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友達の予感

作者: にとーへん

 高校に入学してからすでに一か月経つが、相変わらずサナさんはクラスで孤立していた。

 私は彼女を一目見た時からとても興味を引かれたが、自分から話しかけるような勇気はなかったので、まだ友達といえるような関係にはなれていなかった。

 しかし、そんな意気地なしで口下手な私とは違い、サナさんは時々、私のところまで話しかけに来てくれた。

 なぜ、彼女が私にだけ喋りかけてくるのか不思議だったが、私はそれを悪くは思わなかったし、むしろ、それが嬉しくあり誇らしくもあった。

 ある日、私は思い切って、サナさんに尋ねてみることにした。

「サナさんは友達を作らないの?」「どうして、私にだけ話しかけてくれるの?」

 私がそう言うと、彼女は首をちょこんと傾げ、黒くて大きな瞳を瞬かせた。

 何が言いたいのか分からないといった調子で、とても不思議そうな表情で私の目を見つめてから、しばらくすると彼女はくすりと笑った。

「友達なら、あなたがいるわ。それに私の口は一つしかないし、耳は二つしかない。同時に、何人もの人を相手に会話するなんて、不器用な私には不可能よ。私は聖徳太子じゃなくて、普通の女の子だもの」

 私は、彼女が自分のことを「不器用」や「普通」と称して、自虐したことが意外だった。

 てっきり、いつも他人を寄せ付けない雰囲気を醸し出しているだけに、サナさんはプライドの高い人に違いないと思っていた。

 成績も極めて優秀で、他人と同じ世界に生きても、他人とは異なる景色を眺めているような人だと思っていた。

 だけど、それは私の思い違いだったらしい。

「あなた、私のことを勘違いしてそう」

 徐に、サナさんは目を細めて呟いた。

 窓から入り込む風に揺れる彼女の前髪が、どことなく寂しそうに見えた。

「変な期待はしないで。私にはほとんど友達がいない。だけど、それだけなの。本当に、ただそれだけ」

 サナさんの台詞を聞いて、私は無性に自分自身が恥ずかしく思えた。顔がみるみると紅潮していく様子が、鏡を見ずとも分かった。

 私は度々思う。

 一体いつになったら、私のことを友達と言ってくれる彼女のことを、私は友達と思えるのだろうか?

 彼女と最初に出会った時からずっと、そんな不安が私を支配している。そんな不安が、私には興味深い。私は一体、何を不安がっているというのだろうか?

 友達のことを友達と思えないこと、それが不安なのだろうか?

 それとも私は、私のような人間のことを「友達」と呼ぶサナさんに一種の狂気のようなものを感じていて、それが不安なのだろうか?

 分からない。自分の感情なのに、自分の体内から湧き出てきた不安なのに、自分の頭では理解できない。本当に分からない。

 だけど、ただ一つ、はっきりと分かってしまうことがある。

 それは、生涯、私に友達ができる日は来ないだろうという確かな予感である。

 この予感は誰と交わした約束よりも信頼できるし、この予感が私を裏切ることは決してないだろう。


友達の多い社交的な人は、誰とでも友達になればいい。

友達の少ない内向的な人は、内向的な友達の少ない人と友達になればいい。

だけど、私は違う。

友達のいない人間は、決して誰とも友達にはならない。

友達のいない人間は、決して友達のいない人と友達にはなることはない。

なぜなら、彼らには友達がいないからである。

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