雨に唄えば その5
令和元年 初投稿
荷台に鉄ミミズの積込みを終えて二人は、探索行動を再開している。
既に空気は、乾き旋風も吹きだした簡易防毒マスクももう外している。じきに砂塵の吹き荒れる通常が戻ってきてしまうのだが……
「しっかし鉄ミミズは、どうやってあんな早く掘り進めるんだろうね?球体アクチュエーターだけじゃキツくない?」
「ん?ランファ知らなかったのか?頭部が振動して地中を解して貫入するんだよ。そして本体の球体アクチュエーターで推し進む、だからアイツ頭だけ本体より太くて異様に装甲硬いのさ 」
「……真っ当な説明なんだろうけど、なーんかなーシン卑猥」
ニヤニヤしながらランファが返してきた。その態度にシンは、ハッとした。
「うん冤罪だそれも誘導尋問 うっかり答えたけど今までも無力化する時当然動力系システム抑えてたんだから構造承知してたろ」
「チッ気付くの早過ぎ!もう少し弄れると思ったのにな」
「それは、残念だったなーさっさと目星つけて探索するぞ」
「じゃーそこの建物にしようなんとなくだけど」
「了解」
ランファが、指定したのは超高層とは言えないまでもそれなりのビル今のところ倒壊の恐れは無さそうだ。
問題は、入口が見当たらずに半ば埋もれた地下駐車場の入口のみ見える事である。
「あそこに入って行くのは、避けたいな…いや止めとこう 」
「何も御行儀良く正面から行かなくても”裏手”から行けば良くない?」
「正論だな…珍しく」
「失礼な!路地に入るから速度落とすよ」
通りから狭い路地に進入していくペケ周囲は、高層の建物で殆ど陽射しが入ってこない空気も幾分淀んでいる
幾分救いなのは、進路上に障害物がなく路面の傷みが少ない程度
警戒しながら進んで行くと漸く通用口らしきものが、見えてきたその前でペケは、停車する。
「さてノックは、必要無いよな。様子を見てくる問題無ければエンジンを止めて来てくれ」
「了解!あっ私のサブマシンガンも持ってきてくれると嬉しいなー」
「ハイハイ」
シンが、降車して荷台からセミオートショットガンとサブマシンガンを取り出しそのまま操縦席側に廻り車体前部のトランクスペースにサブマシンガンを置いていく。
建物に近付き通用口のノブに手を掛けると幸い罠の気配もなく鍵もかかっていなかった。そっとドアを開けて中を確認する空気は、淀んでいるが破壊された様子もなく異常は見当たらない。足で抑えドアを開けたままペケに振り返り手招きする。操縦席ハッチが開きランファも降車してくる、サブマシンガンを回収し素早くストラップを掛けてからコッキングしてシンに近付く脳直ケーブルは腰に束ねているが襟首に接続されてはいない。
「上層は、とてもじゃないが廻れないから今回は1階を探索しよう」
「当たりが、ありますよーに」
注意深く中に侵入する二人。建物内は、光が乏しく静まり返っている。見通しが利かないのは、キツイが銃に取付けたライトを頼りに進むしかない。
「流石に先住者は、居ないよねー」
「多分な。九龍城塞は、元軍事拠点だからドローン避けのジャミングあるしミュータントの対策も組合がしてるけど廃墟群の中じゃ…」
「ハァ〜武器は無ぇ♪メシも無ぇ♪生まれてこのかた見た事ぁ無ぇ♪偶に来るのは、野良ドローン♪じゃ無理かぁ」
「あ…あぁ居るとしたら先入りした御同業かそれこそ人外サバイバーだろうな。何れにせよ遭遇したくない」
ランファが独特な韻を踏んで歌う様に返してきたがシンは、スルー
ちょうど扉が、目に入ったので探索する事にする。
「よし行くぞう」
「⁉︎」
シンの発言にランファが、若干引きながら驚いていたが原因不明の為スルー
扉の中は、倉庫スペースなのか棚がズラリと並び色々な物が置いてあるが共通点はどれも古臭い。おそらく個人か店舗が、アンティーク収蔵庫として利用していた様だ。
しばらく物色していると
「シン来て来て」
「何か良い物あったか?」
ランファは、ハンドルの付いた箱を持っていた
「何だソレ?」
「分からないけどコレ蓋を開けると円盤型の台と折り畳み式のアーム?が、あってアーム?に針が付いてるの機械っポイからシンなら分かるかなと思って」
「流石に分からないな…下の方は、スピーカーみたいだけど 横のハンドル回してみた?」
「やってみる 」
《カチッカチカチ》
ハンドルを回す度歯車の金属的な音がする。
「何も起きないよ?」
「動力を貯めてるのか?ランファなにかスイッチないか?」
「スイッチ?あっコレか‼︎おぉ‼︎台が、回ったけど何コレ?」
「う〜ん?」
「あっシン‼︎蓋の内側に円盤入ってたコレ台の上に乗せるんじゃない?ピッタリだよ」
「あぁその後アームをセットすれば… 」
シンが、言いかけたその時
《ズッズズズズズドドドドー》
地響きと凄まじい音がした
「「何だ⁉︎」」
慌てて倉庫から飛び出す二人
「何でソレ抱えてきた⁉︎」
「えーだって 勿体無いじゃん‼︎」
「まったく」
警戒しながら外に出る路地には、粉塵が舞っていた急いでペケに向かう
「そんなの車内に持ち込めないぞ‼︎銃と一緒に荷台に置く 」
「了解〜 」
荷台に積み込み乗車する二人直ぐにエンジンを始動させて通りに向かう
進むにつれて粉塵の量が増す。
路地を抜け通りに出た瞬間二人の目に飛び込んできたのは…
ボッキリ根元から折れた向かいのビルだった粉塵もおさまってきて視界が、確保されるにつれ何者かの攻撃ではないのも分かった。つまり自然倒壊だ。
「「ウソーン」」
思わずハッチを開けて異口同音。
幸い通り側じゃなく建物側に倒れた為進路は、塞がれていない。
《プシューッ》
何かが、勢い良く噴き出す音がして二人にも降りかかる。慌てて確認すると
「「水だ‼︎ 」」
倒壊したビルの基礎からネジ切れたパイプが、顔を出し噴水の様に水を噴き出している。
水道は、とうに死んでいるから恐らく被圧地下水をスプリンクラー等に利用していたのがはねたのだ
降車して確認する二人
「凄い‼︎まるで雨だね‼︎黒くないけど‼︎」
「あぁ‼︎黒くない‼︎黒くない雨だ‼︎」
はしゃぐランファに返すシン。ここで「 元々の雨は、黒くない」とか色気の無い事を言わず共感する辺り快男児である。
シンが、雨にも感傷にも浸っていると
《♪〜〜♪〜》
ノイズ混じりにくぐもった、それでもどこか温かい音楽が聞こえてくる。
周囲を見回すとランファが、荷台の近くいる。ランファが、発見して抱えてきたのはゼンマイ式蓄音機だった。
「凄い凄いなんか音が出てるよ‼︎ 」
「壊れてなくて良かったな。水源見つけたし収穫ありだ帰ろう 」
「了解 」
「コレ止めないのか?」
「このままでいいーのー」
「壊れても知らないぞ」
パイプから噴き出す雨の中動き出すペケ。
牽引する荷台からは、音楽が流れてくる
《♪I'm singing in the rain〜♪ Just singing in the rain〜♪What a glorious feelin'〜♪ I'm happy again〜♪ 》
これにてプロローグ兼チュートリアルは、終了です。
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