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────ここは再び知らない場所────

「ふぁあ。う~ん」


 重い目蓋を擦りながら目を覚ます春華。ベッドに眠り窓から差し込む陽のまぶしさで、否応なしに覚醒させられた。

 辺りを見渡すと白い壁紙の部屋に窓と、二人の男が床に雑魚寝しているのが覗えた。

 同時に春華の気配を感じたのかうっすらと目を開けた。


「あ、おはようございます。昨日はありがとうございました」


 挨拶と礼を兼ね、言葉を放つ。


「なぁに良いってことよ。久しぶりに、床に寝れただけでこっちもよかったぜ」


 サトーがぐっと伸びをしながら返答した。


「うん、そうだね。おはよう春華ちゃん。疲れてたのにもう目を覚ますなんて、早起きさんだね。うひょ」

「いえ、ちょっと知らない場所だから、あんまり寝付けなかったんです」


 気になることが心の中にずっとあったのも原因の一つ、眠ればもしかしたらこれは夢の世界の出来事だったんじゃないかっていう淡い期待もあった。

 でも考えれば考えるほど、眠りからは遠ざかって様々なものが巡っていったのだった。それでもいつの間にか気づいたら朝になっていて、結局夢落ちの願望は無情にも否定されたのだった。


「そっか、まぁ暫くはここにいると良いと思うよ。俺たちは任務があるから出掛けることになるから。ここなら安全だし。きっと春華ちゃんの記憶も治ると思うよ」

「あぁ、ここの設備は半端じゃねぇからな。まぁなんにしても飯だな」


 サトーも同様に頷きながら提案する。


「そうだね、折角ここにいるんだから、ご馳走になって報告も一緒にしていこうか」

「あぁ。じゃあ移動するか。春華も一緒に食うか?」


 お腹と相談するとすぐに結論は現れた。目覚めたばかりで思考が及ばなかったが、身体は食事を必要としているようだ。


「あ、一緒に行きます」

「そうか、じゃあいくぞ」


 移動を開始する。白い壁紙の一部に手を翳すとそこは自動に開いた。

 サトーを先頭に廊下を歩く、基本的に白以外は色がない。すれ違う人たちも皆、長い白衣を身に纏っている。


「っと、そうだ、ジジイに頼んでくるか」

「そうだね。春華ちゃん、ご飯はちょっと待って一緒に来てくれるかな」

「あ、はい」


 次の廊下の角を曲がると銀色の扉が在り、上部には監視カメラとマイク、スピーカーが設置してあった。


「サトー・ガイだ!」


 高らかに宣言すると扉から、


『コードヲ認識シマシタ。通行ヲ許可シマス』


 機械的な女性の声が聞こえた。 

 目を丸くする春華。そして開いた扉の先は想像をはるかに凌駕していた。

 機械が氾濫している。管が至る所に伸び、見ただけでは判らない計器が数十存在していた。職員達は黒い画面に向かい、表示されている数字と格闘している。

 中央に透明な硝子で仕切られたカプセルのような物が在ったが、何なのかは判らなかった。

 そして、それを見上げるように佇む白髪の老人がいた。同様に白衣を着ていたが、腰が曲がり身長は百五十センチほどしかないように見える。


「おいジジイ、久しぶりだな。生きてたか?」

「また、五月蝿い奴が来たのぅ。この通り生きておるわい」

「そいつぁ何よりだ。今日は頼みだ。こいつをちょっと見てくれねぇか?」


 親指で後ろにいる春華を指しながらサトーがそう言った。


「不躾だのぅ。いきなりか。……ほほぅ、また若い娘を引っかけおって、リコや【法湖(ホウコ)】の次は胸か」


 春華の大きな胸を凝視しながら言うと、


「死ねジジイ!」


 サトーの怒りを買った。


「ちょっと待ってよサトー君!」


 イッシーが羽交い絞めにする。


「離せイッシー、こいつは一回殺さなきゃ気が済まねぇ!」

「ほぉほぉ、わしを殺すということはクレイモア様たちを敵に回すことになるぞ?」

「…………っち、相変わらず口だけは達者だなジジイ」

「腕も達者じゃぞ?」

「減らず口言いやがって」

「まぁまぁ、その辺にしてさ。ドクター、さっきサトー君が言ったように春華ちゃんをお願いできませんか? 記憶が無いみたいなんですよ。精霊のことを知らなかったり。俺たちの推測だと、もしかしたら、影の国の実験に巻き込まれたのかもしれないんです」


 その説明にドクターは目を細め、春華をまじまじと見つめた。


「ほう、まぁ考えられん線ではないがのぅ、記憶が無いだけでは決定打に欠けると思うんじゃが」

「こいつは空から降ってきた。焚き火してたら、いきなりだ」


 裏付けるようにサトーが割って入る。


「ほほう、なるほど確かにそれは変な話じゃ。引き受けた。じゃが今は忙しいんでのぅ、もう暫くしたらまた来るが良い。その間この施設の案内でもしてやれば良い」

「はぁ、めんどくせぇ。まぁいい後で来りゃ良いんだな」

「そういうことじゃ」

「へいへい」


 そう言いながら我先にと出て行くサトー。


「ちょっとサトー君! それではドクターまた後で。……待ってよ!」


 春華もどうして良いか判らず、とりあえずペコリと頭を下げその場を後にした。


「ったく、いけ好かねぇジジイだ。春華を預けるのはちと不安だな」

「まぁ、でも腕は確かなんだから大丈夫でしょ」

「ふん、まぁな。さて、改めて飯だな」


 黙々と白い廊下を進み食堂に着いた。広々とした空間に長方形のテーブルが数十並べられ、椅子は一つの机に対して六つずつ存在している。

 券売機が在り、そこに書かれたメニューを押せば、そのまま隣のカウンターから一分ほどで出てくる仕組みになっている。


「なんでも頼んで良いんですか?」


 遠慮がちに尋ねる春華。


「ああ、別にタダだからな好きな物食え」

「わかりました。う~ん、あ! マンゴーがある! これにしよ」


 ここにきて、まさかの好物にありつけると思ってなかった春華。嬉しさのあまり頬が緩んだ。


「へぇ春華ちゃんは果物好きなんだね」

「え、あのマンゴーが好きなんです。他のはそんなに好きじゃないんですよ。あとはミルクティーが……あ! ある! これも押してもいいですかね?」

「うん、大丈夫だよ」

「わぁい、へへへ」


 そんな春華を見て、サトーが言葉を漏らした。


「お前、やっと笑ったな。女は湿気た面してねぇで、そうやってる方がいいぜ、やっぱ」

「うひょ、そうだね」


 カウンターから出てきた食事を持ち、各々席に着いた。料理を口にしながら春華が質問を投げかけた。


「あの、サトーさんたちは何をしている人なんですか? 偉い人だったりするんですか?」


 このような場所、昨日の任務という言葉。色々気になることがあったからこそ質問をした。


「そうだな、一応隊長だ」

「サトー君それじゃ判んないでしょ。う~んとね俺たちは軍人で。ここは保有している軍事施設の一端だよ」

「え、軍隊なんですか、自衛隊じゃなくて」

「あぁ? 軍は軍だろう。自衛もするし、似たようなもんだと思うぞ」

「まぁ記憶が無いんじゃ仕方ないよね。この日本はね軍というシステムがあって、外敵が現れたら退治したりするし。人助けもするんだよ。今は別任務で俺たちはそこから遠ざかってるけどね」

「もぐもぐ……そうなんですか。あの、石崎さんもサトーさんと同じ隊長さんなんですか?」

「第十四分隊の中隊長だよ。まぁ基本的に俺は補助にしか回れないから、そのくらいの階級にしかなれないんだ。サトー君は十三機動分隊隊長だね。もっともこの部隊はサトー君の為にあるようなものでね、一人で突っ込むサトー君をフォローする人たちが集められているんだ」

「え、じゃあサトーさんはいつも戦うときは一人なんですか?」

「そうだねぇ、そういうことになるかな。でも、強いんだよ?」

「まぁ、俺は全宇宙最強だから問題は無い訳だ。がははははははは!」


 イッシーの言葉で有頂天になるサトー。唾まで飛ばしながら高笑いしている。


「ふふ、そうだね。後はシロがいれば俺たちは三国志って名前で通っていたんだよ。通称エロ三国志!」

「…………エロ三国志?」


 少々理解に苦しむネーミングセンスだった。想像に難くはないが、つまりそういう卑猥なことをしていたのだろうか。


「ばかやろう。……まぁ間違っちゃいねぇがな。そういやぁシロの奴も、眼鏡やらツンツンした女が好きだったからなぁ」

「うん、懐かしいなぁ、本当に────」

「あぁ……」


 何処か懐かしみというよりは、悲しみが二人には纏っていた。


「あの、シロって言う人はどうかしたんですか?」


 さも今は離れているような口ぶりだった。


「うん、まぁ今はいないんだよシロは、軍を抜けて行方をくらましてる」


 答えたのはイッシーだった。


「まぁ言っちまえば、今の任務はシロの捜索なんだ。だからよ、あんまりぐずぐずもしてられねぇんだ」

「あ、そうだったんですか、見つかりそうですか?」

「あぁ見つける。そうしなきゃならねぇ。それでまたバカ騒ぎして、酒を酌み交わさなきゃな。そうだ、そのときはお前も付き合え春華」


 急に酒の席の話を振られ焦る春華。


「え、あたしは、お酒飲める年齢じゃないので無理ですよ」


 手をパタパタと横に振りながら遠慮するが、サトーにはあまり意味がないようだった。


「なぁに気にすることはねぇ。俺なんかよ十のときから飲んでたぜ?」

「サトー君それはいくらなんでも早すぎるんじゃ」

「いいんだよ。別にな。──さてと、時間もいい加減頃合だ、行くぞ」


 食器をカウンターに預け、先ほどの部屋に三人は移動を始めた。

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