雨に唄えば
世界観を説明したいと思います。
暫しお付き合いを
《…ザーザザッガッ》
朝から拡声器が、不快な電子音を曇天の空に垂れ流している。
(こんな天気じゃ御決まりのあの台詞だろ?)
そんな風にひとりごちながら窓越しに外を見る黒髪の少年"シン"
その瞳には、倒壊や倒壊しかけのかつての摩天楼の姿が映っていた。
《現在"香港自治区"周辺は、雨が観測されています。住民は、外出を控えること!》
放送で伝えている通り、今も「黒い雨」が窓に打ち付けている。長年の工業汚染の後に止めとばかりに人類が、やらかした事により降り注ぐ有害な雨だ。
「昔は、黒くなかったらしいけど憂鬱な事に今も昔もかわりないさ」
未だ十代のシンは、黒い雨しか知らない。
無い物ねだりしても仕方ないうえ、自分が知らない事にやや意地になっている様にも見える。
「外出禁止も"ここ"の中なら問題無い。腹も減ったしそろそろメシに…いやアイツが、来るか」
"ここ"こと【九龍城塞-流民窟-】は、元々急造の軍事拠点だったのだが人類がやらかした後に放棄され様々な人種が流れ込み違法建築によるバラック群を形成。未だ上にも横にも"増築中"である。個々の住居は、勿論広場や通路に至るまで屋根の下で壁の中なので黒い雨も問題無い。
そもそも先程の放送は、シン達-流民窟-の者に向けられたものではないのだ。
《ドンドンドン》
案の定、ドアをノックする音が聞こえる。
軽く身支度を整え玄関に向かうシン
ドアノブに手を掛けかけたその時
「シーン!!起きてるのー?!」
活気のある声が響いた