雨に唄えば その2
「あぁ起きてるよ しかし天気に関係なく元気だな?ランファ?」
ドアを開けて応えるシン目の前には、腕捲りしたオレンジ色のツナギに胸部ボディプレートを着用しサイドジッパーのエンジニアブーツ首からゴーグルを下げたお隣さんの少女ランファが居た。
ワークキャップに収めきれない栗色の髪は、後ろに束ねポニーテールにしていて元々切れ長の相貌は、やや怒り気味に見える
「っとお なんだ起きてるなら返事しなよ!それに天気なんて"ここ"には、関係ないでしょ?今日は、探索なんだから出発前にゴハン行くよ準備出来てるみたいだし!」
「あぁ」と受け答えるシンの服装は、プレート入りのタクティカルベストにOD色のジャケットとカーゴパンツ。足下は、編み上げのジャングルブーツ。耳当て付のタンクキャップにゴーグルを額の位置に付けている。
因みに二人とも腰にホルスターを付けてそれぞれ拳銃を下げているがあくまで"ここ"での護身用だ。
「しかし何時もながら、ワザワザ外食しなくても食べるだけならレーション(携帯糧秣)でも良くないか?自宅で済むし何より経済的だろ」
若干やれやれとした素振りでかれこれ何度目かの提案をするシン
「分かってないなー探索なんか出たらそれが最後の食事になるかも知れないんだよ?ボソボソのゲロマズ固形食が、最後の晩餐なんて惨めでしょ?」
フンッと胸を張りながら主張するランファ
胸を張ってもボディプレートに余裕(隙間)があるが触れてやらないのが武士の情け、触らぬ神に祟りなしである
「ハイハイ交渉決裂、それで?"駐機場"に向かうから食事も下層で構わないか?サッと済ませたいし」
「仕方ないなぁ、まぁ確かにしっかり食べたら探索どころじゃないしね」
軽妙なやりとりをする二人が居るのは、流民窟の中層にあたるエリア。
明確な住み分けがあるわけではないが、人は自分に都合よく生きるもので単純に流民窟内で生活が完結する者は上層エリア。"外"に出入りする者は中層エリアに下層は、主に車輌の駐機場や搬入交渉商売等"外"と頻繁に関わる者のエリアだ。
暫くして…
複雑な通路と階段を経て下層に下りた二人そこは、下層で飲食店が集中している場所である。
決して広くない薄暗い通路沿いにこれまた決して広くない店舗が、軒を連ね露店もある。
皆それぞれ看板をせり出すが、大抵目にキツイ原色の電光板で仕様なのか接触不良なのか点滅するものも散見する。
食べ物の匂いと蒸気が立ち上るなかなかの"雰囲気"のある場所だ。
雑踏の中を進み目ぼしいものを探す二人
すると唐突に後ろから
「シンサン!シンサン!こっちこっちヨー」
恰幅の良い体に負けない声でシンを呼ぶ男
どうやら露店で一杯やりつつシンを見つけたらしい
「なんだマオさんこんな時間からひっかけてるのかいイイ身分だね?」
シンが応じる短髪黒髪の男マオ「自称一流の情報屋」である
今は、ゴムサンダルに短パン 白のランニングに丸縁のサングラス姿で団扇を扇ぎながら得体の知れない肴で酒をあおっている
「アイヤー違ウ違ウヨーワタシ仕事の後ネー尊い労働の後の魂の洗濯ネー」
「ははっ♪そーゆー事にしとくよ。それより呼び止めて俺に何か用事かな?」
「そーそーこれから探索だから私達急いでるんだよ?」
苦笑しながら答えるマオに用向きを尋ねるシン
ランファも急かしているが恐らく探索より空腹が、原因だろう
「シンサン達探索出るカーワタシ良い話仕入れたトコヨでも問題無いネー探索戻タラ話スヨー」
「悪いねマオさん今日中に戻るつもりだけど他に受け手が、見つかったら進めて構わないからさ」
(本当に良い話なのかしらね!?)
ランファは、腹心ありげだが男性二人は、スルーしていく
「それじゃマオさん酒は、程々に話が聞けなくなるからさ」
「じゃーね」
苦笑しつつ二人を見送るマオ後ろ姿に暫く手を振りつつ
一杯飲み干し
「再見 小人」
誰にも聞こえていないが、口角を僅に上げて呟いた…
「ハァー相変わらず胡散臭いオッサンだったね」
「まぁなぁでも基本情報代も後払いでガセの時は、無料なんだから良心的だろ?」
「まぁね」
割包(グワバオ 肉の角煮を蒸しパンに挟んだもの無論合成肉)を頬張りながらランファが呟き宥める様にシンが返す。
二人は、飲食店の通りを離れ駐機場に向けて通路を進んでいる
「ところでハンター組合に顔出しして行く?」
「いや討伐依頼は、装備も人手も潤沢な連中に任せるからパス。俺達零細は、戻った時で十分」
ランファの問いに苦笑しつつ返すシン
ハンターの互助組織であるハンター組合は、素材や戦利品の買い取りの他に討伐依頼も出しているが当然指定されるくらいの獲物なので"厄介"なのだ。
これから向かう駐機場もハンター組合の管轄で
スペースに合わせて対価を支払い車輌や装備を管理してもらえる。
整備は自前かメカニックを雇う為あくまで待機場所なのだが、引退したハンターや堅実なハンターが組合支給のエグイ装備で熱心に警備してるので盗難の心配は皆無。
窓口に行けば消耗品の購入も可能と実用的だ。
《ギュイィィーンガッガッ》
《カンカンカン》
《ガラガラガラ》
様々な工具や金属音それに搬入する荷台の音が聞こえてきた
「さて地獄に行くか」
「了解♪」
小気味良く二人は、進んでいった。