全身鎧の人
「わっひょい!!」
くそ、避ける時に変な声が出ちまった。
鎧の人が背中に背負っていた小柄な人ぐらいの大きさな両手剣を片手で抜いてそのまま俺に振り下ろしてきた。
俺は咄嗟に横に逃げた。
何だこの鎧の人、よくそんな重たそうな剣を振り回せるな、ここは街中だぞ!!
鎧の人は力が強いらしい。
剣に振り回されているようには見えなかった。
避けるのが少々遅かったのだろう。
腕の部分に剣が引っかかり服が破けてしまった。
それにしても街中で剣を振り回すとはどういう神経をしているのかね。
真っ当な神経ではないと思いたい。
これが異世界の常識なら不安しかないな。
「貴様!!
避けるな!」
俺に死ねと言うのか。
「死ね!」
言っちゃったよ、この人。
それにしてもどうしよう?
「うひぇい!」
今度の横に切りつけてくるのをしゃがんで躱す。
戦う?
俺と鎧の人がどんなスキルを持っているのか分からないのに戦うなんて目隠しでババ抜きでもしてるようなもんだし無理だな。
勝ち目が無い。
「とぉ!」
しゃがんだ所に鎧の人が顔面に向かって蹴りを入れてきたので後ろに跳んで避ける。
逃げる?
何処へ逃げようかな。
初めての街で頼れる人と言えば・・・騎士のバゲラさんがいるじゃん。
走れば鎧を着た人よりこっちの方が有利な筈だし門までなら全力疾走で走っていける筈。とその前に。
「【スキルトレジャー】」
《【ジャンプ】を習得しました。》
俺ってこんなに動けたか疑問にも思うけどスキルの効果とかで動けてるのかもな。
スキルも習得したし、行くか。
「貴様!
ちょこまかと避けるな!
って逃げるな!!」
答えが出たから門まで走り出す俺を鎧の人はガシャン、ガシャンと音をたてながら追いかけてくる。
速度は同じくらいだから先に走り出した分の距離は詰められないみたいだ。
重そうな全身鎧でその足の速さはなかなか凄いとは思うけどこんな時に知りたくはなかったな。
「あれ?
ここどこ?」
これは、やばいかも。
道を間違えた。
見た事の無い風景である。
門とは反対方向に逃げてしまったようだ。
広場に出てようやく気がついた。
「貴様!
待て!
斬られろ!」
絶対に止まりません。
それよりもよく叫べるな鎧の人。
こっちは全力疾走で声も出せないのに。
まぁ、俺もオオカミに追いかけられた時は声も出せたし人は必死になると結構出来るもんだな。
今は知りたくなかったけど。
とりあえず右の方の道へと走る。
「【ダッシュ】!!」
「!?」
なんか急に鎧の人の足が速くなりやがった。
やばい。
どんどん距離が狭まって来たぞ。
もう手が届きそうだ。
片手で剣を上段に構えてもう片手で俺を掴もうとしてる。
あれ?
俺もそのスキル持ってたような。
「【ダッシュ】」
「スキルを使うな!
卑怯者め!」
うぉ!?
一気に加速したぞ!
そして鎧の人よ、先に使ったのは貴方の方ですよ。
それにしてもどんどん距離が開いていくな。
このまま撒いた方がいいかな。
でもこの辺りは人通りが少ないな。
大勢の人の中に紛れるのは無理だな。
なら建物かな。
「一か八かで。」
曲がり角の近くの建物に入って隠れた。
不法侵入だが仕方がない。
「待て!!」
ガシャン、ガシャンという音と鎧の人の声が遠ざかっていく。
撒くことに成功したようで良かった。
「あ、あの。どなた様でしょうか。」
「!?」
俺の後ろから声が聞こえた。
ここの建物の人だろう。
振り返ると高校生くらいの女の子とレニちゃんよりも幼そうな子供たちが7、8人いた。
ここは保育園か?
「怪しい者じゃない。
俺は黒崎清だ。
名前は清だからな。
ちょっと中が気になって入ったんだ。
ここはどういう所かな。」
突然入ってきた男が怪しくないって言えないけどな。
そんな奴の質問に答えるより警察を呼ぶと思う。
失敗したかな。
「キヨさんですか。ここは孤児院ですよ。」
あ、答えてくれるんだ。
「えるふだ!」
お?
「えるふがきた!」
「やせえるふだ!」
「えるふさん、お話して。」
「あそぼ!
あそぼ!」
おぉ、ちびっ子が俺に群がって来てる。
俺、嬉し過ぎて泣きそう。
でもここでもエルフか。
この世界でのエルフってのは本当にどんな姿なのかね?
「おい、ちびっ子共、俺はエルフじゃねぇが色々な話を知ってるんだぜ。
また来るからその時に話したり遊んでやるぜ。」
「ほんと!!
やった!」
うひひ。
「そういやあんたの名前を聞いていいか?」
「私はメルサです。あのうちの子達がういません。」
「気にするな。メルサちゃん、また来るからよ。」
黒崎 清
【ジャンプ】レベル1