雨に唄えば その3
雨上がりの潤沢な空気に包まれながら
雲間から差す光りが、都市廃墟を照らし出し
地表では、ひび割れたアスファルトから立ち上る靄の中を一輌の装甲車輌が駆け抜けていた。
普段であれば容赦なく吹きすさぶ砂塵も今日は、無縁で砂を撒きあげる事もないせいかただでさえ幅の狭い履帯は迫力不足なのが否めない。
それでも車輪付の荷台を牽引して名前の由来である軽めの排気音を《ペケケケケケ》とたてながら突き進む!
スクラップ利用の豆戦車【ペケ】乗員2名の小型車体でも戦車と言ったら戦車なのだ機銃運搬車と言ってくれるな
「ヒーンこんな日は、シンに操縦席譲りたいよー」
車体に対して左寄りの操縦席で防弾ガラスの小窓を覗きハンドルで履帯を操作しながらランファが、ぼやく
普段は、砂塵に曝されない比較的快適な空間にも今日はご不満の様だ
「文句言うなって常日頃砂塵に曝されてないんだから我慢して操縦に集中集中」
ペケ唯一の固定装備20㎜機関砲は、車体に対して右寄りに砲座があり。そこの上部ハッチから上半身を出して索敵と称し砂の無い風を満喫中のシンが、ハッチと体の隙間から返答する。
「ク~ッ 戦車長殿せめて操縦席側のハッチ開放を願います!」
「接敵時速やかに閉鎖出来ない為ランファ操縦手の要請は、却下する!それとも貴官には、速やかな開閉の妙案があるのかね?」
「全くもって御座いませーん」
ランファが、おどけて軍人の様な口調で意見するもあえなく戦車長兼砲手のシンから即却下をくらう
仮に操縦席側ハッチを開放しても操縦中は、身を乗り出すわけにもいかないので要は気持ちの問題である。
シンの主張する通り操縦中のランファの自力開閉は、難しい。
となればシンの手を借りるしかないが如何に砲手ハッチと操縦手ハッチが隣接していても咄嗟にシンが、両方閉じるのは無理がある
気持ちの問題で危険を犯すわけにはいかない。
そもそも言うまでもなく分かりきった事であるしお互い声色は、明るいので談笑の類いだ
何故声で判断するかというと…
「それにハッチから顔を出したところで"御守り"は、外せないぞ?息を止めるならともかく」
「分かってますー粘膜デストロイは、勘弁だからねー」
二人共ゴーグルに加えて"御守り"こと簡易防毒マスクを着用している為表情が、読めないからだ。
砂塵ならゴーグルでなんとかなるが、黒い雨が気化する際色々空気中にばら蒔いてくれるので自然風による換気が済むまで着用しなければならない。もっとも外せる頃には、砂塵も復活してくるが…
「ところでシン何処まで進むの?マオに会うならあんまり時間かけらんないよー」
「そーだなーペケ単体で都市部の外に出るのは、避けたいとこだしその辺で…ちょっと待った減速!!」
「!!了解」
即座にクラッチを踏みギアを下げるランファ《ブォン》と一瞬唸り速度を落としたペケに僅かに体を持っていかれながらハッチに手をかけいつでも閉じられる状態になりつつ前方を注視するシン。
その視線は、前方15m程先の大きくヒビ割れたアスファルトから顔を覗かせる地表に向いている。
(気のせいなら良いんだけどな…)
地表を見つめていると徐々に盛り上がってきている、しかも幅30㎝程のその土の膨らみはアスファルトを押し上げながらこちらに向かってきた。
(クソッ)
「急速停止続けて後退!!」
ハッチを閉じながらランファに指示し自らも砲座につき20㎜機関砲をコッキングするシン。そのままペリスコープ(潜望鏡)で前方を警戒する。
ランファも素早く操作した為先程より大きく車体を揺らしたペケも今は、後退速度を上げている
「うわーアレ多分アイツだよね」
「だろうな生身のミュータントじゃ掘り進みながらだとこのスピードに追いつけない」
ペリスコープと小窓から前方を警戒する二人。その間も距離は、どんどん詰まってくる次の瞬間…
「「あっ‼︎出た‼︎」」
土中から姿を現した”ソレ”を形容するならミミズか足無しムカデ。ただしこのミミズは地表から2m程の高さで頭を擡げた様な姿勢を取り、節足動物の体節の様な装甲と有櫛動物の櫛板列の様に放射状に6条の球体アクチュエーターの列を持つ直径60㎝の鋼鉄ミミズなのだ
「ウゲェー相変わらずじっくり見たくない形してるわ」
「野良ドローンの”鉄ミミズ”か地面を這われると厄介だけどもう少し本体を誘き出さないとだな」
「完全に土から本体が、出ききったら高速で這ってくるんだから撃って撃って‼︎」
「落ち着けよ!下手に撃って潜られた方が、厄介だ速度を緩めてくれ」
「分かったよ!出たら速攻でキメてよね!」
鉄ミミズは、熱と振動センサーを内蔵し地下を掘り進む頭部以外それ程装甲厚が無いので被弾率を下げる為地中移動を主にしている危険を察知すれば即座に戻るうえ全体が地中から出れば高速で這い寄り巻き付き攻撃をしてくる。
狙い目は、約8mの本体の半分以上出た瞬間だ
「‼︎出た‼︎ 今だ‼︎」
声を発すると同時にトリガーを引くシン
《ダッダダーーン》
ベルト給弾式20㎜機関砲が、連続した咆哮をあげ。
狭い車内に轟音が、響き渡り未だに残響しているなか前方を確認する二人
ペケのモデルは、ポーランドの豆戦車 TKS戦車です。独特な愛嬌のあるフォルムに軽快に走る姿が特徴
ようつべに動画も上がっているので気になった方は、検索して下さい。