすいかなぁ…と。」
ルナさんの話題変換を有り難く感じながら、キッチンから夜食と取り皿とかを持ってくる。
片手鍋の中に入っていたモノを見て…時間帯を考慮してか、ルナさんは穏やかな歓声を上げた。
「わぁ…うどんだぁ。具はワカメにカマボコだけで、実にシンプルだね。」
「夜中に炭水化物…思う所がない訳ではないけれど、魅力的だわ。」
由榎さんに痛い所を突かれて、少し作業の手が止まってしまった。
「色々調べて考えた結果、うどんになったんですよ…。」
これでも、カロリーを抑えて野菜スープとかにした方が良いのか、でもスープだと直ぐ消化されて、結局空腹やトイレで夜中に起きてしまうのではないか…とか考えたのだ。その上でうどんになった。…まぁ、私の中の夜食のイメージがうどんが強くて、それに引っ張られたってねも多少あるが。
腹持ち云々から見ても、ちょっとは炭水化物食べた方がいいと思って…それならもう、食べる量を減らした上で炭水化物込みで夜食を作れば良いのではないかと思い至ったのだ。多分あの時の私はヤケクソだったと思う。
「本来一人前の量を二等分して、罪悪感を少なくしようって算段か…僕、どうせなら一人前食べたかったな。」
「ルナさんならそう言いそうとは思いましたが、我慢してください。」
少し深めの汁椀に分けて、箸と一緒に二人に渡す。少し手抜きして、沸騰した汁に冷凍うどんと感想ワカメと薄切りカマボコを入れて煮込んだヤツだけど…二人の口に合えば良いな。汁を味見した限り、二人の好みから大きく外れてるとは思わないけど。
「ん…温まるねぇ。シンプルだけど、それが実に良い。」
「美味しいわ。うどんもモチモチしていて…あんまり伸びてないのね?汁の濃さも、良い感じだわ。」
二人の評価を聞いて、ホッと胸を撫で下ろす。
…今気付いたけど、二人がこのうどんを美味しく感じた理由って…勿論本当に美味しかったのだろうが、もしかしてそれなりにお腹が減っていたかってのもあるのか?空腹は最大のスパイスと言うし。