レンアイ ノ ヒトコマ 【ショート・ショート】
執筆中の連載「変化の風、運命の車輪」とは全く関係ありません。
なんとなく書いてみました。
「あの時僕は君にキスをしたけれど、それが『好き』という感情から来た行動なのかはわからない」
学校の帰り道、寄り道をしたゲームセンターで手を繋ごうとした私にオオツキ君が言った。
「やっぱり、僕と君はつりあわない。僕に君は似合わない。君に僕がそうであるように」
動かないゲームの、真っ黒い画面に映る私たち。
似合う?似合わない?
他の目を持たない私にはよくわからなかった。
画面の中にいる私のおなか辺りをじっとみて、彼は私と目を合わさないつもりだ。
「他の人を気にしないとだめなの?」
私は尋ねる。
「だめだよ。僕らも他の人の一人なのだから」
ついにオオツキ君は歩き出してしまった。私が隣にいないにも関わらず。
歩き出した彼を追いかけるけど、どうしてか私たちの距離は埋まらなくて
車の前輪と後輪の関係のように一定の距離を取られたまま、私はオオツキ君を追いかけた。
「私はずっとオオツキ君のことが好きだったんだよ」
最後まで取って置いたセリフをぶつけると、彼は立ち止まり、
悲しそうに笑って
「今言われても困るなァ」
といった。
そうか、『今』じゃなくて、もっと『前』から伝えるべきだったんだね。
声にして、言葉にして、あなたにちゃんと伝えるべきだったんだね。
「今度から、ちゃんと言うね。君に、ちゃんと伝える」
それでも君の悲しい笑顔は変らなくて、
私は、もう君の隣にはいけないのかと悲しくなって、
でも彼にそれを教えてはいけない気がして、
やっぱり、私も笑った。
それはオオツキ君のような悲しい笑顔だったと思う。
明日から、また『今度』をやり直そう。
教室で彼に会ったなら、『おはよう』から少しずつやり直そう。
明日会えなかったら、明後日。
明後日会えなかったら、その次。
9年や10年かかっても、夢のなかですら会えなくても、
いつかまた会えたときに、私は『今度』をやり直そう。
その時、君が幽霊になっていたとしても
私は『今度』をやり直そう。
だから、そのときはちゃんと私の目を見てほしいと思うよ。
「じゃあな」
「さよなら」
また、『今度』
大槻ケンヂさんをオマージュしております。
「んん?」と思うフレーズがあるかもしれません。
知ってる人は知っている、知らない人は…気付かないと思います。
アンニュイな雰囲気が伝われば大成功。